1. いま聞きたいQ&A
Q

企業の収益力はどのように測るのですか?

前回はQ&A「自己資本比率の計算方法は?」とのご質問に併せて、企業の財務安全性の分析方法を説明いたしました。財務安定性に目を配ることは企業内容の分析には欠かせないものですが、これだけでは片手落ちになってしまいます。もうひとつ、企業の収益力についても調べておかなければなりません。そこで前回の続きとして、今回はこの点をご説明いたします。

企業の財務安定性を調べるにはその企業の「貸借対照表」が重要でしたが、収益性を見るには貸借対照表に加えて「損益計算書」を用います。企業が決算期を迎えるたびに定期的に公表しており、最近ではインターネットを使って企業のホームページから簡単に入手できます。ここでは東証1部の電機メーカー、松下電器産業(6752)とユニデン(6815)の2005年3月期の決算書を使って、収益性の分析を行ってゆきます。

収益性の分析

■売上高利益率
企業が1年間にあげた売上高に対して、利益はどれくらいの水準にあるのかを測る指標が売上高利益率です。短く「利益率」と呼ばれることもあります。企業の収益性を分析する上で最も基礎になる部分です。ある企業を別の企業と比較する場合、売上高や利益の規模が異なっていると比べにくいものですが、利益率を計算すれば簡単に比較できるようになります。

売上高利益率=利益÷売上高×100

この「利益」のところに営業利益をあてはめれば「売上高営業利益率」、経常利益を入れれば「売上高経常利益率」となります。ここでは受取配当金や支払利息を除いた、その企業の本業部分の利益を表す「売上高営業利益率」を使います。

ユニデンのケース:15,858÷83,960×100=18.9%(単位は百万円、以下同じ)

松下のケース:308,494÷8,713,636×100=3.5%

両社の売上高を絶対額で比較すると実に100倍以上の開き(800億円と8兆円)があります。ところが営業利益の規模ではその差は20倍に縮まります。売上高営業利益率は売上高1単位あたりの営業利益の額を示しており、松下は売上高100に対して営業利益は3.5ですが、ユニデンは売上高100に対して営業利益は18.9にもなります。利益率で比べるとユニデンは松下の実に5倍以上の利益を稼ぎ出していることがわかり、それだけユニデンの収益性が高いということが判明します。

■資本利益率
企業の収益性を分析する場合、実はこの資本利益率が真っ先に取り上げられるべき項目です。企業は借入金や増資によって外部から資本を集めて事業を行っています。企業が集めてきた資本に対してどれだけの利益を稼ぎ出しているか。資金を提供している株主としても、あるいは運転資金を貸し出している銀行(債権者)としても、最も注意して見守るべき指標です。

資本利益率=利益÷資本×100

分子の「利益」のところには当期純利益をあてはめます。分母の「資本」に「総資本(=総資産)」を入れれば「使用総資本利益率」になり、これが「ROA(リターン・オン・アセット)」と呼ばれるものです。同じように分母に「株主資本(=自己資本)」を持ちれば「株主資本利益率」になり、こちらは「ROE(リターン・オン・エクイティ)」と呼ばれます。ここでは最も代表的なROEを見てゆきます。

ユニデンのケース:12,629÷70,046×100=18.03%

松下のケース:58,481÷3,544,252×100=1.65%

株主資本は株主からの出資金で構成されており、したがってROEが高いほど株主に対して利益を稼いでいる優良企業ということになります。

注意点すべき点は、企業の資本の額が非常に小さい場合(=借入金の額が非常に大きい場合)には、上記の計算式の結果として、利益の額が比較的少なくてもROEは高めに算出されることになります。いくらROEが高いほうが優良企業だといっても、財務安全性の見地からは疑問符がつきます。

このようなケースに備えて、ROEを見るときは、同時にROAの数値もチェックしておくことが必要です。借入金の大きい企業は、たとえROEは高くてもROAは低くなりがちです。

■資本回転率
企業が経営を行う上で必要な資源(=保有資産)をどれだけ効率的に活用しているかを測る尺度です。通常は「使用総資本回転率」が用いられます。企業が外部から調達した資本や負債は、何かしらの資産に形を変えて企業内部に保有されています。それが1年間で売上高にどれだけ転化されたか(何回転したか)を計算します。

使用総資本回転率=売上高÷総資産(単位は回)

ユニデンのケース:83,960÷93,216=0.90(回)

松下のケース:8,713,636÷8,056,881=1.08(回)

保有資産の効率的な活用という意味では、ユニデン(0.90回)よりも松下(1.08回)に軍配があがります(ユニデンの数値もかなり高いものです)。

両社の例でもわかるように、「使用総資本回転率」の数値は「0.90」とか「1.08」のように非常に小さな値で示されます。その微妙な差を比較しあうことになります。一般的に言って、大企業が保有資産を1年間で(売上高として)1回転させるのはかなり効率性が高いと考えられます。松下が行っている大規模なリストラ計画は日本の産業史に残るほどのもので、その効果はやはりこのようなところに現れていると指摘することができます


参考 「財務諸表分析」平澤英夫、日本経済評論社

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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