金融そもそも講座

日本をターンラウンドさせる年に=2026のスタートに当たって

第394回 メインビジュアル

「日本がいよいよ“より自立”への一歩を迫られる2026年」という印象がする年明けだ。日本の強力な同盟国であり“守護者”の地位にいた米国は、トランプ米大統領が特にそうだが「日本と中国を天秤にかけるような動き」をしている。中国には対米カードがある。レアアースもそうだし、米国にとって重要な農産物の輸出市場だ。トランプ米大統領は習近平主席にヘソを曲げられたくない。同大統領には「国の望ましい体制」とか「同盟国」という概念は希薄だ。利害では心は中国に傾く。

中国は高市発言(台湾関連)をチャンスと捉えて、日本の国際的スタンディングを低下させようとしている。自国に弱点(技術や資本の不足)がある事を知りながら、日本を自国の意思にもっと従う国にしようとしている。しかし成功しないだろう。国内は経済を中心に脆弱で、治安維持に膨大な費用を要す。

今の世界の米中二強体制深化に苦悩しているのは、欧州も同じだ。欧州には危機が間近にある。2026年の日本にとってのポイントは、①本当に「強い経済」を作って、中国にも米国にも“より一目置かれる存在”になれるのか ②対外的には同じ悩みに直面する欧州とどの程度共同歩調をとれるかだ。よく「第三世界」という単語が使われるが、日本と欧州は別の意味の「第三世界」となり得る。それは「米中以外の大きな、独自路線をある程度持つ先進国集団」だ。

高市政権の足取りはまだ怪しい。連立拡大の可能性もあるが、新与党が「閣外」にとどまる限りは政権の綱渡りは続く。しかし今冬で「財政の拡大を伴う自民党以外の要求」は一巡する可能性がある。野党が「財政の健全性」を高市政権攻撃の一番手に据え始めた。「年収の壁178万円」が政党の最終目標である筈がない。自民党を含む各政党は、「もっとこの国を良くする」というもう一段上の目標に収斂(しゅうれん)させる必要がある。それが出来れば、日本のマーケットも「米国の“写真”相場」のレベルを超えられる。

既知政策の効かない国

日銀は去年最後の金融政策決定会合で0.75%への利上げを決定した。このレベルは「30年ぶりの高さ」とか「1年に2回0.25%の利上げをするのは実に35年ぶり」ということで、一部の新聞は「歴史的」と表現した。“歴史的”と言う割には、多くの人にとって喜びも感慨もなかった。

それが何を意味するのかと言うと、日本はもう30年以上も「超金融緩和」と「繰り返しの財政出動」をしてきたが、いまだに「強い経済」を取り戻せていない事を示す。それこそ私は「歴史的」だと思う。よく「中世経済の成長率は極めて低く、良くて1%」と言われる。黒死病など人口急減の時期もあってだろうが、我々が中世に対して暗いイメージを持つのは「変化の遅さ」と「低い成長率」のせいだ。

過去30年の日本が「直近の中世」だったとは言わない。技術革新の変化は速かったし、我々もそれを楽しんだ。しかし低い経済成長率はしばしば「中世」を連想させた。物価は長く低迷。大卒の初任給がほぼ四半世紀も20万円ちょっとだったというのは、「あり得ない事態」だった。テクは進歩していた。とにかく超緩和と財政の出動を繰り返しても、日本は過去30年もの長期に「強い経済」を作れなかった。

それは、今の日本の仕組みでは伝統的政策を続けても、日本経済は成長しないということだ。その意味で、金融政策が別の方向(金利アップ)に動き始めたのは良いことだろう。今までとは違うのだから。しかし相も変わらず続いているのが「財政拡大」だ。総額18.3兆円の補正予算は、高市首相としては「精一杯やった」感があるだろうが、市場がそれを評価した兆しはない。円安トレンドは解消せず。

財政支出拡大に警鐘を鳴らしている一番手が、「立憲民主党」というのが興味深い。マーケットと政界の両方の視点が「政府が借金してお金を使う」ということに警戒感を持ち始めたことは重要だ。引き続き選挙では「バラマキ」は一要素になるだろうが、そこには警戒感の高まりが確かにある。

仕組みを変える

他の国では比較的よく効く「金融政策」や「財政政策」が日本では機能しない。やはり「仕組み」があまりにも硬直的だからだと思う。「責任ある財政政策」と言っても、本当に経済活動の活力を高める正しい方向へのマネーの流れは多くない気がする。省庁あたりの取り分割合が決まっていたりする。だから本当に新しい分野にはお金は届かない。経済活動の活性化には役立たない人件費や後ろ向きの出費に使われているケースが多いと思う。金融政策が効かないのは、日本の大手企業は銀行も顔負けの余裕資金を持っているからだ。トヨタがその代表例。「何か事業をやる」ということになっても、金融機関からの借り入れはしなくて良い。資金需要がある伸びる中小・新興企業はあまり出てきていない。金利上昇は企業活動にマイナスという通説があるが、それは企業が全体に資金不足の時の話だ。

日本の抱える一番大きな問題は「人口の急激な減少」だ。日本は戦後7300万人からスタートした。それが1億3000万人近くまで増加した。経済が高度成長になるのは当然だった。GDP(国内総生産)の伸びに占める人口の役割は大きい。しかし今は違う。人口は毎年100万近く減る。イーロン・マスクに言われなくても、今の人口減少ペースはアラーミングだ。

それは別に対策を打つとして、今の日本が問題なのは生産性が伸びないことだ。労働人口が減っても、一人当たりの生産性が伸びれば、産出量は増える。なぜ生産性が伸びないのか。多分日本人の「従来のやり方をなかなか変えない」という性格もあるが、戦後の高度成長システムがうまく機能したが故に、それを忘れられない日本人が多いのが背景と筆者は見ている。成功体験を振り切るのはどの国でも難しい。その成功度合いが強ければ強いほどそうだ。

それを打破できるのは、いわゆる「(金融・財政などの)伝統的政策」ではなく、「規制改革」だと思う。その中には規制緩和も含まれるし、規制撤廃もある。AI(人工知能)をもっと導入すべきだ。とにかく今の「ガッチリした古い仕組み」をかき回して、日本を「蜂の巣をつついたような状態」にすることだ。社会のセーフティ・ネットの一番重要な部分は残すにしても、仕組みをかき回せばあちこちに化学反応が起きて、新しい会社も生まれるし、新しい事業も出てくる。

高市政権は「女性が初の首相になった」「日本にもそれが出来た」というプラス材料はあるが、やっている政策(財政)は変わり映えしない。巨額の補正予算を見てもワクワクしない。あまりにもデジャブだからだ。「規制緩和」「規制改革」の単語を高市首相の口から聞いたことはあまりない。「責任ある積極財政」は、新しい事を言っているようで全く新しくない。歴代政権が無責任に「積極財政を打った」ということはないだろう。

筆者は、「仕組みを変える」動きがどの程度出てくるかが「2026の日本」には重要だと思っている。トランプ氏がやっていることはめちゃくちゃだが、一つだけ結果的に良いのは「米国(経済)をかき回している」ことだ。起爆剤にはなっている。日本でも「仕組み転換」で新しい企業・産業が出てくれば、市場の独自性は高まると見る。「写真」脱出の好機だ。

日本にチャンス

日本を取り巻く国際環境の変化は速く、著しい。「トランプ氏の対日姿勢は、強いカードを持つ中国とのバランスを取らざるを得ない」という方向で変わってきている。冒頭に書いた通りだ。むろん米国内には特に議会に「中国より明らかに日本との関係を重視する」という議員グループがいて、時々の決議案などにそれが出てくる。しかし肝心のトランプ米大統領には「大国・中国とその指導者との関係を良く保ちたい」という心持ちが見える。それは短期的な「自分の政治生命維持」に役立つ。

トランプ氏のこの性癖は、ウクライナとロシアの和平を追求する過程でも繰り返し顕現化している。米政権の中にも「中国への過度な接近、譲歩は危ない」と考えている閣僚はいると思う。しかし今の米国政治はトランプ独裁に近い。「日本には大事な中国と揉め事を起こして欲しくない」というのが本音だ。

日本は別にこれに危機感を覚えることはない。「そもそも日本は米国に頼り過ぎている」というのが筆者の考えで、健全な意味で日本は対米でも交渉カードを増やすべきだ。それは革新性で優れた日本企業を誕生させることであったり、欧州との枠組みの強化であったりする。日本が独自性を持って力を付けることは、世界にとって悪いことではない。それは今の米中に偏りがちな力の偏在を是正することになるし、中国も米国も日本を見直すきっかけになる。

高市内閣の支持率は高い。高い間に日本経済の力を増すことになる規制改革を大胆に進め、周囲の国々や米欧が、「日本は世界に調和する形で独自の外交戦略に乗り出している」と判断するような動きをすべきだろう。それは日本の魅力を増し、海外資本や人材が日本に集まるスタート台になる。海外のインバウンドだけでもこれだけ来る魅力的な国としての日本。過去を踏襲するような古びた政策を繰り返すのではなく、周囲から「日本は変わった」と言われるような国になって欲しいし、その場合には日本のマーケットも俄然(がぜん)勢いづくと思う。

2026年の日本がそのような方向性に向かうなら、筆者は東京市場がより一層魅力的な市場になると考える。今の段階では、2026年も米市場は堅調との見方が多いので、そういう意味でも日本の投資家にとっても良い年になることを期待したい。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。