金融そもそも講座

金利の高い時代に

第304回 メインビジュアル

今回の号から新年度です。新しい希望を持って学校に入学したり社会に出た方も多いと思います。今までもこのコーナーは「そもそも講座」の名前にふさわしいように「分かりやすい解説」を心がけてきましたが、編集部では今後改めて学生生徒の方々を含めた若い方々や30~40代の投資初心者の方々を念頭に置きながら、「若者や初心者に経済・投資に興味を持ってもらう」との方針に基づいて「man@bow」を編集するようです。とっても良いことなので、私もその方向で原稿を書きたいと思っています。

といってもせっかく金融(アナリストなど)や報道(テレビ・ラジオ・ポッドキャスト出演、原稿執筆など)の世界に長く籍を置いた私が書くのですから、「今起きていること」をベースにしながら、経済や投資を現在起きていることとひも付けて解説し、読者の皆様の参考にしていただければと思います。

年度替わりで今思うことの第1は後述もしますが、若い頃から投資、具体的にはお金の運用の仕方を学ぶ重要性です。世界ではいろいろなことが起きています。新型コロナウイルスもウクライナも我々の想像を超えていました。超低金利ももうすぐ終わり、お金には「金利」が目に見えてつく時代が来ます。読者の皆さんの経済を見る目を養う一助となり、人生の選択肢を増やす資産形成の仕方を、ここで少しでも学んでいただければうれしいと思います。

ではご一緒に。

なんと、土日も働く"金利"

原稿を書くために今朝起きて一番驚いたのは、米国の長期金利が2.6%台に上がっていたこと。背景は米国の金融当局の強い引き締め姿勢にあります。それに伴って円はドルに対して値下がりしており、このままだと最低1ドル=130円程度まで行きそうです。日本と米国の金利差が開いたため、「米国にお金を置いた方が有利」と考える人が増えたと思われます。

日本ではまだ日本銀行が「超緩和」のスタンスを変えていませんが、「将来は変えてくるだろう」と私は予想します。高い金利で米国にお金が流れて円安が進むのは、日本にとっての購買力(石油や小麦を買う力)の低下を招きますから、好ましくない面があります。日本もいつか対応せざるを得ないでしょうし、実際に物価も上がっています。

ところで皆さん、金利で一番面白いことはなんでしょう。それは貸す方にとっては「金利は土日もしっかり働いてくれる」ということです。我々は普通は土日は休みますが、金利は違います。もし皆さんが投資をして金利が付く商品(債券)や株(配当利回りある銘柄)を買っていたり、お金を銀行に預けたり、他の人に貸していたら、確実にその資金は土日も働いてくれます。「年○%」にはしっかり土日分も入っているのです。今の日本は低金利ですが。

ある国の金利が「上がる」ということは、それ自体は世界中の投資家にとって魅力的なことです。なぜならその国の妥当な金融商品を買えば、自分のお金が「よりよく働いてくれる」「より多くの金利収入をもたらしてくれる」からです。米国は世界最大のGDP(国内総生産)を誇る国。その国の金利(長期の対象となる債券などの)が上がると言うことは、とても魅力的なのです。

世界は低金利時代に幕?

世界最大の経済大国米国の金利が、世界に先駆けて上がり始めました。ここで重要なのは、今の日本が置かれている「低金利時代」は実は世界の趨勢からすると「ロスト・ワールド」になりつつあるかもしれない、と言うことです。

一般的に過去20年ほどの世界が非常に低インフレ、低金利になり日本では「デフレ懸念」さえ生まれたのは ①世界的な技術革新が進み、商品が非常に効率的に生産できるようになった ②東西の壁が崩れて、世界中(北朝鮮など一部の国を除き)の国の労働者が労働賃金のレベルを問わずに世界経済に組み込まれ、その結果人件費が世界的に見れば下がった ③エネルギーや食料品なども採掘・生産コストの低下によって値段が下がったことなどによると思われます。

しかし今の世界は大きく2つに割れています。米国など制裁する国と制裁される国です。大きく言ってロシア・中国、それにあえて言うと北朝鮮が「制裁される国」に分類され、一方に日本が仲間の制裁する国(一般的に西側)があります。もちろんその中間の国(インドなど)もありますが、「世界経済のグローバル化」とはもう手放しでは言えない状態。西側はロシアの石油・石炭・天然ガス依存からの脱却を図ろうとしています。多分そうなるでしょう。

ということは、過去の世界で一番物価に大きな影響を与えてきたエネルギーの分野で、少なくとも我々が住む西側では「高価格」が続くと言うことです。石油・天然ガスの低価格維持が世界における物価状況の安定に寄与していたのに、それが「あって当然」の世界ではなくなりました。覚えておきたいことです。

人生に重要なバッファー

ところで期初に当たって若い方々には改めて、「今という時代」を生きる上での1つの重要なポイントをお伝えしましょう。それは「バッファーを持つ」ということです。とにかく「衝撃」の多い時代です。コロナもそうだし、ウクライナもそう。「起き得ないだろう」と思ったことが次々と起こっています。

そこで必要なのが「バッファーとしての資産」です。皆さんの中にもそういう方がいらっしゃるかもしれませんが、新型コロナの拡大によって休職に追い込まれたり、場合によっては職を離れざるをなくなった方もいます。新型コロナもデルタからBA.1→BA.2と変異が続いています。その後はまた新たな展開があるかもしれません。つまり我々は「読めない時代」にいるわけです。バッファーはショック緩和に役立ち、時間が稼げます。

筆者自身も人生の節々で転機がありましたが、何が良かったかというと若い頃から比較的「バッファーが厚かった」ということです。原稿は若い頃から書いていましたから、その分がエクストラの収入としてあったし、投資を始めたのも早かったと思います。そうしたたまったバッファー(貯蓄・投資)が心の安心を与え、私自身にずっと「選択肢の幅」を与えてくれていたように思います。

スタートが肝心です。そこで少し我慢すれば、その後はうまく回転します。「最初の確実な一歩」が必要なのです。その一歩を踏み出せれば、その後はバッファーは徐々に厚くなり人生が進むにつれてそれが強い味方になります。

何が明日起きるか分からない時代。友人関係も必要だし、社会での立ち位置の確保も重要。しかし資金的なバッファーも非常に大きな力になる。是非。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。