1. 金融そもそも講座

第265回 米ハイテク株の今後

この原稿は、たまたまNasdaq(ナスダック)の株価が198.59ポイント(1.73%)も上がって11665.06と大幅な史上最高値更新となった8月26日のニューヨーク市場を受けて書いている。改めてニューヨーク3指標の推移を各種チャートで見比べて、「Nasdaqは別物だな」と思った。

コロナ禍でニューヨークの株価全体が大きく下げてほぼ安値を付けた3月中旬。Nasdaqは7000を割っていた。それが今はこの高値だ。底から5000ポイント近い上昇。今年2月に付けたそれまでの高値レベルを全くもって睥睨(へいげい)している。コロナ禍は、明らかにNasdaq銘柄の跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)を後押しした。

S&P500も高値を抜いてきた。しかし同指数は3指数ジリ高シーソーの中心点として、Nasdaq銘柄群に引っ張られて緩やかに、レベルを慎重に切り上げているだけだ。ダウ工業株30種は依然として高値を抜けない。何回かのシリーズになるかもしれないが、筆者が今米ハイテク業界について考えていることを記していきたい。

実は叩かれている米ハイテク

株価は順調だが、実は今米国のハイテク企業には社会的・政治的な逆風が吹いている。米ハイテク企業のあまりの強さに、包囲網が築かれつつあるように見える。

まず政治。ショー的にも話題になったのは7月下旬。アマゾン・ドット・コム(トップはジェフ・ベゾス)、グーグルを傘下に持つアルファベット(スンダー・ピチャイ)、アップル(ティム・クック)、フェイスブック(マーク・ザッカーバーグ)の各氏はそろって米下院司法委員会反トラスト小委員会の公聴会にビデオ会議方式で出席を余儀なくされた。アマゾンのベゾス氏の議会出席は初めて。議員たちは、4社トップとも各社提供のサービス分野で優位な立場を利用して競争を排除していると強く批判、質問をぶつけた。各社トップはこれに対して強く反論した。

しかし4氏を厳しく問い詰めた議員たちは納得しなかったようだ。強いハイテク企業の存在が米国の世界における地位を高めているという認識は持ちながらも、強力に過ぎ、国家の領域を超えて事業を行っているIT(情報技術)企業トップを迎え、「なんらかのかたちでの規制が必要。世論が味方している」と考えているようだった。同小委員会のシシリン委員長は公聴会締めの言葉として「この中の一部の企業が、米反トラスト法(独占禁止法)に違反していることが明確になった」と述べた。

各社が抱えている問題は多い。当時多くの報道があったので、ここでは再び触れることはしない。しかし筆者の感覚からすると行政府でも議会でも、この数年間のうちにあまりにも強くなったGAFAなど米ハイテク企業に、様々な規制を掛けるだろう。これら各社が存在することの利便性は十分認識しながらも、米国人が大切にする自由とかプライバシー領域にあまりにも入り込んできているからだ。

あまりにも高い30%の“税”

次に民間からのGAFAへの反撃。つい最近では主にニューヨーク・タイムズなど米有力紙、さらには英フィナンシャル・タイムズなども加盟する新聞業界の団体「デジタル・コンテンツ・ネクスト」(DCN)が、アップルに手数料減額を打診する書簡を送ったことが明らかになった。

現在アップル(グーグルもそうだが)はアプリ内課金システムを使う企業から30%の手数料を徴収している。びっくりするほど高い。筆者もニューヨーク・タイムズと年間契約しているが、支払うお金の30%は実はプラットフォーマーとしてのアップルの懐に入っているのだ。“土管屋”が取る手数料としては他に例を見ない。

業界の人々はこの30%の手数料を「Apple税」と呼ぶ。なかなか的を射た表現だ。DCNはアップルが一部企業の手数料を15%に減額していることを示し、適用の条件を明示することを求めた。

実はこの直前にもっとドラマチックなことが起きた。人気ゲーム「フォートナイト」(オンラインの参加者で生き残りをかけて戦うバトルゲーム、日本でも小中学生を中心に多くのファンがいる)の製造元である米エピックゲームズ社がアップルとグーグルのアプリ配信・課金システムが反トラスト法違反に当たるとして両社を米連邦地裁に提訴したのだ。

この巨大2社は、スマホの基本ソフト(iOSとAndroid)で100%近い圧倒的な地位を占める。我々がどの課金アプリ(事務アプリ、各種ゲームなど)をダウンロードし、それを使用してもこの2社に30%の手数料が転がり込む仕組み。ぬれ手で粟(あわ)だ。

エピック社は「この30%という手数料は高すぎる」として回避を決断、独自の課金システムを「フォートナイト」に導入した。これに対してアップルとグーグルは「規約違反」を理由に配信システムから締め出した。我々のスマホからダウンロードできなくしたのだ。筆者はiPhoneだが、実際にApp Storeを検索しても今は出てこない。

実は業界活性化に

巨大IT企業と交渉する力を持つアプリ開発企業は少なかった。なので「高すぎる手数料」の問題が開発会社側から提起されることはなかった。しかしエピック社は違った。「フォートナイト」は世界で3億5000万人以上のユーザーを持ち、ゲーム機やパソコンからも利用できる。つまり必ずしもスマホ専用のゲームではないのだ。エピックはそこをバネに有力開発会社としてアップルとグーグルの商慣行に直接的に異議を唱えた。

この動きが重要なのは、「GAFAなど大手支配」が定着して「寡占状態」が生まれた業界を大きく変える可能性があることだ。米ハイテク企業としてのGAFAは我々にとってなじみだが、すでに既視感や飽きが生じている。「まだこの顔ぶれか」というような。

しかしエピック社が勝訴すれば、米ハイテク業の力関係は大きく変わる。業界全体への影響は必至で、大きなパワーシフトが起きる。プラットフォーマーが収益力を落とし、コンテンツを育てるアプリ開発会社が伸びる。そして業界に競争原理が再び機能する環境が整う。

その結果は、我々のIT利用コストの大幅な低下が起き、新鮮で多様なコンテンツを中身とするアプリが増加し、それを開発する企業ががぜん注目される世界となる。ワクワクする展開で、日本企業にも大きなチャンスが生まれる。「古いなじみ」は勢いを失うかもしれないが、新しい企業が伸び、新顔がマーケットに登場する。それこそ株式市場の活性化につながる。

IT産業は産業社会を根源的に変え、新型コロナウイルスがまん延する社会でその非接触的パワーをいかんなく発揮。故にそれらを担う企業の株価を大きく押し上げた。日本経済新聞で「DX」(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を見ない日はない。

しかし一方で、やや見飽きたなじみの名前が業界を牛耳る構造が出来上がりつつあった。残念なことだ。このままではIT産業の活力そのものが落ちかねない。エピック社の今回の訴訟は、今の固定化しつつある業界を法的側面から揺さぶる可能性が大きい。

繰り返すが、多分政治も動く。改めて考えてみよう。GAFA叩きは米IT産業への打撃となるだろうか。答えは「ノー」だ。そこが重要だ。GAFAが叩かれれば叩かれるほど、新たなネームの企業が台頭し、業界はもっと活性化する。なにせIT需要は膨大だ。私はそう考えている。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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