1. 金融そもそも講座

第303回 「安定利上げ」局面に

中国経済に降りかかる新型コロナウイルス禍の重荷、引き続き展開不透明なウクライナ情勢など見通しが立たない事ばかりの中で、3月中旬のFRB(米連邦準備理事会)の利上げ開始にマーケットが見たのは「一条の光としての予測可能性」かもしれない。今後残り6回のFOMC(米連邦公開市場委員会)毎に、0.25%を中心に「安定の利上げ」が続く見通しなのだ。それを軸に投資戦略が立てられるという安堵感。

あれだけ「金利が上がる」と警戒していたFRBの利上げが実際に発表されると同時に、株価が当初大きく上げたことをけげんに思う向きもいるかもしれない。しかし「sell the rumour, buy the fact」はマーケットにしばしば見られる現象。その逆も真。今回もことわざ通りの展開となった。

しかし筋は見えたが、それが曲がらない筋かと言えば違う。5月の利上げ幅に関しては0.5%説もあるし、実際にFOMCが示した予測資料では今年の米インフレ率は前回12月のそれより大幅に引き上げられた。一方にあるのが成長率の低下。そこに見えるのは、パウエル議長が否定してマーケットは好感したものの、やや長期的に見た場合の米欧経済スタグフレーションのリスクだ。

もっともマーケットは何時でも「リスクとの戦い」であり、先が見えないのは別に今回だけではない。機敏にマーケットの動きを読みながらの投資は「読みの妙」の発揮しどころであり、今のマーケットでもそうありたい。

FOMCの読み

まず今後のマーケットに大きな方向性を与えた3月中旬のFOMCが何を語ったかを見ておく。第2パラに今回の声明のポイントがある。「The invasion of Ukraine by Russia is causing tremendous human and economic hardship. The implications for the U.S. economy are highly uncertain, but in the near term the invasion and related events are likely to create additional upward pressure on inflation and weigh on economic activity.」(ロシアによるウクライナ侵攻は膨大な人的、経済的苦難を引き起こしている。米国経済にとっての意味合いは極めて不明確だが、しかし短期的には侵攻とそれに関連した出来事は物価上昇に追加圧力を生み、経済活動に重荷になる可能性が高い)と書く。

その認識の中で「the Committee decided to raise the target range for the federal funds rate to 1/4 to 1/2 percent and anticipates that ongoing increases in the target range will be appropriate. In addition, the Committee expects to begin reducing its holdings of Treasury securities and agency debt and agency mortgage-backed securities at a coming meeting」(FOMCはFF金利の目標レンジを0.25〜0.5%に引き上げることを決め、今後についても目標レンジの継続的引き上げが妥当だと予測する。加えてFRBが保有する米国債と不動産担保証券保有量の削減開始も次回FOMCから開始する見込み)と具体的措置を決定した。

重要なのは「目標レンジの継続的引き上げが妥当」という部分。これを会合後のパウエル議長の記者会見と予測資料(Projection materials)から見ると、今年の残る6回のFOMCでは毎回の利上げがあると予測できる。そして来年は加えての数回、再来年は引き上げなしとFOMCメンバーは現時点で予測した。

安定の利上げ

グリーンスパン時代が典型で、その後二代の議長時代にもあった「連続利上げ」が、株式市場にとって必ずしも打撃でないことは歴史が示している。「FRBがどう出るか分からない」よりは「あ、毎回上げるんだな」と考えられる方が良い。今回のFOMC後のニューヨークや世界のマーケットの動きもその通り。ニューヨークの株価は当日、ダウで1.55%、S&Pで2.24%、Nasdaqに至っては3.77%という大きな反発だった。

今後の展開は、基本的には米国経済や世界経済の行方次第だ。一つ明らかなのは当面は高い物価が続き、経済成長率は抑えられると言うことだ。FRBの予測資料によると12月時点で4.0%だった今年の米実質成長率は、2.8%の予測に引き下げられた。これは12月時点で2.6%と予想されていたPCEインフレ率が4.3%に引き上げられたことが大きい。

ただし重要な事は今年の失業率見通しを今回も3.5%という低い水準に抑えたことだ。今の米国では大量離職などの影響で雇用者が労働者をうまく集められない状況が続いている。よって賃金は高止まりから上昇の気配。その中での物価上昇はスタグフレーションを招くまでに至らないとのFRBの全体的な見立てが分かる。パウエル議長も来年について「景気の悪化はない」との見方を示した。

景気下押し要因はあるが、「むしろ今の米国経済では利上げを急ぐべきだ」という意見がFRB内部に強いことも今回分かった。「(FRBの金融政策の)ビハインド・カーブ説」で、これはFRBの政策が実体経済の後追いになってしまっているという見立てだ。そこに「後6回は毎回0.25%の利上げ」と必ずしも慢心できない理由がある。

今回のFOMC声明でも「James Bullardは0.5%利上げを主張して、0.25%に利上げに異を唱えた」と明記されている。多分彼だと思うが、2022年に望ましいFF金利の水準について「3.13〜3.37%」と主張する委員もいた。これは6回毎回0.25%の利上げでは追っつかない。

主な不確定要素

マーケットが歓迎した「大枠としての安定の利上げ」の中でも、ニューヨークを中心に世界の株式市場が今後安定的に推移、または高値追いを続けられないかもしれない要因はいくつもある。まずウクライナ情勢。

ロシアは戦場であるウクライナで、ゆっくりではあるが支配地域を拡大している。しかしその戦争は国内でも強い反発を生みつつあるし、何よりも西側諸国や企業のロシア締め付けが厳しくなっている。現状のままでのロシアの戦争継続が徐々に難しくなってきているし、精密誘導爆弾などは払底してきているとの見方もある。西側の報道ではロシアは中国に武器供与を要請したという。しかしこの原稿を書いている時点では中国のスタンスは不明だ。

時間の経過は明らかに「プーチンのロシア」に不利だ。いくら言論統制を強めても、ロシアでよく見られているニュース番組の女性スタッフのように「反戦」を堂々と画面で掲げる人も出てきている。人道的にも「ロシアを許すな」というのが世界の世論になりつつある。ただし追い詰められれば今のプーチンは何をするか分からない。戦術核を使うのではないか、との見方も消えない。しかし筆者はこの戦争は「プーチンの終わりの始まり」という見方を変えない。

一つ新しい要素として考えておくべきは、中国での新型コロナウイルスの拡大だ。心配したことが起きつつある。深圳など主要都市で事実上の都市封鎖状態が生じている。中国政府は今年の成長率目標を大きく落として5.5%にしたが、「拡大が続くとこの目標さえ達成は難しい」との見方ができる。問題なのは、世界第2位の経済大国である中国の成長率鈍化は、好調な米国の分を帳消しにしかねないことだ。同国が世界の物流の分野でも大きな存在であることを忘れることはできない。 

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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