金融そもそも講座

「日本転換」のきっかけにしたい総選挙2026=変化進行中の日本政治

第395回 メインビジュアル

日本の政治が、少なくとも枠組みにおいて大きく変わりそうな情勢だ。まず1月27日公示、2月8日投開票の総選挙(衆議院選挙)が決まった。一年で一番寒く、雪の多い、受験シーズンと重なる時期での総選挙には当然ながら異論が多い。大義を問う声もある。しかし高市総理が専権事項として決断した以上、その日程で動くこととなり、結果次第では日本の政治勢力図に大きな変化が出る。自民党と離縁したばかりの公明党は、今まで対峙してきた立憲民主党と「新党=国民改革連合」を結成した。政治構造変化は、日本の経済政策の方向性も変えうる。

もっとも参議院は去年の7月に選挙を行ったばかりで、次の選挙は2028年の夏。2026総選挙で高い高市支持率通りに自民党が大勝したとしても、参議院では「勢力図(議席の)は政権与党不利」の状況が続く。またマーケットは「高市自民の勝利」を見ているが、各選挙区での公明党の基礎票(1万ないし2万と言われる)がなくなった場合の自民党候補者の勝利確率には疑念も残る。高市人気の深度が問われる選挙だ。また日本維新の会(吉村代表)は再び「都構想」を持ち出してきていて、連立関係が今後も維持されるのか分からない。

高市首相の思惑通り高い支持率を支えに、与党の自民党が現在の191議席を大きく上回る233議席の過半数(総数は465議席)を確保出来れば、日本の政治地図は変化する。

公明の「中道保守」に対して日本維新の会の一般的イメージは「改革保守」であり、その「連立の枠組み変化」の持つ意味合いは大きい。年明けのマーケットでの株価上昇は「選挙後の積極財政を好感」と解説されることが大きいが、筆者は「初の女性宰相+改革保守」の組み合わせがもたらす「変化」も歓迎しているのだと思う。自公政治は過去となった。

連立相手入れ替えの意味は大きい

自民党の連立相手が公明党から日本維新の会に代わったことの影響、特に外交、経済政策面でのそれは実に大きい、と筆者は見る。毎週大阪のテレビに出ていた頃、よく彼の地で「それ、総理に伝えます」という公明党のポスターを見た。「私たちの党を通じて、あなたの声が総理に届きますよ」という意味だと理解した。そして実際に自公政権が26年間も続いたということは、自民党も必要性があったから公明党の要望を政策に取り入れてきたということだろう。

公明党が「総理に伝える」と宣伝していた声は、主に支持基盤である中小企業や商店主などのそれだろう。政治に「支援」「制度的優遇」を求めるものだった。公明党と組んできたが故に、自民党もどちらかと言えば、財政支出に寛容だった気がする。それもある意味「積極財政」だ。むろん、それに関しては賛否があった。

しかし今回高市首相が掲げる「(責任ある)積極財政」は自公時代のそれとは別の意味合いだと筆者は考えるし、よって市場も強く支持しているのだろう。肉付けはこれからだが、この場合の「積極」は、新技術を開発し、企業を強くし、日本の対外経済力を強める為のものだと期待する。そう考えれば、四半世紀続いた連立(自公)とのスタンスの違いは明らかだ。

外交では公明党はどちらかと言えば平和主義で、経済政策でもあまり「日本経済の競争力を増す」という方向性は見えなかった。もっぱら政府に「弱者支援」を働きかけてきた。その公明党が政権党の自民党と絶縁したことは意外だった。「もう総理にその声は届きませんよ」と支持者に言ったに等しいのだから。

どういう力学が働いたかは、ここでの論点ではないが、斉藤代表と高市首相のケミストリーが違いすぎたとしか思えない。しかしその展開の中で「日本維新の会」が自民党の連立相手として急浮上し、公明党が自民党と一番対立している立憲民主党と組む。選挙協力の面が強いにしても、「昨日の味方は今日の敵」という興味深い展開。

日本の政治の枠組みは大きく変わりつつある。「改革保守」とされる政党は、公明党とは違う。外交・軍事政策などはむしろ自民よりも積極的なイメージもする。「改革」がタイトルに付いているのだから、「自民+維新」が進める積極財政にマーケットが期待を高めるのは当然だ。

総選挙の結果を今から予想することは出来ない。やはり26年も続いた組み合わせは、双方にメリットがあったのだろう。選挙を決めるのは、最後は票数だ。これから読みが始まる。しかし高市首相率いる自民党が議席を伸ばし、そして吉村代表率いる日本維新の会が連立相手としてしっかりすれば、日本の政治は自公時代とは大きく変わる。

先進国に「第三世界」を

筆者は1月最初のコラムで今年からの日本経済の課題に関して

  • 1.本当に「強い経済」を作って、中国にも米国にも“より一目置かれる存在”になれるのか
  • 2.対外的には同じ悩みに直面する欧州とどの程度共同歩調をとれるか

と書いた。様々な放送でも、「“先進国による第三世界”の結成」という言葉を使っている。今まで一般的に使われてきた「第三世界」という単語は、非先進のどちらかと言えば途上国の集まりという意味だった。しかしトランプ米大統領が「G2」という単語を使う背景には、「世界を取り仕切っているのは米国と中国だ」「先進国か途上国かというのは関係ない」という意識が強いのだと思う。

しかしそうだろうか。やはり国民一人当たりのGDP(国内総生産)が数万ドルに達する先進国は、G2に入らない存在だろうと、世界の円滑な運営に寄与できると筆者は考えているし、日本は同じくG2からはじかれた欧州諸国とタッグして、「先進国の第三世界」を作ることが必要だと思う。「米中以外の大きな、独自路線をある程度持つ先進国集団」という位置づけだ。

とにかく「国が強い」という事が肝要だ。トランプ氏の世界観では「強さ」は重要だし、トランプ氏後の世界でもそうだろう。強くなければ、他国から軽んじられる。日本は戦後の長い時期、世界で第2位のGDPを誇ってきた。これは十分に強かった。しかしその順位は、今は4位から5位へ落ちてきているし、今のままだとこの傾向は続く。インドなどの台頭は当然予想される。少なくとも国民一人当たりのGDPでは高い水準を保って欲しい。

日本は今後も綺麗な国土、豊富な観光資源、依然として高い科学技術力、それに豊かで蓄積した資本で世界のリーダーの一翼を担える国だろう。米中の規模とは人口も市場規模も違う。しかし米中とも「強い国には敬意を払う」と言う面では同じだ。今の中国の高市いじめは、「{日本}がある程度米国から距離を置かれた」と読んでいるから進行中と筆者は思う。

その意味では、日本は「強い経済」「高い科学技術力」を維持しながら、連携できる他の先進国と強く協力する必要がある。筆者は高市政権がその方向に進む可能性はあると思っている。その面で今回の総選挙は最初の一歩となるか注目したい。

再び「電気国家→日本」を

多分「強い国」というのは「リスクにきちんと対処できる国」という意味だろう。リスクに脆弱な国は「強い国」にはなれない。毎年この時期にはイアン・ブレマー氏が率いるユーラシア・グループが、「その年の10大リスク」というのを発表している。2026のリスクの上位は以下の通り。

  • No.1 米国の政治革命
  • No.2 「電気国家」中国
  • No.3 ドンロー主義(トランプ氏版モンロー主義)
  • No.4 包囲される欧州
  • No.5 ロシアの第2の戦線

この中の「トランプ・リスク」は日本でもかなり報じられた。しかし筆者が「強い日本」を考える上で非常に重要なのは第2のリスクだ。『「電気国家」中国』。この点は日本のメディアでもほとんど取り上げられていない。『「電気国家」中国』が重大リスクの2位だと指摘されてピンと来る人は多くない。筆者も発表全文を読んで初めて理解できた。リスク2の書き出しは、次の文章で始まる。

「The defining technologies of the 21st-century economy run on electrons: electric vehicles (EVs), drones, robots, advanced manufacturing, smart grids, battery storage—and yes, AI.」(21世紀を定義する技術は、電子で動いている。EV(電機自動車)、ドローン、ロボット、先端製造、スマートグリッド(次世代送電網)、蓄電池、そして言うまでもなくAI(人工知能)だ)で始まる。その通りだと思う。次の文章にキーとなる単語が出てくる。

それは「“electric stack”」だ。stackはなかなか訳すのが難しい単語だ。車のスタックは「stuck」。「stack」はIT・プログラミング用語としては「複数の技術の組み合わせ」や技術の「積層構造」「構成群」を指すことが多い。つまり「“electric stack”」とは「エレクトロニクス産業の基盤となる積層構造、構成群」と理解することが出来る。具体的には「batteries, motors, power electronics, embedded compute」をユーラシア・グループは挙げている。つまりあらゆる電子産業の基礎こそ「“electric stack”」というわけだ。

その上で、同グループは次のように警告する。「この電子の積層構造(スタック)を制すれば、現代経済が求めるほぼあらゆるものを構築できる」「これを手放せば、他者から未来を買い取らねばならないことになる。今や中国はこの“electric stack”を掌握した。米国は今やこれを譲り渡しつつある。2026年、この分岐は無視できないものになる」と。

つまり米国が中国に首根っこを押さえられているのは、レアアースに限らないということだ。これは米国だけに言えるわけではない。日本も真剣に考えなければならない。民生品を見ても、湖南省長沙市に本社を構えているアンカーの製品が増えている。企業分野はもっと「中国の制覇」が進んでいるかもしれない。

高市政権の総選挙をへての経済政策は、日本や世界が抱えている弱点を克服の方向に動くものであって欲しい。「リスクに強い日本経済」の視点からは、今後もこのコラムで取り上げていきたい。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。