金融そもそも講座

踏み出す1年にしよう

第323回 メインビジュアル

今回は2023年が明けて初めて執筆した原稿となりますが、予想通りアップダウンが激しくなかなか難しいマーケットとなっています。今年もまっすぐに見据えてリスクとチャンス、マーケットを取り巻く環境の変化をしっかりとお伝えしていきたいと思います。

「そもそも講座」なので、時に入り口論的な話を織り交ぜながらマーケットのお話、特に若い方向けの話題を入れていければと思っています。若い方々に限らず「将来使えるお金」をより多く準備しておきたい、増やしたいと考えるのは自然です。特に「今自分が持っているお金は金利も低く“死に体”」なので、それをうまく可動化したいと思っている方も多いはずです。可動化とは「うまく回す、増やしながら使う」ということです。

個々の相談をこのコーナーで受け付けるわけにはいきませんが、それぞれの方は証券会社や銀行に相談すれば丁寧に相談に乗ってくれると思います。

意味あるNISA拡充

筆者が今注目しているのは2022年末に政府が正式決定したNISA制度の拡充・恒久化。正直言って、今まではNISA制度は規模が小さく、「使い勝手が悪い」と筆者は思っていた。だから使ってこなかったし、そう思っていた投資家も多いだろう。

しかし「新しい資本主義」を掲げる岸田政権は「貯蓄から投資へ」の流れを確かなものにするために、このNISA制度の抜本的な改革を正式決定した。まずは「制度の恒久化」。今までは時限措置としての制度だった。期間延長もあったが、この原則は変わらなかった。しかし今回それが無期限となった。これはこの制度を使って投資しようとしている人にとって大きな安心材料だ。期限がある限り、その資金を制度終了以前に動かさざるを得ない。その心配がなくなった。

次に「非課税保有期間の無期限化」も決まった。現行の一般NISAでは、購入した金融商品から得た配当金や譲渡益(売却益)といった利益が非課税になる期間は5年間と決まっていた。短い。5年などすぐ過ぎ去る。しかし今回のプランでは、「生涯」という時間軸での上限枠を設けることを前提に、非課税保有期間を無期限化することを盛り込んだのだ。大きな前進だ。「節税」というのは投資の重要な要素。なので使える制度になった。

最後に投資上限枠の増加。現行NISA制度の年間の投資上限金額は「一般NISA」が120万円、「つみたてNISA」が40万円だ。筆者はこれをずっと「小さ過ぎる」と思っていた。現在これを2〜3倍にする案が検討されている。生涯の投資上限も1500万円を超える可能性が高い。とすれば、これは比較的大きな資金を動かしていた個人にとっても「使える制度」となり、若い人たちも長い目で使える制度となる。

NISA制度に加えて現役の方々には「iDeCo(個人型確定拠出年金 通称『じぶん年金』)」もある。これらを組み合わせれば、非常に多様なマーケットへの参加ができる体制になりつつある。

まず踏み出す

もっともマーケットへの「入り時」「参入時期」は常に難しい。世界の情勢が大きく動いているからでもあるが、マーケットとはそういうものとの見方もできる。日本の株価もニューヨークの株価を含めた世界の株価も日々かなり変動している。上がったと思ったら下がるというケースも多い。一方で円安に進んでいた為替は、ドル当たり20円以上も巻き戻して円高になったりもしている。ドルの動きは海外投資をしている方は気にせざるを得ないと思う。

ではどうしたら良いのか。筆者がいつも思っているのは、「まず足がかりを作る」ということだ。「今買うべきか待った方が良いのか」をあまり考えずに、「とにかく口座を設けて、自分が気になっている銘柄を少額買う」という方法だ。NISAを使う手も、証券会社(ネット利用を含めて)に新規口座を設ける手もある。

「頃合いを見計らってドン」ということができる人はいい。新聞には「億り人」の話も結構載っているし、「自分もそうしたい」と思っている人もいるかもしれない。しかしそれは少ない成功例だ。筆者が周りで見ているかぎり、あまり成功確率は良くないように思う。一度大きな成功に酔いしれると、それがその後のアダとなる場合もある。マーケットではプロでも勝ち続けるのは難しい。

それよりも、少額で良いので「とにかく踏み出してみる」のだ。自分の持っている資金のうちのごく一部、少額で良い。踏み出すと経済の動きや個々の企業(銘柄)に関心を持つことができる。街を見る目、新聞で読む記事が変わってくる。

良く「マーケットは6カ月先の経済を読む」と言われる。それは例えにしかすぎないが、実際に投資に踏み出した人にしか見えない世界はある。それは結構面白い。「億り人」になった人も実は非常に地道な研究を続けた結果だという人が多い。

おごらず、焦らず、落ち込まず

踏み出したらあまり一喜一憂しない。「喜」「憂」も軽くかみ殺すほどが良い。それをあまり短期間で繰り返すのも良くない。疲れる。筆者自身の投資経験からして、長い目の投資の方が成功確率は高い。「喜」「憂」を軽く受け流しながら。

一歩を踏み出した後はマーケットを見る目が深くなる。それにつれて、着実に自分の投資の世界を広げていくことが必要だと思う。今の世界経済はつながっている。遠く欧米で進行している戦争が、世界中の物価を押し上げた。その物価は米国ではピークを打ちつつあるが、日本では日々深刻な問題だ。優等生だった鶏卵さえ大きな値上がりのただ中にある。鳥インフルの影響もあるが、世界的な餌代の高騰も大きな背景だ。

とにかく世界を「つながり」の中で見る癖を作るのが重要だと思う。世界には「バタフライ効果」という言葉が、日本には「風が吹けば桶(おけ)屋がもうかる」ということわざがある。テレビ番組のタイトルには前者が選ばれているが、同じ事を言っている。実はそのつながり、関係性を読むのが株式市場だ。それは推理ゲームのようで実に興味深い。

長く投資の世界にいた筆者からすれば、スタンスとして重要なのは「おごらず、焦らず、落ち込まず」だろうか。勝てることもある。しかしそれにおごれば、その後必ずしっぺ返しが来る。それは不思議なくらいだ。焦ってもいけない。100億人近い人口が形成する世界とその経済はずっと動き続けているし、今後もそうだろう。その一回でなくなるチャンスなんてほぼない。チャンスはまた巡り、そしてリスクもまたそうだ。

負けると落ち込む。しかし人生を豊かにするためにしている投資。それに負けてひどく打ちひしがれるのは賢明ではなはない。なので、投資は常に自分にとって余裕を持てるお金ですべきだと思う。自分の能力向上に使うのも広い意味の投資だ。その一環としての資金投資、株式投資があると考えるのが妥当だと思う。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。