今回は、株式を売買する時のテクニックについてのご質問です。ある銘柄をいくらで買うか、いくらになったら売るかという問題は非常に奥の深い問題です。説明するにも簡単にはいかないところがあって、それこそこのテーマだけで本が1冊書けてしまうほどです。しかも一般的な理屈をいくら頭で理解しても、実際の売買ではその通りになかなか実行できないものです。
株式市場では「株価は生き物」と言われるほどで、わずかなタイミングの差で相場状況が大きく変わってしまいます。そのために買い時、売り時を逃してしまうことがしばしば起こります。しかも株価は個々の企業ごとに異なった値動きをとるため、P社には通用したことがQ社には通用しないことも多々あります。ベテランの投資家でも株式売買の技術に関しては、常に問題意識をもって技量の向上を心がけています。完璧なる技術というものはいまだどこにも存在しないのではないかと思います。
説明を進める前に注意点をもうひとつ。売買の技法については星の数ほど理論があります。それは、それぞれの投資家の投資に対するスタンスが、各個人によってまったく異なっているためです。好みや価値観の問題と言ってもよいでしょう。順張り派(株価が上昇トレンドにある銘柄を買う)と逆張り派(株価が下落トレンドにある銘柄を買う)だけをとっても、買いの根拠はまったく異なります。ファンダメンタルズに基づく投資法と、テクニカル分析に基づく投資法でも理屈は異なります。
それらを十分に理解した上で、ここではあえて売買に関する一般的なポイントを述べてみます。
まずは買いについて考えてみます。株価の適切な買いポイントはどこか。これは投資家にとって永遠のテーマです。まず基本的な部分に立ち返って考えると、買いで利益を上げるにはその銘柄が値上がりを続けなければなりません。当たり前のように聞こえますが、買いで利益を上げるためには株価の上昇が必要です。それには上昇トレンド(上昇基調)にある銘柄を探すのが何よりも優先されます。
上昇トレンドにある銘柄を見つけたとして、順張り派の立場から述べれば、買いのポイントは「直前の高値を上回った時点」となります。<図1>で示せば、直前の高値「F」を超えた「H」点、あるいはもうひとつ前の直前高値である「D」を超えた「J」点、ということになります。
この銘柄は安値をA~C~Eと切り下げながら、同時に高値がB~D~Fと切り下がってきました。安値を切り下げ、同時に高値も切り下がるという、完全に下落基調(下降トレンド)に入っている銘柄です。このような軌跡を描いている銘柄の場合、どこで買ったとしても大きな値上がり益はとれません。とれたとしてもA→B、あるいはC→Dというように非常に小さな値動きの中で値上がり益を狙うしかありません。
大きな値上がり益をとるには、上昇トレンドにある銘柄を狙うべきです。<図2>は、<図1>で描いた銘柄のその後のイメージです。E~F~G~K~M~Nで描かれている部分がまさに上昇トレンドにある部分です。<図1>から<図2>に変わっていく過程で、下落トレンドから上昇トレンドに変化した最初のポイントが、まさに「直前の高値」F点を抜いたH点や、D点を抜いたJ点にあったわけです。
下落トレンドにある銘柄の特徴は、安値を切り下げ、同時に高値も切り下がるという形にあります。<図1>のH点において、直前の高値F点を抜いたことで(あるいは次のJ点でひとつ前の高値D点を抜いたことで)下落トレンドが変わったことが確認できます。その後は<図2>のE~F~G~K~M~Nが描くように、安値を切り上げ、同時に高値も切り上がる上昇トレンドへと移ることになりました。その後も、K点やN点を抜く時にそれぞれ大きな買いのポイントが現れます。買いの指値はこれらのタイミングで入れることがベストです。
買いの場合、安く買えるにこしたことはありません。<図1>の中で最も安い点はE点です。ではE点が最も買いに適したポイントということになるかというと、そうではありません。E点は、株価がE~F~Gと動いてゆく過程で、F点をつけた後の安値であるG点が、E点まで下がらなかった結果できた点です。E~F~Gと動いてきた株価が、それまでの下落トレンドがひょっとしたらそのまま続いて、G点で下げ止まらずにL点まで安値を切り下げたかもしれないのです。そうなるとE点は、最も買いに適したポイントどころではありません。A点やC点と同じように、いつ終わるともわからない下落トレンドの単なる一過程に過ぎなくなります。
つまりE点は、G点がE点まで下がらず、しかもその後に「直前の高値」であるF点を上に抜ける(H点)ことで結果的に確認できるだけの点なのです。後から調べてみて確認できるだけの点に過ぎず、そのE点での買いを考えるという行動はかなりのリスクを背負うことになります。
次に売りについて考えてみます。これは買いの場合とは正反対で、上昇トレンドが終わり下落トレンドに入ったことが確認された段階で売りのポイントとします。それは株価が「直前の安値を下回る」ことで確認されます。
<図3>では株価がP~Q~R~S~Tという上昇トレンドを描いてきました。上昇トレンドは、高値が次第に切り上がり、同時に安値も切り上がるというパターンです。ところがV点は直前の高値であるT点に届きませんでした。それまでのパターンが崩れてきたことを示しています。そしてW点において、直前の安値であるU点を下回りました。
さらに株価はY点まで下落し、ひとつ前の安値であるS点も下回りました。このような状況になった時を「上昇トレンドから下落トレンドに変わった」点ととらえて、重要な売りのポイントとします。売り指値のポイントもおわかりいただけると思います。