中身が分からないものに投資する危うさ
今回は毎月分配型投信の人気上昇を通して見えてきた、投資家サイドの問題点を考えてみたいと思います。
毎月分配型のなかでもとくに大きな人気を呼んだ「通貨選択型投信」について、資産運用の指南役であるFP(ファイナンシャルプランナー)の間では、運用の中身が分かりづらいという声が聞かれます。確かに通貨選択型投信は、投資のプロセスが2段階になっていることなどから、収益獲得の仕組みやリスクの大きさを把握しづらいのが実状です。
しかしながら、少し厳しい言い方をするならば、日本の個人投資家が中身のよく分からないものに投資するのは、何もいまに始まったことではないでしょう。例えば過去にジャスダックやマザーズなど新興市場の株式が注目を浴びた際に、事業の内容や成長性をよく吟味せず、あるいはそれらを理解していないにもかかわらず、株価上昇率の大きさに誘われて投資した人も多かったはずです。
投資対象の中身や運用の仕組みがよく分からない以上、それが米国のハイ・イールド債券であろうが、為替予約を用いた高金利通貨であろうが、私たちにとってなじみの深い日本国内の株式であろうが、投資にまつわる「危うさ」は変わらないといえます。
こうした危うい投資が繰り返される背景として、個人投資家が陥りやすい次のような傾向が影響していると思われます。
- ●新しいタイプの金融商品や、旬の投資テーマに弱い。
- ●相対的な利回り比較など「ヨコ軸での投資戦略」には熱心な半面、過去の検証や将来の予測といった「タテ軸(時間軸)での投資戦略」には関心が薄い。
- ●投資対象についてよく分からなくても、結果として相応のリターンが得られれば、それでよしと考える。
新商品や旬の投資テーマが好きな人にとっては、耳の痛いデータがあります。投信評価会社のモーニングスターが、1999年度以降の各年度に新規設定された投信のうち、各年度末で純資産の大きかった(人気の高かった)上位10本について、翌年度以降3年間の運用成績を調べました。すると、ほとんどの投信において運用コストを差し引いたリターンが、代表的なインデックス(市場平均)を下回っていました。
とくにIT(情報技術)株ブームだった1999年度や、中小型株の人気が高まった2004年度に新規設定された投信には、その後の3年間でインデックスに大きく負けているものが目立ちます。設定後のITバブル崩壊や、いわゆるライブドア・ショックといった想定外の出来事により、基準価額が大きく下落したことが直接的な要因です。
ただし、IT株も中小型株も当時はすでに相場が過熱の様相を呈しており、高値づかみのリスクはもちろん、大きな調整(相場の下落)のリスクも顕在化していたといえます。投資家が購入の時点で、こうしたリスクを含む投資対象の特性をきちんと意識していたかといえば、はなはだ疑問です。
通貨選択型投信に迫りくる金利上昇のリスク
通貨選択型投信は、実は設定後に大きな調整を一度も経験していません。その意味では参考になる過去のデータがないのですが、将来への不安がないわけではありません。
今後、米国をはじめとする先進国で金利が上昇に転じた場合、通貨選択型投信がリターンの源泉としている海外の高利回り債券や高金利通貨は、いずれも相対的な投資魅力が薄まり、下落することが予想されます。そして、いま先進各国が急いでいる景気回復と、それをフォローするための金融緩和は、いずれも長期金利の上昇を誘発するものです。
相対的な利回りの高さに着目したのだから、結果として自分が満足できるだけのリターンが得られればOK、と投資家は言うかもしれません。ただ、そのためには近い将来に訪れそうな「売り時」の見極めが、かなり重要になってくるでしょう。
あるいは最初から、短期投資と割り切って投資した人も多いのかもしれません。その場合、また新たに次の投資先を考えたり、購入時の手数料を負担する必要が出てきます。いずれにしても、中身がよく分からないものへの投資は結果として手間もコストもかかる行為であり、日本の個人投資家には今も昔も、そうした苦行をあえて選ぶ人が多いといえそうです。