1. 金融そもそも講座

第308回 VIX指数が大幅低下

ウクライナでの戦争激化、新型コロナウイルス禍による世界的な経済活動の制約、そして主要国の利上げなどで30.0(マーケット不安定の目安)を大きく上回っていたVIX指数(恐怖指数)は、ここに来て大きく低下してきた。これに伴い、世界のマーケット、特にニューヨーク市場が1日に何百ポイントも乱高下する一時の不安定さを脱却しつつある。

このまま同指数が低い水準で推移し、かなり長かった今回の調整期間を終えられるかどうかは不明だ。しかしマーケットを見ると、いくつかの大きな特徴が見えてきている。今回はそれを取り上げたい。

日々ニュースにはなる。しかし世界のメディアでの取扱量から見ると、ウクライナを巡る情勢報道はかなりが減少する流れだ。それは戦域がウクライナ東部と南部にある程度限定されてきて、「地域紛争の拡大バージョン」の状態になってきたからだ。

コロナ禍は、上海や北京など中国の著名な都市での事実上のロックダウンがかなり緩和されて、「これ以上の世界経済の制約要因」となる危険性からは徐々に脱しつつある。感染者数も世界的には減少。また主要国の利上げは、目新しい材料と言うよりは「まだ続くことを念頭に」という状況になりつつある。

悲惨だが、落ち着き

日々のニュース(例えば定時のNHKニュース)の順番はいつも気にしているが、最近目立つのはトップニュースの「ウクライナ以外」が増えたことだ。セベロドネツクやその周囲などドンバス地域の戦況は激しいものがあり、市街戦が展開中なので双方に多くの死者が出ているはずだ。しかし、「毎時、ニュースのトップはウクライナ」という状況ではなくなっている。

それは、 ①同地区での戦闘が既に数カ月続き、「明日どう展開するか分からない」という状況からは脱しつつあり、ほぼほぼ想定内の状態継続であること ②ウクライナ関連ニュースに対する慣れが我々にもメディアのサイドにも出てきて、この戦争の動機(プーチンの)、ロシアとウクライナの各指導者の動きなどなどがよく知れわたった ③なので、ニュース(新しいもの)の順位としてより新しいものに代わってきている——という背景。

ミャンマーでの内戦も、同国内部では引き続き悲惨・複雑な状況が続いているが、世界のニュースには既にあまり登場しなくなっている。内戦の同国とは違って、ウクライナの戦争はロシアがウクライナを攻めるという過去の「(国同士の)戦争」のパターンなので、引き続き大きなニュースだ。しかし客観的に見ると現在は「地域紛争」のレベルだ。拡大の可能性はあり世界の注目の的だが、「常に世界のトップニュース」からは離脱しつつある。世界各国では色々なことが起きている。

マーケット的にも、ウクライナ情勢は「やや織り込み」の状態。つまりそれほど想定外の事ではなくなった、という状況だ。マーケットとしてウクライナ情勢を常に懸念しなければならない事情は変わらないが、過去ほどではないということだ。無論いつでも、マーケットにとっても「大きな展開」が生ずる危険性はある。

中国、主要都市でのコロナ規制を緩和

中国は世界第2位のGDPを誇り、14億の消費者を抱える。この国の動向は常にマーケットにとっても大きな材料で、その事情は当面続くだろう。世界でも指折りの「生産とロジスティックの一大拠点」でもあるからだ。

その中国は、特に上海での厳しいコロナ関連規制を6月に入ってかなり緩和した。「市民が外に出て電車・バスに乗れる」というのが緩和の中身で、我々のように「コロナとの共存」を前提にしている社会から見るとやや異常な状態(住民の住居からの外出不可)からの脱却。乗り物に乗るときなど「72時間以内のPCR検査・陰性証明」が必要というかなりの不自由さだが、状況は改善しつつある。

マーケット的に見ると「中国社会の正常化」「従業員が工場に行き、トラックも動く」という状況は、一安心できる。米国の株に比べて日本の株が比較的堅調なのは、隣国の環境改善の影響もある。やっと自動車生産などが国内を含めて正常化の可能性が出てきたからだ。

ただし「当面の安心」なのかもしれない。ワクチン接種が進んだ日本など先進国と違って、中国ではメッセンジャーRNAのワクチンは普及していない。つまりコロナ新種各種に中国の人々は罹患(りかん)しやすい。なので人々の接触が増えれば、またまたコロナが猛威を振るう可能性がある。警戒地域とされるモンゴルや北朝鮮とも中国は国境を接している。

しかしマーケット的に見れば、中国のコロナ禍改善はVIX指数を押し下げる要因の一つはある。

続く世界的利上げ

利上げは世界的な動向になっている。一番報道されている米国では少なくとも秋までのFOMC(連邦公開市場委員会)では各0.5%の利上げが予測されている。この3週間では、ニュージーランド、カナダ、オーストラリアが50ベーシスポイントの利上げを実施し、この原稿を読者の方々が読む頃には欧州中央銀行(ECB)も利上げに踏み切っているだろう。

英国も連続利上げの構えだし、マイナス金利に固執してきたスイスでさえも政策転換が協議される雰囲気になっている。対して日本では、黒田日銀総裁が「急激な円安について様々な批判や不満は承知している」と言いながらも、「(円安は)全体的に見れば、日本経済にとってプラス」と円安を容認する立場を繰り返す。円安が進むのは自然だ。日本株が相対的にしっかりと動いているのは、黒田発言を裏付けているのかもしれない。

問題は黒田さんの期待するように「インフレの高騰が一時的」には終わらない可能性が日本でも高まっていることだ。各国の政治家にとって重要なのは「食料品価格」だが、ロシア、ウクライナからの食料品原料(小麦など)の輸出が滞っている上に、依然として世界的に物流が不安定なこと、全ての製品生産にも必要なエネルギー価格が高止まりしていることで、世界中の食料関連生産会社の収益悪化が続いている。ということは、今後も「値上げラッシュ」が続くと言うことだ。

ということは、各国中央銀行は今後も「緩和縮小→利上げ・引き締め加速」に動く可能性が高い。その中で日銀が「超緩和」を続けた場合は、円安が加速する可能性がある。それをどう評価したら良いのか。その後の緩和縮小への日銀のかじ取りは難しいものになり、マーケットも新しい現実を受け入れる際にはやや不安定になるかもしれない。

VIX指数の低下は歓迎して良い。ただし、いつでもそうだが、世界は不安に満ちている。その中での投資はスリリングだが、時に成果も大きくなりうる。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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