金融そもそも講座

3%を視野に——米引き締めの着地点

第307回 メインビジュアル

マーケット関係者だったら誰でも気になる米国政策金利の先行き。その当面の着地点が徐々に見えてきた。5月初めに行われた0.5%利上げ決定のFOMC(連邦公開市場委員会)の議事録が3週間たって公表され、FOMCメンバー達の考え方が明らかになったからだ。

そこから見通せる米金融当局の引き締め着地点は、どうやら「3%前後」にあると筆者は思う。今の先物市場が示唆する政策金利の先行きは今年末時点で2.5~2.75%で、それが「中立金利の範疇(はんちゅう)」とされているので、米金融当局はそれを上回る水準への短期政策金利の引き上げを視座に入れているようだ。

今回公表された議事録で明らかになったのは、米当局のインフレに対する強い警戒感だ。「inflation」という単語がなんと60回も登場するとCNBCは報じている。それだけFOMCメンバーの関心が「インフレ抑制」に向けられている証拠で、新型コロナウイルス禍初期の「超金融緩和」から見れば大転換。マーケットも落ち着きどころを探さざるを得ないのは当然だろう。

着地点と言えばウクライナ情勢も徐々にロシアの当面の狙いが見えてきた。無論前回指摘した通り「戦争は長期化」の見通しが強いが、今の戦況やロシアの体力から見て「この辺が当面のロシアの狙い」と思われる姿は見える。なににせよ、「今後が見通せる」というのはマーケットにとって良い事だ。

当面の着地点は3%前後の政策金利か

2000年5月以来22年ぶりの「0.5%利上げ」によって、現在米国の政策金利は0.75~1%にとなっている。その前の0.25~0.5%から見ると随分景色が違うが、今回公表された会合議事録では、「今後数回はこの0.5%という倍増利上げを続ける」という方針が示されている。継続は2回になるか、3回になるか、それとももっとになるかは直ちには分からない。

FOMCの会合スケジュールを見ると、次回が6月14~15日、その次が7月26~27日。8月がなくてその後は9月20~21日、その次が11月1~2日となっている。つまり7月までは最低0.5%の利上げを継続し、その段階で米政策金利は1.75~2.0%となる。これではまだ現在の米国の成長力、インフレ状況から見て「中立的」とは見なされない。

10月にもFOMCが開かれないことを考慮すると、筆者は9月のFOMCでも0.5%の利上げになる可能性が高いと見る。今の世界情勢を見ると、エネルギーに加えて食料品も激しい値上げの嵐の中にあり、それは「欧州のパンかご」と呼ばれたウクライナでの戦闘状況や、同国の輸出力の維持の可否が非常に大きなポイントになる。

前回「ウクライナを巡る戦争は長期化」という見方を紹介したが、筆者は実は11月のFOMCでも0.5%の利上げの可能性がある、と見ている。そうすると、米国のその時点での政策金利は2.75~3.0%となる。つまり片足が3%に乗るのだ。

実は毎年そうだが、12月には今年最後のFOMCが開かれる。今年は13、14日の両日となっていて、そこでも利上げの可能性が高い。仮に12月から利上げ幅を0.25%に戻しても、今年末の米政策金利は3.0~3.25%となる。むろん9月や11月から0.25%の利上げに戻すにしても、その場合には利上げの回数が増えると見られるので、筆者は「政策金利が3%台の米国」を予想しておいた方が良いと思う。

むしろ低下の長期金利

ただしここで考えておく必要があるのは、現在既に米国の長期金利が頭打ちから低下に向かっていることだ。この原稿を書いている時点で米指標10年債の利回りは2.751%と一時の引値ベースでも3%に接近したレベルからは大きく低下している。これは株価が下げ基調になっているなかで、マネーが債券市場に一部戻ってきていること、マーケットで「Rの懸念」(リセッション懸念)が高まっていることによる。

そうした中での政策金利の大幅連続引き上げ。「米経済やマーケットはもつのか」という懸念は常にあり、それが今でも見られる時々の「米株価の大幅下げ」に顕現化している可能性がある。やはりこれだけの利上げ局面は、多くの投資家にとって未経験の領域であり、恐らくニューヨークの株価が長期にわたって上げ局面にあった過去30年ほど(どこを起点とするかは議論があるが)に投資を始めた方々には未体験だろう。

実はこれはFRB(米連邦準備制度理事会)も懸念していることだろう。FOMC委員の平均年齢は高く、彼らは株価が高いときも低いときも知っている。しかし彼らはまた、多くの投資家が「下げ局面未経験」の今の時代に、どう金融政策を進めたら良いのか手探りの状態だと思われる。前回のFOMC後の記者会見でパウエル議長が「マーケットとの対話」について何回も記者に質問を受けたのは当然だ。無論「うまく行っている」というのが議長の返答だったが。

米政策金利がどこで「上げ一服」になるかについては議論がある。仮にFRBが2%のインフレ目標(今はそれをはるかに超えて8%台)を長期的には達成できると考えるなら、政策金利も長期的にはその近傍に落ち着くはずである。しかし今は「高くなってしまったインフレ率をなんとか下げる」作業の最中だ。

割れる委員間での見方

FRB自身はどう見ているのか。5月初旬のFOMCで公表されたプロジェクション(自身の予測)によると、2023年と2024年に政策金利が3.5~3.75%に達すると見ている委員が各2人居る。しかし全体的に見ると、この両年の政策金利見通しはFOMC委員の間でも大きく割れていて、低い人は2.0~2.25%を見ている。その差たるや1.50%に及ぶ。

「今はインフレにモメンタムがあるので、それに対応して政策金利の上げにもモメンタムが付く。しかしその後や行き過ぎから比較的早期に引き上げにストップがかかり、その後は0.25%刻みの下げも」というのが筆者の見立てだ。もちろんFOMC委員の間でも大きく意見が割れている中で、筆者の見立て通りになるとは限らない。しかし当面はそう見ても良い理由はかなりあると思う。

  • 1.ウクライナを巡る攻防はロシア国内でも今回の戦争開始に対する批判が公に出てくる中で、ロシアが大きく方向転換する可能性が年末に向けて強くなる
  • 2.その時点でルガンスク、ドネツク両州をはじめとしたウクライナ東部や南部ヘルソンなどの帰属がどうなるか分からないが、両国ともそれほど長期の戦争継続は無理で、何らかの形で膠着する可能性がある
  • 3.今はゼロコロナ政策を続けている中国も、秋の党大会を機に国内でも批判の強い政策の転換を図ってくる可能性が高い

など。なので筆者は一応の目安として、「3%がらみの米政策金利」を当面の着地点に据えてマーケットを考えれば良いと思っている。それは今までの超緩和から現在の「中立に戻す努力→景気に対するイーブンな"中立"段階」を経て、米金融政策が景気にややブレーキを掛けるレベルに達することを意味する。今回の議事録からもそのFOMCの意図は読める。

いずれにせよ今年マーケットは「攻めのFRB」と付き合いながらの展開となる。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。