金融そもそも講座

今のマーケットの立ち位置は?

第200回

今回は、年末も接近してきたので「今のマーケットの立ち位置は?」という少し長い観点から、マーケットで起きていることを改めて検証しておきたいと思う。この文章を書いているのは11月22日の朝。たまたま21日のニューヨーク市場は急騰し、ダウ工業株30種平均、S&P500種株価指数、ナスダック総合株価指数の3大株価指標はそろって史上最高値を更新した。

11月に入ってそれまでの上げ歩調は高値警戒感から大きく乱れる局面があり、市場全体がやや不安定な時期も見られた。東京市場もそうだったが、その後また株価は力強さを回復しつつあるように見える。米国では4年間続いたイエレンFRB(米連邦準備理事会)議長時代が終わろうとしている。次の議長も指名された。こうした背景には何があるのだろうか?

ビットコインに関する考察は今後も続けるが、ベンチャー企業が仮想通貨で資金調達する「ICO(イニシャル・コイン・オファリング)」など難しい問題もあり、次回以降に再開したい。

今の立ち位置

今のマーケットの立ち位置、という発想は少し長いチャートを見る中で生まれたものだ。筆者はiPhoneを使っているが、「株価」という最初から入っているアプリで、しばしば色々なタームのチャートを瞬時に描かせて見ている ―― 画面回転のロックをオフにしスマホを横にすると、全画面で長い期間のチャートが描けるので便利だ。他のスマホでも同様の機能はあるだろう。最近ネットにはチャートサイトを検索できるサイトも数多い ―― そのように改めて見ていて、ある事に気がついた。

見たのはダウなどニューヨークの代表的株価指標。ダウの今回の息の長い株価の上昇局面が始まったのは、2009年3月初めだと分かる。iPhone上の表記ではその時(表示上は3月2日)のニューヨーク・ダウは6627ドルと出ている。当時を調べると、ザラ場ではその翌週(3月9日)に6555ドルまで下げる局面も確認できた。いずれにせよ、今のレベル(2万3000ドルの後半)との乖離(かいり)、遠さに驚くが、それと同時に、09年を大相場のスタートとすると来年はいよいよ10年目、という感慨も湧いてくる。

今のニューヨーク株の上昇期間は戦後のどの期間よりも長いので、「もうそろそろ」という声も以前から聞かれる。少し株価が高値波乱になると「そら始まった」との意見も出るが、その度にニューヨークの株は高値を再び追い、そして世界の株価もそれに追随した動きをしてきた。今の東京の株価の上値追いも、基本は依然として世界で圧倒的な存在感を示す米国経済の一大指標であるニューヨーク株の高値追いを反映したものだ。

Super-Goldilocks Market

「なぜそれほど強いのか」については、しばしばこの連載でも取り上げてきた。かいつまんで言えば、経済活動はほどよく強く、しかし株価にとってしばしば脅威(競争相手)となる長期金利を大きく押し上げる程ではなく、中央銀行は全体的には依然として緩和的な金融政策を続け、そしてICTやネット革命に乗った企業(その多くは米国に本社を構える)が成長著しく高い収益を上げている……となる。

それを一言で言えば「Super-Goldilocks Market」だ。お金が、ある程度安心してそして満足できる行き場は、株式市場以外には少ない。リーマン・ショック(08年9月15日のLehman Brothers Holdings Inc.の経営破綻と、その後の連鎖的・世界的な金融危機)によって6000ドル台半ばという極めて低い水準(今改めて見ると、同ショックを鮮明に覚えている筆者でも驚く)に株価が落ち込んだからこそ、今の息の長い株価の上昇があるという見方もできる。つまり十分にスタート台が低かった。

そこから見ると今のニューヨーク・ダウの水準は3倍をはるかに超え4倍に近い。思えば遠い道を来たものだ。当時のマーケットの危機を知る者の中で、「10年以内に株価が4倍近くになる」と予測した人はほとんどいないだろう。それほどの深刻な危機だった。もっとも今の株式投資家の中には、リーマン・ショックを実体験していないという人も増えているに違いない。

FRBや日銀、ECB(欧州中央銀行)などの世界の主要な中央銀行は、各国政府の財政がきつい中で懸命に世界経済を支えた。具体的には膨大な資金供給をした。それが今の世界的なマーケットの堅調さに寄与していることは間違いない。しかし筆者はICT技術、ネット技術の進展の中で我々を取り巻く生活環境が大きく変化し、それがマーケットに活力を与える企業の出番を作っていることが大きいと思う。

実感できる技術革新

既に9年間も続き、来年の春からはいよいよ10年目に達するマーケットの上げ基調が今後も続くかどうかは、綿密な検証が必要な問題だ。しかし筆者の基本的な考え方は、マーケットが上げを急ぎ過ぎて過熱しなければ今の強気マーケットは今後も続く可能性がある、というものだ。

それは第一に「強すぎない世界経済の持続」が予想されること。例えば世界経済の中で抜きんでた地位を占める米国経済に関しては、最近ゴールドマン・サックスが来年末までの成長率見通しを引き上げた。同社のこれまでの18年成長予測は2.4%だったが、それを2.5%に引き上げた。僅かな引き上げだが、その結果「失業率は17年10月の4.1%から18年に3.7%、19年後半には3.5%になる」と予想している。

加えてインフレ率も今までの予想よりは上がるため、「来年の米国では年間4回の利上げの可能性がある」との見通しだ。今の大方の予想(3回)よりは「利上げ加速」との見方だ。しかしそれでも戦後の米国景気の回復期に比べればゆったりしたペースだ。グリーンスパンFRB議長の時代にはFOMC(年間8回)ごとに0.25%の利上げをしていた時期がある。それに比べれば依然としてゆるいペース。ゴールドマンの予測でもインフレ率に関しては「やや加速するが、それでも2%の目標以内」とされている。

筆者が加えて注目しているのは、技術革新の加速だ。アップルが最新スマホ(iPhone X)で顔認証を採用したことから、認証技術は「指から顔」へと一段と上がったし、アマゾン・ドット・コム、グーグル、LINE、ソニーなどが相次いで発売したか今後発売する「AIスピーカー」は、我々の生活を大きく変えそうだ。

我が家にはグーグルホームが2台あるが、ニュースの取得、予定の確認、そして音楽の聴取習慣が大きく変わった。「ICTによって生活が変わってきている」という実感がある。音声認識の進歩は著しいし、「身の回りの変化の加速」がIT株の上昇も加速している。今のニューヨーク株の上げを先導しているのはハイテク株だ。11月21日のニューヨーク市場ではナスダック総合株価指数は1日で1.1%も上がった。

今後大きく変わりそうなのは車だ。各社のEVシフトは急速で、車周りの情報環境も大きく変化している。マーケットが変な形で熱を帯び過ぎなければ、今のマーケットの立ち位置は良く、マーケットはまだ比較的有望なのかもしれない。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。