金融そもそも講座

隠れた魅力を探せ

第242回

マーケットを取り巻く環境は、日々大きく変化している。株価はかなり高下し、債券利回りは過去に例のないほどに世界的に低下。一番大きな要因は、依然として世界最大の経済・軍事大国である米国のトランプ大統領が、世界第2位の経済大国にのし上がった中国に対して、その勢力(覇権)伸長をコントロールしようとして、貿易・経済活動に関する様々な措置を予測できない形で繰り出していることにある。それは、

  • 「中国が(覇権を)急ぎすぎている」
  • 「米国が今まで中国を見誤っていた」

という2つの側面があって、それらが複雑に絡み合う中でマーケットは大きく振り回されている。

かつ、同大統領は大いに気まぐれだ。すぐに気が変わる。こうした中で、「もう一度日本のマーケットを見直すとき」だ、という思いが筆者にはある。今だからこそ、じっくりと中身があるのに評価されていない日本の産業セクターや、企業を探し出すべき時だとも思う。

宣伝不足

今年の夏、我が家は長崎県の五島列島にしばらく滞在し、その後宮崎県の高千穂に熊本から入って数日間を過ごした。正直言って両地とも私にとっては初めてだった。高千穂は神々の里として有名で、「いつか訪れたい」と思っていた場所。しかし五島列島は家族に提案されるまで、あまり意識の中になかった。その西に位置する沖縄県の島々には数え切れないほど行っているのに。

実際に訪れて驚いたのは、それが素晴らしい観光地だということだ。奇麗な海、数多くの世界遺産、豊かな食事、そして優しい現地の人々。思ったのは「この列島は明らかに“宣伝不足”だ」と言うこと。私の印象だけではない。島の方々も口々にそう言っていた。「この島は宣伝が下手」と。

なぜだろう。恐らく、沖縄は単一県としてかねてから観光に力を入れて、構成する島々の宣伝をしっかりしている。しかし長崎県には他にも宣伝したいエリアや施設が一杯ある。坂が多い長崎の街そのものがとっても魅力的だし、訪れるべき原爆関係の施設も多い。長崎ハウステンボスもある。なので、県としては五島列島をなかなか全力では前面に出せないのではないかとも考えた。

日本の魅力を再発見

五島列島は140近い無数の島が織りなす島しょ群の大パノラマで、西から東まで個性の強い島が並ぶ。中通島などとっても大きな島もある。観光という観点から見て「宝の山」という印象だ。大きく発展する素地はできつつある。「3年前に比べれば街も大きく発展した」と千葉から五島市に移住したマリンスポーツショップの経営者は言う。「もうすぐ発展に弾みが付くのではないでしょうか」と彼は付け加えた。

そうだと思う。何せ沖縄とはまた違った美しい海があり、食事が豊かだ。五島牛がいてとてもおいしい。そして豊富に取れる海の幸。泊まった若松島の宿・えび屋さんは、私たちが早起きして釣った魚をすぐに塩焼きにして朝食に出してくれた。私の先輩も「そこに泊まった。良かった」と後で私のSNSに書き込んでくれた。

五島列島には、星野リゾートなど大手のホテルチェーンが進出を企画していると聞いた。列島なので移動には結構な時間がかかる。しかしその船旅がまた情緒がある。マリンスポーツも今後施設が増えてくるはずだし、何よりも沖縄に負けない奇麗な海岸線、海水浴場が多い。

東京に帰ってきて世界的な市場の動揺と、その中でなかなか魅力を発信できない東京市場の動向を見ながら、「日本や日本企業も五島列島と同じく“宣伝不足”なのかもしれない」と考えた。今回の韓国との一連の摩擦では、「日本の力がどこにあるのか」が日本人にも鮮明に分かった。製品に弱く部材に強いというのは、それはそれで問題があるが、しかしそれが実力だとしたら我々のマーケットを見る目も変わってくる。目を移すべきだ。

「投資をするサイド」の人々には、「もし失敗しても、有名な会社を買っておけば負けても言い訳が立つ」という考え方の人もいる。それはそうかもしれないが、既に大勢の投資家がポートフォリオに入れている銘柄をあえて買っても妙味は少ない。売り手も多いからだ。その観点から考えると、「まだ知られていない会社」を探すことこそ投資家の醍醐味だろう。私は沖縄より長崎県の五島列島の方に投資妙味があると思う。

悲観論を吹き飛ばせ

東京市場の先行きについては、しばしば悲観論が聞かれる。「同じ顔ぶればかり」というのもその一つ。次々に新顔が出て、それがマーケットを絶えず活性化し、故に世界中の資金を集める米国の市場に比べると、確かに上昇力や回復力で東京は見劣りがする。なので、私の周りにも「ドル相場には不安があるが、やはり投資するなら米国のマーケット」という人が案外多い。確かにそれは言える。過去10年以上のチャートを見ても、米国市場の伸び代はすごかった。

しかしそれは投資家である我々を含めて、日本や東京市場の魅力発見にあまり積極的ではなかったからではないのか、とも思う。そもそも国内総生産(GDP)で世界1位の国と2位の国がいさかいを始めているときには、3位の国である日本は客観的に見れば比較的良い立ち位置にいるはずだ。それを証明するかのように、中国の日本に対する姿勢は大きく変わってきた。その意味では日本はもちろん途上国ではないし、世界のマーケットの中で特異な立ち位置にいると考えることもできる。

むろん、「世界は運命共同体」という考え方もできる。しかし世界のマーケットの動揺と一緒に揺れていても何のメリットもない。日本で本当に世界的な強みを持つ企業や産業を見定めて、それとじっくり時間を掛けて付き合ってみるというのも良いアイデアかもしれない。人が生き続け、生活を続ける限り、そこに有用な資材を提供している企業の製品に対する需要はあるし、それらの企業をマーケット的に評価する価値もある。

五島列島と高千穂という「まだ見ぬ日本」に魅了されて帰ってきた筆者は、ニューヨークなどの海外市場にあまりにも揺れ動く東京市場を見ながら、日本には「見落とされているが、実は豊かな魅力があふれる産業や企業」が多くあるのだろう、という思いを強くした。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。