1. 金融そもそも講座

第241回 金利、世界的な下げ局面に

世界的な、そして広範な金利の下げ局面になってきた。本来、金利低下は株価には朗報のはずだが、その背景が景気悪化、リセッション(景気後退)見込みとなれば、企業業績の悪化を伴うだけに手放しでは喜べない。実際にこれまで好調だったニューヨークの株価も、本稿を書いている8月18日現在で3週間連続の下落となっていて、高値からは約5%反落した状況だ。

今後の焦点は、7月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)で金融危機直後以来となる10年半ぶりの利下げに踏み切った米金融当局が、一段と大幅な利下げに踏み切るかどうかだ。既に今年に入って29の国々が「利下げ」を実施している。日本の近隣で記憶に新しいところでは、オセアニアのオーストラリアとニュージーランド、それに韓国が利下げした。

一つの問題は「利下げ後発組」ともいえる米国が今後大きく利下げ局面に入ったときに、ドル相場が対円でどう動くかだ。ドル/円が100円を突破というような事態になれば、日本銀行も現在の「現状維持」からさらなる緩和措置を取らざるを得なくなる。

大幅利下げ?

本稿を書いている時点で既に米国では、「9月のFOMCでは0.5%という大きな利下げが決断されるのではないか」との見方が台頭している。中国経済が大きく減速し、それに足を引っ張られる形で米国企業の業績も悪化。それを受ける形で高下を繰り返しながらも米国の株価は3週連続で下落していて、マーケットでは「リセッション懸念」がささやかれている。

それに油を注いでいるのが、長期金利の大幅低下だ。既に2007年以来の2%割れとなっているが、最近では1.5%を恒常的に割りかねない動きが続いている。その結果長短で金利が逆転する「逆イールド」現象が起きた。これは「リセッションの前兆」と呼ばれるもので、マーケットでは対中貿易摩擦解消が見えないことに加えての大きな懸念材料となっている。

パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は先の7月末の利下げ(0.25%)に際して、「この利下げは“mid-cycle adjustment”だ」と表現した。つまり米国の金融政策は大きくは利上げサイクルにあるが、「今回は、この利上げサイクルの中での調整利下げだ」と説明した。これに失望したのは「0.5%利下げ」や「継続的利下げ」を予想していたマーケットで、その後の株価急落の原因となった。

実は7月末の前回FOMCでは、2人の委員が利下げに反対し「政策金利の据え置き」を主張していた。声明でも最後に「Voting against the action were Esther L. George and Eric S. Rosengren, who preferred at this meeting to maintain the target range for the federal funds rate at 2-1/4 to 2-1/2 percent.」とはっきり隠すことなく書かれている。

反対論も

パウエル議長が「mid-cycle adjustment」という言葉を使ったのは、最後まで反対表明した2人以外にも利下げに消極的なメンバーがいて、その「賛同を得るため」に使った可能性がある、と筆者は考える。「いずれ戻す」という意味で0.25%の小幅利下げで納得を得たとも考えられる。

もしそうだとすると、経済指標の出方にもよるがマーケットが求めるような「0.5%の大幅利下げ」で9月の次回FOMCがまとまるには、やや困難を伴うかもしれない。しかし筆者は、2人程度の反対が出ても「少なくとも0.25%、大胆になれれば0.5%の利下げ」が9月のFOMCで決まる可能性が高いと見ている。

その理由は3つある。まず、世界を見ると利下げで米国は後発組だということ。それは冒頭に書いた。第2は、その結果としてドルが大きく各国通貨に対して上昇してしまっていて、それが米国企業の対外競争力にとっての大きな足かせになっていることだ。その是正のためにも、米国は国内金利の引き下げを図る必要がある。第3には、やはり逆イールド状態を早期に解消する必要があるという点。

ドル高に関しては、最近の「人民元、やまぬ売り圧力 需給反映なら10元割れも」(2019年8月18日付、日本経済新聞 朝刊)という記事が目を引いた。ドル/人民元に関しては最近1ドル=7元のドル高が話題になったばかりだ。それが10元になれば、約5500億ドルの中国の対米輸出に課された最大25%の関税賦課はすっかり効果を相殺されてしまう。それは米国が望むところではないだろう。

対中ばかりでなく、ドルは(円を除く)各国通貨に対して、大きく上昇している。最近のウォール・ストリート・ジャーナルには「Dollar Towers Above Rivals, Posing Fresh Threats to Financial Markets」という記事が載っていた。ドル/円が比較的円高に推移している我々日本人は気づかないけれども、ドルがその他各国通貨に対して総じて強くなっている現象を取り上げていた。その最初の文章は「ドルの長引く上昇が、米国企業の業績を圧迫し、商品価格に下げ圧力となり、途上国市場での株価押し下げ圧力となっている」というものだった。

ドル高抑制の狙いも

日本や欧州など他の先進国に比べて、米国の現行金利水準は、間違いなく資本移動先として魅力的だ。相対的に経済はしっかりしている上に、小幅だが利回りがある。欧州や日本では多くの国債がマイナス利回りとなっている。

現状に一番批判的なのは、来年に大統領選挙を控えたトランプ大統領だ。最近の株価急落に関して、「問題なのは中国との摩擦ではない。あまりにも急激に、そして高い水準に金利を押し上げたFRBこそ、米国が抱える最大の問題だ」と、FRB批判・パウエル批判を強める一方だ。こうした状況で0.5%の利下げをすれば「大統領の圧力に負けた」と言われるだろうが、景気実態やドルを取り巻く環境がそれを正当化すれば、筆者は9月の大幅利下げは十分な可能性があると考える。

ウォール・ストリート・ジャーナルの記事には、1ドル札から両サイドに恐らく男性の筋骨隆々の腕が2本出ている絵が挿入されている。記事の後のドル指数チャートを見ると、2018年の安いところから同通貨は約11%も上がっている。ドル高は米国に輸出をしている外国企業にとっては自国通貨安による売り上げ増につながるから有利だが、輸出をする米国企業には打撃だ。来年の選挙を控えたトランプ大統領にとってもドル高は目の上のたんこぶだ。

問題は、例えばドル/円が100円に接近し、そしてそれを割るようなケースで日銀として何ができるのか、だ。世界各国が利下げで足並みをそろえる中で既に金利水準をかなり下げ超緩和を続ける日銀に、どんな手法が残っているのか。マーケットの関心はそこに移りつつある。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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