1. 金融そもそも講座

第296回 米政策、円、そして業績

今年の「そもそも講座」も、あと2回を残すのみとなった。「(時の流れは)実に早い」と感じるが、マーケットの展開もまた日々刻々で、目まぐるしい。ニュースも次々に入ってくる。

バイデン大統領がパウエル議長の再任を決めたため、FRB(米連邦準備理事会)の金融政策の継続性は担保された。しかし変数が入った。議長職就任もあると見られていた民主党左派寄りのブレイナード理事が、副議長に指名されたからだ。これはFRBの今後の政策を予測する上での複雑性が増す。

さらに今後、環境保護・雇用重視の方向で数人の理事の補充・入れ替えも予想される。一連のFRB人事は、2022年以降のマーケット展開に大きな影響を与える。しかし現状の米政策は「テーパリング加速・利上げ開始時期の繰り上げ」に向けて動いているように見える。

新型コロナウイルスを巡る動きも急だ。直近ではオミクロン株が世界を震撼(しんかん)させているが、この素性はよく分からない。現状は日本やインドで新規感染が沈静化する一方で、欧州や米国では依然としてコロナ禍が猛威を振るっている。世界的にワクチン接種は進み、重症化のリスクは大幅に減少した。しかし感染者の高止まり故に医療体制の崩壊を懸念する声は欧州を中心に強い。今後の世界経済運営は「コロナの余震」を抱えながら「経済活動復活の足音」を聞く(もしくは「聞きたい」)という複雑な展開となる。

日々動きをやめないマーケットにあって、当面のキーポイントを次の3つ絞ってみる。 ①緩和縮小から利上げへと向かうFRBの政策 ②ドル高・円安トレンド ③企業業績へのフォーカス――の3点だ。

緩和縮小から利上げへと向かうFRBの政策

インフレ圧力の高まりが世界的となり、その先頭に立つ米国。今後の金融政策の方向性は「緩和縮小から利上げへ」と向かうことが明確になってきた。これは来年から更に再来年に向かってマーケットにとって大きなテーマであり続ける。

この文章を書く直前に11月初めに行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事録要旨が発表され、米国の中央銀行が従来に増して高まるインフレ圧力に警戒感を強め、「必要ならテーパリングの加速、利上げ」の方向に舵(かじ)を切りつつあることが明らかになった。今の米国は「需要増」と「供給課題の増大」という両面から、強いインフレ圧力を受けている。その圧力をFRBとしても無視できなくなった。

重要なのは、ガソリンなど物価の高騰故にバイデン政権の支持率が危険なまでに低下してきて、同政権が「インフレの一段の高騰」に神経をとがらせ始めていることだ。港湾などを訪れてロジスティックの改善を図り、日英中韓印などと協力して石油備蓄の一部放出措置を打ち出しているが、原油価格は高止まり状態だ。インフレ圧力が根深いことが明らかになりつつある。

一連の措置を取って以降は、インフレ圧力抑制ではFRBに圧力がかかるだろう。11月までの段階では「transitory」(一時的)の単語を外さなかったFOMCだが、12月の今年最後の会合ではこの単語を声明から外す可能性がある。FOMC委員の間では「テーパリングの加速」から「早期利上げ」を求める声が高まっているのが実情だ。

今のマーケットは、「2022年の夏前に一度目の利上げ、その後同年内に二回」という織り込み具合になっている。

進むか円安

それを受けて既に為替マーケットではドル高・円安が進行している。この原稿を執筆時点では115円台だ。資本は多くの場合、利回り(株上昇・金利高など)が高い所に動く。債券利回りが低いことでは日本は世界のどの国にも負けないから、「投資先として世界で最も適格性が高い米国」の金利が上がり始めれば、そこに資金を動かしたがる投資家が増えることは十分に予想される。

筆者は、今の円安トレンドは持続力を持つとの考え方だ。変動相場制以降(1973年)以来の円相場の歴史は一時的な大幅円安の時期もあったが、基本的には「円高の歴史」だった。民主党政権下の2011年にはドルの1ドル=80円割れもあった。しかしその後は長い目で見ると円安トレンドが始まっているように見える。ここ数年の円は「何回か100円突破を試みたものの、その都度失敗」という展開だ。

米国金利が日本よりも足早な上昇圧力にさらされる事態が顕現化する中で、ドルが対円で上値を試す時期が熟していると考える。むろんインフレの高い国の通貨はいつか売られるという長期的な視点は必要だ。しかし高い投資リターンを求める資金の動きは多くの場合半年、長くて2〜3年が視点であり、その間に資金をどこに置くのかという判断では金利の高い国が有利となる。日本の株式市場に特別に活力があれば話は別だが、今の日本はその環境にない。

投資をする人間としてできることは、円に対して強くなる通貨建ての資産を作る、さらには積み増すことだ。もうこの話は何回も書いたが、筆者が社会人(1970年代)になった時の英ポンドの対円の為替レートは500円を超える場面もあったと思う。今は154円だ。しかし英国人の多くは非ポンド資産を所有しているが故に、今でも海外旅行に簡単に行けている。日本人もそろそろその備えをした方が良い、というのが筆者の考えだ。

大事な企業業績

コロナ禍に関連した超金融緩和政策は既に世界の多くの国で修正に入っている。加えて肝心の米国までがテーパリングを開始し、場合によってはそれを加速、さらに利上げの早期実施を見据える中で、今後重要性を増すのは「(業種や各企業の)業績を見る目」だ。基本的には、株価は企業の業績に対する評価に左右される。業績の表象が株価だ。

超緩和政策の下で債券利回りが異常な低水準になり、他に投資できる対象が少ない時には、どうしても流動性が高い資産としての株式市場に資金は流れ込んだ。市場に流れ込む資金が多ければ多いほど、幅広い銘柄が上がるという現象が起きる。無論その中でも米国のIT株などが「好環境の低金利、加えての抜群の成長性期待」で特に買われたが、他の業種や銘柄も広く拾われた。それが各種指数の大幅上昇につながった。

しかし緩和状態が解除され、政策金利が引き上げられる時代は市場では大きな「見直し」が起きる。それは株式投資の原点に立ち戻って「業績」が良いか、今後良くなる業種や企業を探そうという動きだ。金利が高くなる時代には、借金が多い企業はそれが重荷になる。最近の米IT株の上げ足が鈍いのは、過大評価の懸念があるという点に加えて、借り入れが多い企業が少なくないからだ。

世界的に金利が上昇する中でも、その背景となる「経済活動の活発化の恩恵を大きく受ける」「それに乗れる企業」があれば、その企業の株は「カイ」ということになる。金利の上昇が多少負担になっても、経済活動の活発化の恩恵に浴する銘柄を探すのが今後の投資家の仕事となる。

各証券会社は業種ごとにアナリストを張り付け、当該業種の現状と業種内企業の業績に関する分析・予想を数多く出している。今は業種をまたぐ企業も多いので、その点を考慮しながらこうした資料も参考にしたい。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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