1. 金融そもそも講座

第278回 変わるマーケット構造

「パンデミック仕様のマーケット」の、終わりの始まりが鮮明になってきた。移行の先は「よりノーマル仕様のマーケット」だ。債券市場も、株式市場もこの動きの中でやや揺れている。重要なのは「ニュー・ノーマル」がパンデミック以前とどう違うかの認識であり、新たな状況の中でそれぞれの業種と個々の銘柄が占める位置が決まる。

「パンデミック仕様のマーケット」では、「金融と財政の超緩和」「接触型経済活動の低迷」「低インフレ率」という環境の中でのカネ余りが特徴。「先取り」が原則のマーケットで、そのいくつかに対する心理の変化が進んでいる。「今年5月末には全成人のワクチンを供給できる」(バイデン大統領)という状況が、「パンデミックもそろそろ終わり」という、やや先走った心理醸成を加速している。

問題は「ニュー・ノーマル」の形であり、それも常に変化することだ。なので「よりノーマル仕様のマーケット」は単なるパンデミック以前への戻りとは違う。多分、選好される銘柄やグループもかなり違ってくる。その読みが投資成績に大きく関わってくるだろう。

終わりの始まり

「パンデミック仕様のマーケット」の「終わりの始まり」は様々な現象から読み取ることができる。まずは繰り返し上昇圧力を受けるようになった債券利回りの動きだ。日々上がり下がりはあるが、少し長めのチャートを見れば上昇圧力の持続は明確だ。指標10年債の利回りは直近で、一時1.6%を上回った。筆者はこのコラムで「1.5%を上回ったら要注意」と述べてきたが、それを抜いた。

その後は原稿執筆時点で1.5%前後だが、債券市場で金利上昇圧力が高まっているのは否定しようがない。いくつかの要因がある。

①バイデン民主党政権が共和党や自党の一部にある「大盤振る舞い過ぎる」「財政事情が悪化する」との批判にたじろぐことなく、日本円にして200兆円近い規模のパンデミック対応経済政策を実施に移す構えだ

②パウエル、イエレンの両司令塔が「やや過ぎるとも思われる緩和的金融・財政の運営姿勢を示し、それが景気の強い拡大予想を生んでいる

③「期待インフレ率」が過去13年見られなかった水準に上がってきた

それに既述した米国でのワクチン接種の加速期待が加わる。5月末といえば、日本でのワクチン接種が一般の人へ拡大する時期より前だ。「さすが素早い」という印象がするが、これについては米ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチン生産に同じく医薬大手の米メルクが生産協力・支援をするといった「一種の戦時生産体制」も敷かれた。

米国では既に一部の州で「マスク着用義務」が解除されつつある。バイデン政権は「早すぎる」と批判しているが、米国の一般の人々の認識は日本とは相当違う。それを後押しする事実が進行しつつあることは明確だ。

変わる環境

「金融と財政の超緩和」「接触型経済活動の低迷」「低インフレ率」「カネ余り」などの要因のいくつかが、大きな状況変化にさらされている。「接触型経済活動の低迷」はいくつかの経済指標に今でも見て取れるが、200兆円という財政出動の規模が「接触型経済も将来は過熱」という予想につながっている。ローレンス・サマーズなど米国でも著名な経済学者の間でもそれを指摘する意見が出ている。しかしバイデン政権を支える財務省と米連邦準備理事会(FRB)は「パンデミック対応が優先」という姿勢で、警告に耳を貸していない。

「低インフレ率」の環境も、特に期待値のレベルでは相当変わってきた。3月初めのフィナンシャル・タイムズ(FT)には米国の「中期インフレ期待値が13年ぶりの高い水準になった」という記事があり、それとの関連で今年下半期の米国10年債の利回りは1.75%前後の推移になるのではないかとの見方も紹介されていた。一時的には2%に接近したり、それを一時上回る可能性もあるということだ。

恐らく「2%の債券利回り」は世界の投資家にとって魅力だろう。株式市場からのマネーの移動が起きても不思議ではない。特に自国内で非常に低い債券利回りを体験している国の投資家にとっては「米国の2%の国債利回り」は魅力的だし、米国の金利が高いということは当面のドル高も予想できる。

無論実際にそうなるには時間がかかる。しかし意識の上ではマーケットでの織り込みはかなり足早だ。今そうした事態に備えた胎動が始まっていると考えれば、今のマーケットでの様々な動きは理解できる。資金の移動期はどのマーケットも疑心暗鬼になり、値動きは不安定だ。

マーケットの中でも選別される企業群、個々の銘柄には今までとは違った傾向が出てくる。「よりノーマル仕様のマーケット」では、パンデミックの最中には忌避された接触型の伝統的企業群への資金の移動が起きると予想されるし、一部にはそうした動きが既に出ている。市場内で資金が動くとしたら、それは低金利見通しに支えられてパンデミック時にやや過大評価とまで判断される水準まで上げていたハイテク株の一部だ。最近のNASDAQ指数の頭重さはそれを象徴している。

問題は“よりノーマル”な形

ただし重要な点がある。それは「よりノーマル」の形がまだ見えないことだ。ワクチンの接種が進んでも、コロナ・フリーの世界が出現するわけではない。ウイルスの常ながら変異ウイルスが次々と出現して、「ワクチンの有効性」には常に疑問符が残る。加えて、全人口の15.6%に既にワクチン接種を最低一回行った米国や、国民の過半数に接種を終えたイスラエルのような国は例外で、世界を見渡すと日本もそうだがワクチン接種は行き渡るにはまだまだ時間がかかる。

「パンデミックは終わった」感が人々の間に広まっている。マーケットもそうだ。しかし実際にはパンデミックは世界で広く存在している。その心理格差がマーケットを揺さぶる。パンデミック前と後では、経済活動がノーマルに戻ったとしても、その形はやはり相当違う。ハイテクの重要性はパンデミックが終わっても残る。それらをマーケットが織り込むのはこれからだ。

二回にわたって取り上げてきた今年初めのマーケット波乱については、一回目の公聴会が終わったばかりで継続審議になっていて、今後機会を見て書きたい。しかし筆者が一連の流れで読み取ったトレンドは、①株式など各種マーケットでのネット情報の役割は著しく増大し、相場を左右する存在となる ②よって関係者は今よりも高い関心を持ってネットでどんな情報が流れるかを監視し、その評価を行う必要性が出てくる ③その中でヘッジファンドなど過去のマーケットで存在感があった勢力が、影響力を落とす可能性が高い――というものだ。理由は今後説明する。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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