金融そもそも講座

ビットコインをどう考えるICOは個々に判断すべき

第201回

ビットコインの話に戻ろう。今回は読者の多くの方がビットコインと同様に関心・興味を持っているが「あまりよく分からない」と思われているであろう、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)について触れておきたい。

この2つには共に「コイン(coin)」の単語が入っているのでしばしば混同される。それがまたビットコインに関する議論をややこしくしている。筆者はこの連載で書いてきた通り、すでにビットコインについては実体験・検証の意味合いもあって興味を持ち、そして実際に買って持っている。しかしICOについては当面参加・購入するつもりはない。その理由をまとめてみたい。

ICOとは

まずICOとは何か。その前に、読者の皆さんは「IPOなら知っている」とおっしゃるかもしれない。IPOとは「Initial Public Offering」の略語で、日本語に直すと「新規株式公開」とか「新規公開株」「新規上場株式」などと呼ばれる。株を投資家に売り出して証券取引所に上場し、誰でも株取引ができるようにすることだ。IPOは株式投資の醍醐味の一つだ。

では、本題のICOとは何か。「Initial Coin Offering」の略語で、日本語に直すと「新規仮想通貨公開」などと呼ばれる。具体的には資金調達をしたい起業家や開発者など(調達サイド)が、自分たちが提供するサービスで使える“独自”の仮想通貨を発行・販売し、投資家から資金を調達する手段を指す。投資家の資金提供の見返りに調達サイドは、そうした独自通貨である「コイン」や「トークン」と呼ばれるものを付与(発行)する。これには実にいろいろなタイプがある。というより、個々のケースでそれぞれ違う。

ビットコインがICOの一連のプロセスで実際に使われるのは、投資家が払い込む際だ。ICOをする調達サイドは、投資家にコインやトークンを発行し、逆にビットコインなど「換金性のある仮想通貨」での払い込みを求める。

ここでややこしいのは「仮想通貨」という単語が何回も出てくることだ。ここで多くの人はこんがらかる。調達サイドが発行するコインやトークンも仮想通貨(呼ばれ方は色々だが)であり、一方投資家が払い込むのも仮想通貨(としてのビットコインやイーサリアム、以後イーサ)である点だ。

この2つの違いはこうだ。 ―― 多くのケースにおいて調達サイドが発行する(と約束する)独自の仮想通貨には、少なくとも当初においては換金性(つまり現実の円とかドルとかの通貨との交換性)がない。一方で、投資家が払い込むビットコインやイーサにはすでに換金性がある ―― 調達サイドは、投資家に換金性のある仮想通貨で払い込みをしてもらえるからこそ、それを事業資金に使えるのだ。

換金性の有無

常識的に考えて、換金性の「ある」仮想通貨と「当面ない」それとでは、前者の方が魅力的だ。例えばビットコインはビックカメラでも聘珍樓でもすでに使える。ではなぜ、投資家はその実生活に使える換金性のある仮想通貨を、調達サイドが発行する「当面換金性のない仮想通貨」入手のために喜んで提供するのか。

そこにあるのは「期待」だ。その中身は、「投資先企業・事業の成長」「当該企業の財やサービスの入手」「事業への賛同」や、「その仮想通貨の売買がいずれ可能になり、さらに値上がりすることへの期待」など、様々だ。一般的にICOは3つに分類される。投資型、寄付型、購入型だ。

実はICOには「調達サイドに大きなメリット」がある。起業したばかりのベンチャーや個人がわずらわしい手続きをすることなく、簡単にインターネット上で資金調達できる仕組みだからだ。IPOは証券取引所に上場するのでその審査を通らなければならないし、そのためには証券会社も雇わなければならない。しかしICOでは、IPOにあった面倒な手続きや作業(各国によって相違がある)は、かなり割愛される。投資家の強い期待と相まってICOがにわかに人気になった背景でもある。

しかしそこにはリスクも潜む。そもそもICOが想定されるのは、ベンチャーキャピタルから資金提供を受けるずっと前の段階。つまり起業後、親類や篤志家などから最初の資金を調達するフェーズに該当すると思われる。手軽に資金調達できれば起業にトライする層が広がるため、経済成長にはプラスになる。一方、ICO発行に際して作成される目論見書(ホワイトペーパーと呼ばれる)では、資金提供者が将来得られるベネフィットを必ずしも明確にうたっているわけではないことも多い。実際に調達サイドはほとんど義務のない状態で資金を手にすることができる。

つまり、仕組みそのものは資金提供者に不利にできている。事業は初期であればあるほどリスクが大きい。ということは多くのケースにおいて失敗の可能性があり、その場合には提供した資金は一部ないし全額戻ってこないというリスクもある。

信頼性こそ命

ICOは、調達サイドにとっては容易に資金調達できるメリットがある。投資家サイドに値上がりを含め価値増大を得られる期待感もあったため、特に中国では今年の春から一大ブームが起きた。人々はICOに飛びついた。2017年前半だけで合計65件、26億元(約450億円)の資金がICOによって調達されたとされる。しかし実体のないコインやトークンを販売するなど、調達サイドの詐欺行為が横行したため、9月初めに当局がICOを全面禁止した。

この段階で世界は「仮想通貨の危機」のように受け取ったが実はそれは、未完成・未成熟さ、または詐欺行為(つまり調達側の悪意)による「ICOという資金調達方式の危機」であって、すでに流通しているビットコインやイーサ自体の危機ではなかった。故にその時点で下げたビットコインやイーサの相場は、その後大きく値を戻している。最近は値上がりペースがやや心配なほど速まっている。

ICOはインターネット上で不特定多数を対象に法定通貨(円とかドル)での資金調達を行うクラウドファンディングと似ている。クラウドファンディングは日本の芸能人まで使う資金調達手段(例えばアルバム制作費の調達)になるなど一般化している。しかしICOは、一部では熱烈な投資の対象になってもいるが、日本ではまだあまり利用されない資金調達方法である。日本では一部のベンチャー企業が検討を始めた段階。法規制がほとんどないことは「自由度が高い」が、一方で容易に詐欺の手段となる危険性もはらむ。

しかしICOの成功例は米国でもいくつか報告されている。要するに発行元の信頼度が一番大事だ。筆者の基本的考え方は、「ICOには大きなポテンシャルはあるが、魅力的なプロジェクトも発行元も日本ではまだ出てきていない。よってICOに対する投資は当面は考えない」というものだ。ICOはひとくくりでは考えられない。繰り返すが、個々の発行元の信頼度がICOでは極めて重要だと思う。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。