1. 金融そもそも講座

第266回 株式、しばらくやや不安定か

コロナ禍を消化しながらハイテク株を中心に上値を追ってきた世界の株式市場も、11月の米大統領選挙に向けて値固めの時期に入るかもしれない。この原稿を書いている9月上旬現在でもその兆しはあり、米国の株式市場はやや大きな調整を経験した。

やはり一番に言えることは、今までの上げのペースが一部銘柄を中心に速すぎたということだと思う。ビデオ会議システムの米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズのように1日に41%も上がる銘柄が出てくると、逆にマーケットは先行き不安に陥る。それが持続するわけはないので。必ずその後しっぺ返しが来るのがマーケットだ。

「そもそも」的に言うと、改めて必要なのは多様な情報集め、柔軟な思考、そして機敏な判断だと思う。相場は思い込むとしばしばやっかいだ。深手を負う。考え方にも運用姿勢にも余裕を持つことが原則だと思う。

多様な目が必要

やはり「多様な目」が必要だと改めて思ったのはつい先日のこと。日本時間の9月3日早朝、ニューヨークの株がダウ工業株30種で450ドル近く大きく上げ、今までに比してS&P500やNasdaq(ナスダック)より相対的にパーセンテージで上げ幅が大きかった。この時、筆者はSNSに「ダウの上げが最近では見たこともないような急激さだ。後で要因を調べてみよう。最近のニューヨークの株はややUnstoppable(勢いを止められない)になってきた。ある種危険」と書き込んだ。

それには多くのコメントが付いたが、医療関係の読者の方がいて「VIX(恐怖指数)が一緒に上がるのはなぜでしょう?」と疑問をぶつけてきた。正直言って、その時VIXがじわじわと上がっていることに気が付いていなかった。見ると実際にジリジリと上がっている。そこで「いいポイントですね。やはり不安心理が高まっているのだと思います」と返答。それに対するその方のメッセージが「大嵐の前夜の悪寒が……」だった。

実際にその直後にニューヨーク株式市場では大きな下げが起き、それはレーバーデー連休を挟んで8日まで続いた。その間の下げ幅はNasdaqで10%に達した。普通VIX指数を見るのは相場が下げ始めたときだ。しかし医療分野に従事という読者の方は、まず視線がVIX指数に行き、「株が上がっているのになぜ?」と思ったのだろう。

筆者自身、その指摘があって初めてVIXの動きをまじまじと見て、その意味を考えた。同指数を見ることなく「今のニューヨーク株の動きは“ある種危険”」とは思ったが、VIXとのからみで改めて考えることができてとても良かったと思っている。そう、視点の角度をいつも多様にしなければいけない。この読者の方にはとても感謝している。SNSは意見のやり取りで、時にとても役立つ。

不安定は続く

ニューヨーク株の下げは9日の段階で一旦止まり、同日の各指数は1.6%高のダウから2.7%高のNasdaqまで大幅反発だった。しかし筆者は世界をリードする米国の株式市場がVIX指数の低い状態、即ち安定的上昇基調に直ちに戻るとは考えていない。いくつか理由がある。

  • 1.なによりもマーケットは今までの足早な上げの消化を終わっていない。まだハイテク株を中心にどこか居心地が悪い
  • 2.米国の大統領選挙まであと1カ月半になろうとしているが、まだどちらが勝つと自信を持って言える段階ではない
  • 3.バイデン前副大統領率いる民主党が有利に見えるが、依然「敵失頼み」の印象が強く、予想されたほどには陣営の盛り上がりは強くない
  • 4.過去の戦時における軍の負傷者・死者を「負け犬」と呼んだとの米アトランティック誌のトランプ大統領批判記事など、マイナス材料は多い。しかし依然として「隠れ支持者」を多く持つと思われる同大統領の力も軽視できない
  • 5.政治的先行き不透明はマーケットの不安心理を呼びやすい。特にマーケットが確信を持って上を狙えないときはそうだ
  • 6.コロナ禍を背景とする世界的な経済活動の停滞状況は続いていて、非接触型の経済活動は活発だが、接触型経済活動への打撃は続く。ワクチン開発も必ずしも順調ではない
  • 7.中小企業の事業継続・持続化に関わる政府の財政措置、雇用喪失に対する各種の公的措置が各国で期限切れの時期を迎えていて、その継続が不透明なケースも多い

などだ。

新政権の行方

ただしマーケットの調整の程度(深度)に関しては「それほどディープではない」と考えている。いくつかの要因がある。

  • 1.スピード調整があることは長く予想されていたし、今回の急落も「(一部ハイテク株の急騰で)急速に進んだゆがみ」の調整と冷静に受け取る向きが多い
  • 2.相場レベルが大きく変わるときには、海外市場や他の為替・商品市場に対する波及が大きく、かつ持続的なのが普通だが今回はそれが小さい
  • 3.具体的に日本株や欧州株の下げ幅はパーセンテージで見てニューヨーク株よりはるかに小さいし、ニューヨークの下げを見る目も冷静だ
  • 4.ドル・円や米国の債券市場の動きを見ても、ニューヨーク株の持続的な大幅下落を見ているとは思えない
  • 5.今の世界のマネーフローを見ると、やはり米国の株式市場、とりわけハイテク株は投資先として魅力があり、世界から資金が入りやすい構図がある(日本のソフトバンクの米ハイテク株への大口投資も米メディアに報じられた)

アベノミクスを提唱・先導した安倍首相は退陣し、読者の方々がこの文章を目にするころには新内閣が発足しているはずだ。恐らく新首相には今の菅義偉官房長官が就任する。三つ巴の自民党総裁選挙戦では「アベノミクスの継承」を前面に押し出しているが、筆者は同長官の最近の姿勢や言動、それに生い立ちから案外調整型ではない政治を行う可能性があると見る。

派閥を早い時期に離れても現在の地位にいるということは、しっかりした存在感を持っているということだ。内閣の人事をどう構成するのか。「デジタル庁創設」が持論だが、それが実際にどのように今の霞が関を横断できるのかは重要だ。

総選挙に関しては、筆者は早期実施を見込む。今回の自民党の総裁選方式では、投じられた票は535票(国会議員394、地方141)にすぎない。よって国民に対して「統治の正統性」を主張するには不足だ。それを補い、国民にお墨付きをもらうには総選挙が必要だ。新しい自民党の総裁は、コロナ禍が収まりかけるかもしれない今年秋に総選挙の道を選ぶのではないか、と見ている。

日本の株が政府の政策に大きく左右されることは、アベノミクスの当初の上げで証明されている。新政権の政策の方向性、強度は今後の日本株にとって極めて重要だ。その観点からも今後数カ月の日本の政治の行方も期待しながら見つめたい。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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