金融そもそも講座

投資とAI その① 限界は明らか

第329回 メインビジュアル

「はたして投資の世界で人工知能(AI)、特に最近話題のChat GPT(日本ではチャットGPTとも表記)はどう使えるのか、または使えないのか」という問題意識をもって調べてみた。いくつかの質問をぶつけ、その答えを紹介したい。「AIと投資」の関係は恐らく息が長いので時間をかけて検証したいが、今回はまず第1回。この問題は、今後間隔を空けながら数回にわたって取り上げたいと思う。

そもそも今とっても話題の「チャットGPT」とは何だろうか。「チャット」とは普通の意味で「おしゃべりすること」だ。問題はGPT。単にその単語をそのまま覚えている方も多いかもしれないが、見れば分かる通り短縮語だ。もとの英語は

「Generative Pre-trained Transformer」

と表記される。その意味は詳述するが、今回私はこの文章を書くに当たってチャットGPTを開発したOpen AI社のサイトから登録(申し込み、項目記入、各種設定)し、そこから直接回答を引き出す方式を採用した。

スマホなどのアプリショップをのぞくと、数種類のAI対話アプリが出てくる。しかし筆者がこの文章を書いている時点で、同社が公式に公開したチャットGPTのアプリは存在しない。あくまでブラウザーベースだ。なので、同社サイトから直接質問して得られた日本語ベースの回答を紹介する。

一つ断っておかねばならないことがある。それは「この世界の進歩はとても足が速い」ということだ。「3.5が出てすぐに4.0が出て、その間に一億人がダウンロードし」というニュースでそれは明らかだ。私がこの文章を書いた後に読者の皆さんが同じ質問を入れても、違った回答が出てくる可能性がある。

意外に慎重

思いつくままに、まず次のように質問してみた。

「今後、日本のマーケットでは、どのような銘柄に投資したら良いでしょうか」

出てきた回答=投資に関しては、個々人の投資目的やリスク許容度、投資期間などに応じて最適な銘柄が異なります。また、市場環境や企業の業績なども変化するため、一概にどの銘柄が良いとは言えません。ただし、日本市場全体の動向については、以下のようなポイントが挙げられます。

・日本政府が推進するデジタル化やグリーン社会の実現に向けた政策が進んでおり、それに関連する銘柄に注目が集まっています。
・また、日本企業は世界的に高い技術力や品質を誇っており、海外展開によって成長が期待される銘柄もあります。
・一方で、新型コロナウイルスの影響やグローバルな不確実性も依然として存在しており、リスクを把握した上で投資することが重要です。

投資に関しては、専門家の意見や情報を参考にしながら、自分自身が納得できる投資先を選ぶことが大切です。

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読んで「頭と最後の部分は模範的な回答」「その中間の3点は見方が分かれる」と思った。端的に言えば慎重すぎて私の要望には応えていない。

Generative Pre-Trained Transformer

「トヨタ自動車は買いでしょうか、売りでしょうか」という質問もしてみた。同社の株価が最近ずっと1800円から1900円ちょいのレンジであることを承知の上で、日本を代表する銘柄の一つなので聞いてみた。そしたらまた「私は株価予測や投資アドバイスをすることはできません。株価は市場における供給と需要のバランスによって決定されるため、将来の株価変動は予測できないことが多いからです」と始まった。さらに「投資はリスクが伴いますので、自己責任で行うことをお勧めします」と続く。

最初にGPTは「Generative Pre-Trained Transformer」の短縮語であることに触れた。では改めてそれぞれの意味を見てみる。

Generative=生成的な
Pre-Trained=事前に訓練された
Transformer=トランスフォーマー、変化させる人

上(generative)と下(transformer)は良く分かる。生成AIとか表記される「生成」がgenerativeだし、transformerは2007年の同名の映画が大ヒットした。つまり「変える」「転換する」という意味で、質問者が投げた問いを回答(文章、画像、プログラムなど)に転換して示すという意味だ。

では「Pre-trained=事前に訓練された」というのはどういう意味か。端的に言えば、「制作会社(チャットGPTの場合はOpen AI社)がAIを使ってプログラミング(訓練)した」ということを意味する。ネット上の膨大なデータ(文章、写真、映像などなど)を読み込み、記憶させ、質問者の問いに素早く、かつ適切だと思われる風情に回答するという意味だ。

データが古い?

ここが一番重要なポイントだ。つまり誰が、どう訓練したのか。AIだから全部自分でやっていると思うのは間違いだ。主体(国であれ、企業であれ)の存在・関与があり、与えられたデータからコンピューターが文章や絵画、デザイン、ソフトウエアを生み出しているということが、Pre-trainedという単語から分かる。

ちなみに「トヨタ自動車の最近の業績については、どう判断しますか?」と聞いた。出てきた回答は「2021年のトヨタ自動車の業績については以下の通りです」と出てきて、さらに「2021年1月〜12月期の連結決算において、売上高は32兆5834億円、営業利益は2兆6083億円となり、ともに前年同期比で増加しました」となった。

筆者は「2021年のデータかよ」「古すぎる」と思った。そしてここにチャットGPTが出してくる回答の一番の弱みがある。「投資の観点」からすれば、かなり過去のデータからしか回答を呼び起こせないということ。一般的に今のチャットGPTに読み込ませたデータは「2021年9月まで」と言われている。つまり古いのだ。これでは瞬時瞬時のニュースで相場が動く世界ではなかなか活用が難しい。

もっとも同社はこの「データの古さ」を気にして、最新データを活用可能にするプラグイン(Chat GPT plugins)を開始した。これは対話でのAI利用とサードパーティのサービスデータを活用しようというもの。ただし同社が使っているデータが総じて古いことは念頭に置いておく必要がある。

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その代わり、古いことを聞くと「私は知っています」とばかりに信頼できそうな回答が返ってくる。「トランスフォーマーはいつの映画だったかな」と思ってチャットGPTに聞いたら

「映画『トランスフォーマー』は、2007年に公開されました。この映画は、米国の玩具メーカーであるハズブロ社が展開する人気玩具『トランスフォーマー』を原作とした、SFアクション映画です。監督はマイケル・ベイ、主演はシャイア・ラブーフとメーガン・フォックスが務めました。この映画は、世界中で大ヒットし、その後もシリーズ化され、現在までに5作品が公開されています」

確信に満ちた回答だ。筆者は今紹介しているチャットGPTのいくつかの回答を検証していない。しかし最後の回答に関しては「信頼出来る」と思った。つまりPre-Trainedなので、既に学習を終えている過去についてチャットGPTは非常に強い。データが正確であれば、だが。

チャットGPTは過去の出来事を振り返るリポートを書く分には役立つ。しかし目も口も、足もないAIなので「今何が起きているのか、その中でどういう判断を下すか」が必要な投資の世界ではそのままでは活用できる範囲は限定される、というのが私の判断だ。

チャットGPTについては今議論百出。イタリアはプライバシー侵害を理由にこの利用を国内で禁止し、Open AI社もそれに応じた措置をとった。しかし役立つ分野も多いとも思う。引き続き検討を重ねていく。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。