金融そもそも講座

ドジャースと米経済は強い!

第352回 メインビジュアル

3月末から4月の頭にかけて、1週間弱ロサンゼルスに滞在した。目的は2つ。1つは間隔を置きながら長く高値を更新している米国株について改めてアイデアを得ること。昨年のサンディエゴに続いての米西海岸。もう1つは大谷・山本2選手のドジャー・スタジアム・デビューを見ること。

残念ながら例の問題による騒動の余波ということもあってか、数字的には大谷選手の調子はあまり良くないように見えた。スタンドから見て、いつもニコニコおちゃめに笑っている大谷さんではなく、表情も渋かった。あの球場に響く快音を伴った彼独特のホームランを見たかったが……。

本人も監督も「タイミングの問題」と言っているので、時間はかかるかもしれないが、新しい通訳でも決まれば(今鋭意探し中だと)いずれ解消されるだろう。何よりも彼に活躍してほしいのは秋(ポスト・シーズン)。今は騒ぐべき時期ではない。人気者ぞろいのドジャースでも、やはり一番人気はオータニだった。拍手・歓声が違う。その感触を得て帰ってきた。

米国経済と株価がなぜそれほど強いのかについては、日本にいる時から大きな関心事。ここでも何回も取り上げてきた。しかし間接情報の集積・分析よりはやはり足を運んでみることが必要ということで、昨年のサンディエゴに続いてロサンゼルスに来た。いろいろ皆さんに報告できることがある。今後2回はそれを取り上げたいと思う。

増加人口と、その撹拌(かくはん)と

ホテルから近かったので、三浦事件で有名になったロス市警庁舎のあたりは朝よく散歩した。ロサンゼルスには観光客が近寄ってはいけない危ない場所も多いが、この辺は大丈夫だ。ロス市警庁舎の左斜めには小さな公園がある。警察庁舎から歩いて数分の公園だから整備されてきれいかと思うと、大間違いだ。

ロス市警に近い公園の道路沿い歩道には、ホームレスのテントが等間隔に並んでいる。一つは焼け焦げていた。テキサス州が同州から米国に入ってくる不法移民をカリフォルニア州にバスで大量に送ってくるらしいので、それらの人の一部が従来いたホームレスに加わった形になっているとも思われる。

日本に伝わる米国関連報道の一つの流れは、米国は経済格差が大きくてホームレスも非常に多く、それは米国経済が抱える大きな問題だと言うもの。確かにそういう面もある。しかし筆者は、「どういう形であれ、人口の増加が米国経済を強くしているのではないか」と思った。人口が減り続け、マイナス金利政策を解除したにもかかわらず一体その次の利上げがいつになるかわからない日本。対して米国は利上げと言えば刻みは0.5%の時も多かった。しかも毎会合(FOMC)ごと足早に。

経済における人口ファクターは大きい。消費が増え、物やサービスの販売数字は上がる。米国は国に入ってくる人間の数が依然として出ていく人間の数を大きく上回っている。米国女性の合計特殊出生率は、日本のそれよりもはるかに高い。米国の人口は、予見しうる限り増え続けるだろう。

格差が拡大して貧しい人が増える事は、米国の経済力の足を引っ張るのではないかと考える人もいるかもしれない。しかし私は違うと思う。なぜなら、彼らも着るし、食べる。加えて、中南米を経由して入ってくる中国人を含めた入国者(違法・適法を問わず)の中には、やはり一定程度の優秀な人が含まれる。米国は貧しくても優秀な人間に、教育を与えるシステムが整っている。だから彼らはいつか科学技術の向上や生産性アップなどに寄与する。

重要なのは、増える人口全体が時間の流れの中で攪拌されていることだ。それによって、化学反応が生まれて、そこに新しい発想と経済活動が生まれる。今でこそ日本はインバウンドが大勢集まり多様な国になった。しかしロサンゼルスの街中を歩いていると、道路周りで働いている人のほぼ半分はスペイン語話者だし、その他でも実に多くの言語を聞くことができる。多様極まりない。米国の多様性は今さらに増しつつあり、今の日本は残念ながら足元にも及ばない。

外国人がすぐにトップに

「攪拌」は、米国のIT、AI企業におけるインド人トップの台頭・活躍に顕著だ。彼らはインドで最優秀の理科系大学であるIIT(Indian Institute of Technology)出身であると言っても、いとも簡単に著名IT、AIなど大企業のトップにまで駆け上がっている。米国ではインド系の女性が初の女性大統領になる可能性さえ大だ。

日本では考えられないことだ。トップに上り詰める女性の数さえ少ない。米国では、女性の経営トップはまだ珍しいといっても、目を凝らしてみれば日本ほど稀有(けう)では無い。人種の多様性によって、米国には自然と世界中の情報が入る。人口構成や各層が多様性を持つと言うことはそういうことだ。

そして世界中の人材も米国に入ってくる。大谷、山本、鈴木、ダルビッシュや今永を見ればわかる。米国に人材が集まるのはスポーツだけではない。日本人でノーベル賞を受賞する人の中にも、研究の場を米国に求めた人が増えてきた。

科学、情報技術、あらゆる分野で米国にはチャンスがある。そういう印象を改めて強くした。自然とマネー(お金)も集まる。その結果はすさまじい。AI、IT等新しい分野での米国企業の世界覇権の確立だ。飛ぶ鳥を落とす勢いのエヌビディア(AI処理などに必須のGPU=画像処理半導体のメーカー)のフアンCEOは台湾から小さいときに米国に移って来た人だ。

多分米国で許される自由な人とマネーの動きが、米国の優位性を担保している。米国はそんなに心配しなくても中国に対する優位性を保てると思う。中国は日本と同じように女性の進出さえもあまり歓迎していない。治安維持を目的に外国人の流入にも警戒的。日本人のビジネスマンさえスパイの容疑で拘束する国だ。

そんな国が「有意義な人口の撹拌ができる」ようになるとは思えない。中国は見通せる時間的枠組みにおいて、共産党員の男性による熾烈(しれつ)な権力闘争を続ける国であり続けるだろう。中国やロシアにお金を置いておいて安心だと思う人は誰もいない。欧州は戦場を抱えている。インドはとても有望な国だが、ヒンズー至上主義に傾きつつある。今後大きな政治問題になる。

今の世界は、米国に世界中からマネー、そして人が集まらざるを得ない状況なのだ。

強い経済活動の国=米国

私が米国にいた期間を含めて、日本で言う期末期初のマーケットは日米とも荒れ模様だった。日本は機関投資家の期末期初のポジション調整が入る中で荒れた。米国のマーケットも第2四半期を弱いトーンでスタートさせた。

しかし考えてみると、この時期に米国のマーケットが高値からの下落となった大きな原因は「経済が予想以上に強い」ということにある。4月1日に米サプライマネジメント協会(ISM)発表の3月の製造業景況感指数は、好不況の分かれ目の50を1年半ぶりに上回った。

アトランタ連銀が米国内総生産(GDP)を予測する「GDPナウ」は、早速景気見通しを引き上げた。1〜3月期の米実質成長率の推計値を、前期比年率2.3%から2.8%にした。FRB(米連邦準備理事会)による年内3回の利下げは期待のしすぎだったことが分かりつつある。

米国には新興企業が多いから、金利水準は時に日本より重要だ。資金需要は旺盛。金利が下がらないとなると企業運営が難しくなる会社も出てくる。株価は調整した。しかし今の米国株の調整は「経済が弱い故の調整」ではなく、「強い中での調整」であることは念頭に置いておいた方が良い。

ロスの街中を歩いても、景気の良さは良く分かる。物価は高いが、人々の消費意欲は強いと見受けた。やはり収入(労働賃金)が上がっていることが、消費者を強気にしている。一時米国で「チップをなくそう運動」が始まったと聞いたが、とんでもない。あるレストランで食事をしたら、決済画面を回されてチップ割合が大きく表示されていた。「20%、22.5%、25%」の三択だった。

それ以外は「許さん」というスタンスだった。強気に過ぎるが、米国人は受容していた。私がニューヨークにいた当時は10ないし15%が普通だった。チップも高騰している。官民そろって「賃上げ」を論じる日本が弱々しく思えた。

このまま書くと長文必至なので、次回に多様性がなぜ重要か、中国との確執などといったことも含めて、改めて「強い米国経済」について書きたい。ついでに言うと、大谷と山本が入ったドジャースは、この2人の入団で他の選手(ベッツ、フリーマン、マンシーなど)が刺激を受け活気づいたと思われ(笑)、これまた非常に調子が良い。ほとんど負けない。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。