1. 金融そもそも講座

第272回 顕著な経済の変調

今回は、ちょっと街を歩いていて気になったことを手がかりに、今後の株式市場を占うことをしてみたい。経済は日々変わっているので、統計よりも「街歩き」の方に最新の情報が含まれている可能性がある。

私(わたし)的に「正直、ちょっとショック」と思ったのは、行動範囲の中でCoCo壱番屋の少なくとも2店舗が直近閉鎖したことだ。チェーン店は開店と閉店を繰り返している。だからもしかしたら通常のローテーションかもしれない。しかし私が住む都心にある2店舗、しかも一つは急ぎのときなど頻繁に行っていた店だ。コロナ禍の中で「CoCo壱番屋は勝ち組」と信じていた私には驚きであり、結構ショックだった。

市場はまだ大きな変調を示していないが、冬に向かう中でのコロナ禍の世界的な拡大は、今は日本や米国で医療体制は大丈夫かという問題にまで発展している。両国医師会側の警告はそうだ。一方で「ワクチンを英国の当局が承認し、年内にも接種が始まる」という動きもある。

街歩き

まず、CoCo壱番屋の話。11月末だった。「久しぶりにカレー」と思って溜池山王店に。行ってビックリ。夜だったのに明かりがない。見ると「(11月)27日で閉店」と書いてある。しかたがないので、それほど遠くないTBS近くの赤坂Bizタワーの向かい側にある同店に行って、店員と話をした。「お客さん多かったのに、溜池山王は閉まっちゃったね」と私。「なんか、そうなんですよ。大門店も11月末で閉まるんです」と店員。大門店にも寄ったことがある。

店の開閉は様々だ。契約更新できなかったとか、ビルの立て替えなど様々な理由があり得る。ケース・バイ・ケース。しかしそれをSNSに書き込んだら、いろいろな反応が返ってきた。「値上げを繰り返したからだ」「マスコミがコロナ、コロナと騒ぎすぎるからだ」とかの書き込みがあったが、やはり私のように軽くショックを受けた人が多かったように思う。なぜならCoCo壱番屋は働く男子(特に)にとって、ヘビーローテーションな店だからだ。

それとの関連で私がよく歩く範囲(赤坂、六本木、虎ノ門、新橋から銀座にかけて)を注意深く見ていると、コロナ感染者が東京都を皮切りに全国的に増えた11月の後半から、街の店でのお客さんの入りはすこぶる悪くなっている。大部分の店がガラガラ。Go toキャンペーンの範囲縮小、外出自粛要請や、それに伴う企業の「忘年会中止指示」などが、夜の街から人々を遠ざけているように思う。

一本足打法

やや話が飛ぶが、最近マーケット関連でちょっと気になっているのは「NASDAQ指数の頭打ち傾向」だ。新値を時には更新する。しかし1カ月といった期間のチャートを見ると(長いチャートでは最近のトレンドが見られない)、今まで非接触型の先端銘柄群ともてはやされてきた企業が多く入る同指数は、控えめに言っても勢いよく上を目指せない状況だ。相場にとって保ち合い期間の継続は、ある意味危険信号だ。もちろん次の力をためている、とも理解できるが。

NASDAQ指数の代わりに上げを先導しているのがダウ指数構成銘柄やS&P500種銘柄。日本では日経平均株価など。接触型の企業を多く含み、今まで出遅れている株式群。米国での新政権成立期待(イエレン財務長官就任予定を含む)や、各国での財政出動予想もあるが、基本的にはワクチン期待だ。この原稿を書いている時点で英国の当局は米製薬大手ファイザーなどが開発するコロナウイルスワクチンを承認した。今後続々と承認が続くだろう。ワクチンは確かにマーケットにとって期待の星だ。

なので環境的に見ると、今のマーケットはほぼほぼ「(ワクチン期待の)一本足打法」と言えるかもしれない。もっとも、この「一本足打法」という言葉を若い人は理解しない(王さんがバットを振る仕草を知らないため)らしいので、注意が必要だろう。

日本でも米国でもコロナ感染者が急増し、直近の米国からの報道では「(コロナ関連の)入院患者が10万人突破――米国の医療は崖っぷち」というニュースもある。そうだと思う。日本でも米国でも、そして少し状況が改善した欧州でも、医療体制は逼迫している。

人が集まりやすい冬が勝負という見方は以前からあった。問題は医療体制を維持できるか。もしできないなら経済に打撃になっても「感染者の増加を減らす措置」を各国は採用せざるを得ない。ワクチンが広く使えるのはまだちょっと先だ。人々が先走った安心感を持って、「ワクチンができるから」という意識で行動し、その結果感染が広がってしまうリスクもある。政府はそれをコントロールしないといけない。

当面の経済は悪化

今の感染状況の悪化、そしてそれに対する政府や都の姿勢からすると、日本の経済は再び下方圧力にさらされる。多分店舗の閉鎖は増え、失業者(というより所得の減る人、なくなる人)も増える。第一波の時より深刻だ。なぜなら店舗も企業も、そして家計もバッファー(貯蓄など)が薄くなっている。「春は乗り越えたが、今年の冬は難しい」と考えている商店主も多いはずだ。

恐らく十分な「自粛要請への補填」は行われない。行政が繰り出せる措置にも限界がある。ということは、年末にかけて少なくとも日本では、そして恐らく世界の主要先進国で経済の数字は再び厳しくなる。問題は「ワクチン普及」の実現との追いかけっこだ。有効なワクチン普及期が早く到達すれば、経済の悪化は短期間で済む。あまりうまくいかなければ、「期待先行」でよろしくない結果が待つ。

「ITの魔力」「金融・財政出動期待」はあせただろうか。そうは思わない。しかし期待や魔力も慣れで色あせる。今のNASDAQの「保ち合い」は、魔力の陳腐化が顕現化しているのだろう。ワクチン期待も先走っている可能性がある。

日本ではあまり話題にならないが、最近私の関心を引きつけているのはビットコインなど暗号資産(仮想通貨)の大幅上昇だ。恐らく投資先を他に見つけられない一部の資金が買いに入っている。債券利回りの低下や一次資源価格の低迷から考えれば、大きな資金の受け皿は限られているのが実情だ。だから日本の株も底堅い。しかしいつでもそうだが、慢心は敵だ。

政府は感染拡大防止で「勝負の3週間」を唱えている。それになぞるなら私は、「市場にとっては12月から始まる3カ月は勝負の四半期」と考える。ワクチンへの期待は強い。しかしその一方で感染者の拡大は世界的に続き、それに伴う経済の悪化は深刻化する。どちらが勝つかの「勝負」だ。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

バックナンバー2020年へ戻る

目次へ戻る