金融そもそも講座

株・為替ともに波乱の幕開け 2019年を展望

第226回

いきなり大波乱の2019年幕開けである。円相場は急騰し、株価は大きく下げた。昨年前半の株式市場をリードしたものの年後半には相場の足を引っ張った米アップル。その業績下方修正が、年初早々の株価下落のきっかけ。同社は中国での業績悪化見通しを最大の理由に挙げ、「米中貿易摩擦」が大きな背景であることを示唆した。

1月頭の相場の動きは、今年のマーケットが容易でないことを示している。昨年は変動相場制始まって以降でも値動きが小さかった円相場も、大きく動く見通しだ。荒れ相場覚悟の1年。世界にとって難題山積である。年初第1弾ということもあり、今回は2019年を展望してみたい。 

重なるイベント

今年1年のスケジュールをまず確認しておきたい。年明けからあまり時間を置かずして、英国議会はメイ首相の「離脱案」の再審議・表決を行う予定だ。12月に予定されていた表決を「負ける見通しが強まった」ことを理由に延期した同首相だから、今回も「予定通り」とはいかない可能性がある。そもそも最近の英国政治は予測不能だ。常識的には英国は合意なき離脱に突き進んでいると思われるが、再国民投票→EU残留になるとの予測も少なからずある。今の予定では離脱は3月末の予定。

1月22日からは世界経済フォーラムが年次総会(通称:ダボス会議)を開催する。今回のテーマは「Shaping a Global Architecture in the Age of the Fourth Industrial Revolution(第4次産業革命期における世界の構造構築)」で、幅広い分野につき各国首脳や経営者らによる議論が行われる。経済に関してはブロックチェーン技術の活用、その金融システムへの影響や、AI利用やデジタル化によるサービス業の変化のような産業構造改革、雇用への影響などが討議される見込み。毎年注目される世界的イベントだ。

2月末は米国政府が設定した「米中貿易に関わる交渉期限」だ。不調なら米政府は2000億ドル分の中国の対米輸出品の関税率を25%に引き上げると通告している。この問題に関しては昨年様々な機会で書いてきたが、世界経済が大きな混乱に見舞われる危険性が強い。マーケットにとっても最大の材料だ。 4月12~14日にはIMF・世界銀行春季会合(米国・ワシントン)が開かれる。

そして2019年のG7の議長国はカナダからフランスに、G20はアルゼンチンから日本にそれぞれ引き継がれ、日本ではG20サミットを始め8つの関係閣僚会議などが開催される。まず、6月8~9日にはG20財務相・中央銀行総裁会議が福岡市で、G20貿易・デジタル経済相会合が茨城県つくば市で開かれる。同月28~29日がG20金融・世界経済に関する首脳会合(サミット)で、開催は大阪市。8月24~26日がG7サミット(フランス・ビアリッツ)で、10月14~15日はチリのサンティアゴでAPEC財務相会合。11月22~23日にG20外相会合が名古屋市で行われる予定。 

株は波乱、為替は円高

年初の値動きで片りんが見えたが、今年は株価の大きな変動が必至だろう。そもそもリーマン・ショック以降の超緩和政策で進んだ10年近い株価の上昇。その評価がまだ定まっていない。長い上げの後には大きな下げを含む調整局面が来ることを歴史は示しており、「もうはまだなり。まだはもうなり」が繰り返される可能性が高い。

今の米中摩擦は、第2次世界大戦以後30年続いた米ソ冷戦とは全く違った意味合いを持つ。米ソは軍事では拮抗していたが、経済では雲泥の差があった。ソ連は経済小国にすぎなかった。しかし今の米中はGDP第1位と第2位の経済大国同士であり、お互いに依存しているにもかかわらずいがみ合っている。しかも、3億人強と13億人という圧倒的な人口差故に、GDPは近く逆転の可能性が濃厚だ。

共に市場経済に参加しているが、政治体制と価値観は全く違う。中国は中国共産党の一党独裁の国であり、企業も中国国民一人一人もその統治に最後は協力を義務づけられている。言論を統制し、市民には西側先進国の国民に保障された自由がない。対する米国は政権が頻繁に入れ替わる民主主義の国であり、国民には各種の自由が保障されている。その中国が覇権国として台頭し米国を越えつつあるし、中国はその意図をあからさまにしつつある。

米国で中国脅威論が高まるのは当然で、むしろ遅すぎた印象だ。それはトランプ大統領独りが抱く懸念ではない。むしろ議会にこそ強い。そもそも調整を余儀なくされている中で、株価はこの大きな世界構造の変化を織り込み終えていない。

為替も安定期を終えたのは明らかだ。トランプ大統領は日本の対米貿易黒字に対しても強い不満を抱く。緊迫する中国との関係を見ても、米国にとって日本は「大事にしなくてはならない国」のはずだ。しかし経済的実利重視のトランプ氏にその考え方があるかどうかは分からない。年初に見られたような大きな円高局面が何回か繰り返す可能性がある。それは対ユーロでも同じだろう。 

one-wayはない

しかし株には各企業の業績という、そして為替には各国の経済バランスというバックボーンが有る。消費者の需要を受けて活動する企業の株価があまりにも低い評価になったときには、当該企業とその株価を再評価する動きが必ず起きる。株価には「長い一方通行の相場」というのはない。売りたい人がいれば必ず買いたい人がいる。

為替は尺度がいろいろあるので難しいが、相対的に見て高すぎる通貨はいずれ売られ、安すぎる通貨は買い戻される。日本の優秀な輸出企業が輸出も難しくなるような円相場は、対ドルであれ対ユーロであれ、高すぎる。逆もまた真なりだ。その見極めは案外簡単かもしれない。判断の基準はかなり“常識”に近い。

そこで一番問題なのは、行動(売りと買い)を起こすタイミングだ。相場はタイミングが全てだ。展望が間違っていなくても、タイミングを間違えば相場ではやけどを負う。自分の動かせるお金の規模から見て、「耐えられる」と思う金額で思い切って動くことがコツだ。分不相応なお金を動かしてポジションを持つのは危険だ。

為替については、筆者はかつて1ドル=80円台で買い入れたドルがかなり少なくなったので(旅行等々に使ったこともあり)、100円割れのドルには頃合いを見計らって買いを入れるつもりだ。繰り返すが、相場に取り組む人間にとって2019年はリスクと同様にチャンスが多いと思われる。買いでも売りでも。

ともあれ、皆様にとって2019年が良い年になることを祈りたい。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。