金融そもそも講座

2023年を展望する

第322回 メインビジュアル

新しい年の最初のコラムとなります。今回は、読者の皆さんが「2023年」を考えるのに必要だと思われるいくつかの重要ポイントを取り上げましょう。おそらく2022年と同じように、様々な“予想外”もあるかもと思います。それは後で触れます。まずは昨年からの持ち越し課題に目を向けましょう。

波乱の中で2022年は幕引きとなった。直近の大きな変化は日銀の長期債誘導目標の拡大。インフレ高進の中で「いつかは方針転換を迫られる」と見られていた日本銀行だが、「あっても新総裁の就任後」と見られていた超緩和政策の変更を、2022年最後の金融政策決定会合で突然公表した。

今年最大の問題は、黒田さんが言うところの「市場機能改善の為の調整」がいつ本格的な利上げに局面展開するのかだ。世界的な物価(エネルギー、食糧など)の大きな上昇の中で起きているインフレの波の中で、日本だけが無風でいられることは考えられない。事実、身の回りの物価はすごい勢いで上がってきている。

コロナ規制の突然の緩和で中国の経済状況は当面は混乱が続くが、その後は?米国の利上げもペースは落ちるが今年も続く。しかし一部銘柄に強い動きもある。ウクライナの戦争に大きな局面変化も出るかもしれない。2023年の日本、そして世界のマーケット。昨年以上に波乱の展開となりそうだ。その中でどういう形で投資戦略を練るか。

大きかったショック

世界を驚かせたのは『国債買い入れ額を大幅に増額しつつ、長期金利の変動幅を従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大する』との一文だ。20日の金融政策決定会合後の公表文に含まれていた。

出てきたのはこの公表文だけで、黒田総裁の説明は東京株式市場引け(午後3時)から30分後。つまり市場は「この文章だけで日銀の政策変更を理解しなければならない」という状況の中、「これは実質的利上げ」と判断した。なぜなら10月前後に日銀の幹部が「変動幅の引き上げは実質的に利上げ」と言っていたからだ。株価は虚を突かれて大きく下がって取引を終えた。

しかし黒田さんは記者会見で、「(指標10年債の)0.25%の上限が市場機能の低下を招いているのでそこを調整した。国債買い入れも増やすし、緩和政策の変更ではない」と発言。さらに「2023年も物価上昇率は平均すると2%以下に収まる」と言って「緩和姿勢継続」とのスタンスを明確にした。

マーケットは納得しなかった。なぜなら明らかに10月時点の一連の日銀幹部発言と齟齬(そご)が生じているし、発言が変わった経緯を日銀がうまく説明できないからだ。問題は、この日銀の姿勢変化が今後どう展開するか。筆者は2023年には日銀は明確に引き締めスタンスへの転換を図ると見る。総裁も代わる、実際に日本のインフレは高進している。

具体的に短期金利面では、「マイナス金利政策」(政策金利残高への0.1%のマイナス金利適用)は最終的に放棄される。そして日銀の日本国債保有残高が50%を超える中で、長期金利の誘導も難しくなると考える。この金利体系の大きな変更は恐らく日本経済の転換の切っ掛けになる。恐らく企業も選別され、市場での銘柄選びの醍醐味が増えると考える。

銘柄格差を広めた米利上げ

米国ではFRB(連邦準備理事会)が政策金利の最終到達レベルを引き上げた。2023年は5.1%ですよと公表している。いままでのターミナル・レート(頂点)は4.6%だったから0.5%も引き上げたことになる。当然この段階では株価は全体的に大きく下がったが、注目すべきは伝統的米国株のリバウンド力だ。

2022年1年間のダウ工業株30種平均やS&P500種株価指数、それにナスダック総合株価指数のチャートを見ると、ダウの安値からの反発力が非常に大きい事が分かる。S&Pやナスダック指数はどちらかと言えば力なく下げ続けている。これは伝統的な銘柄の方が、ポスト・コロナの通常時(人と人の接触を前提とした経済活動)の方が業績を上げやすいし、借金も少ないので利上げが打撃にならない。資産もあるので金利の上昇は有利なことなどが背景だと思われる。

対してS&Pやナスダック指数に含まれる銘柄には新興勢も多くて借り入れが多く、コロナという特殊環境下で業績が上振れした分が剥がれているとも思われる。ということは、少なくとも当面は米国経済をけん引してきたIT(情報技術)銘柄から、伝統的銘柄に主役が移ったとも言える。

これは今後金利上昇局面を迎える日本のマーケットを考える上で重要だ。日本には米国ほどのIT企業集団がなかったが故に過去10年以上の株価パフォーマンスが良くなかったが、今後は利上げ局面で逆に注目される銘柄が出てくる可能性がある。「金利上昇は経済にマイナス」と一般に考えられているが、そうばかりではない。金利の上昇は企業でも個人でも資産を持つ側には有利だ。

2023年、予想外も

当面の中国経済には不安材料しかない。厳しい統制にも関わらず感染拡大が隠せなくなったこと、国内から共産党支配やトップの習近平に対する退陣要求まで出て、ゼロコロナ政策を放棄した。しかし突然の政策変更は中国社会を大きな混乱に陥れた。それは日々報道される通りだ。

2023年にかけての問題は、「今年1月、遅くとも2月には感染のピークが来て、その後は集団免疫状態になる」とされている後だ。新型コロナウイルスは同一人物を何回も感染させることは分かっているし、ウイルスそのものも変異を繰り返し、新しい種が出てくる。それは日本を含めて西側諸国や世界で起きていることだ。

ただし今の「街に人が少なく」「工場もあまり稼働できない」という混乱が今年1年も長く続くとは考えられない。やはり春には大きな転機が訪れるだろう。その時の中国経済がどういう形になるかが問題だ。多分消費は伸び、成長率も回復するだろう。世界経済全体も日本を除いて利上げ一巡の見通しの中で、世界的には先行き楽観論が強まる可能性がある。

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あえて今年起こりうる可能性のあることを思うままに挙げてみると、

  • 1.今は盤石に見えるロシアや中国の統治体制が、思わぬ揺らぎを見せないか
  • 2.バイデン大統領の体調は今は大丈夫に見えるが、それに変化はないのか
  • 3.株価が突然大きな調整に見舞われることはないのか

などだろうか。日本の政治もかなり揺らいでいるが、それは世界でも同じ事。重要なのは、有用な企業の世界的な活動は、今年もその後も続くという視点だと思う。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。