運用会社による分配金競争が過熱
「毎月分配型投信」の人気ぶりは、すさまじいのひと言です。投資信託協会によると、昨年(2010年)11月末の時点で、毎月分配型投信の純資産残高は32兆7,898億円に達しました。この数字は、私たちのような個人投資家がいつでも売買できるオープン型株式投信全体の65%にあたり、その占有率は2カ月連続で過去最高を更新したことになります。
いまや販売サイドからは「投信は毎月分配型でなければ売れない」という声さえ聞かれるほどで、投信業界にとって毎月分配型投信は、歴史に残る大ヒット商品といっても過言ではないでしょう。ただし当然のことながら、こうした異常人気には「功」と「罪」の両面があります。
功としてはまず、預貯金の低金利に飽き足りない一般個人の、少しでも高い利回りを享受したいというニーズに応えたこと。定期的に分配金が出るという仕組みは結果として、個人投資家が小まめに利益を確定する行動につながり、リーマン・ショック以降の相場急落時において、その影響を小さく抑える効果もあったようです。FX(外国為替証拠金取引)とともに、海外資産での運用を日本人の間に広く普及させたという側面もあります。
罪として最も大きいのは、毎月分配という投資家にとっての利便性よりもむしろ、分配金の高さという収益性に注目が集まった結果、運用会社による「分配金競争」が過熱したことです。2009年度(2009年4月~2010年3月)に資金流入額が大きかった毎月分配型投信の上位10本を見ると、そのうち実に9本までが2010年3月に100円以上(1万口あたり)という高い分配金を出していました。
その後もこうした高分配の傾向は続いています。2010年9月~11月に資金流入額が大きかった上位10本は、いずれも月に90円~250円の高分配を実施している投信です。毎月分配型投信全体における「分配金利回り」は、2010年11月に平均で年率10.6%と過去最高を記録しました。分配金利回りとは、過去1年間の分配金総額をその時点の基準価額で割ったもので、株式における配当利回りに相当します。例えば、ある毎月分配型投信の基準価額が10,500円で、その投信が過去1年間に合計で1,050円の分配金を出していた場合、分配金利回りは【1,050÷10,500=0.1(10%)】となります。
高い分配金利回りは人工的につくれる!?
分配金利回りに関しては、注意しなければならない点が2つあります。ひとつは配当利回りと同様に、過去1年間の分配金総額が今後1年間も続くという、いわば仮定に基づいた数字であること。もうひとつは、運用会社が無理して分配金を出すことにより、高い分配金利回りを恣意(しい)的につくれるという点です。
極端な例ですが、新規設定された毎月分配型投信の基準価額が運用益によって月に100円ずつ上昇して、そのうち50円ずつを分配に回したとします。基準価額は当初の10,000円から11カ月後には10,550円となり、分配金総額は550円となっています。12カ月目に基準価額が横ばいとなり、分配金を出さなかった場合、分配金利回りは【550÷10,550=0.052(5.2%)】です。一方、基準価額が横ばいで運用益が上がらなかったにもかかわらず、従来どおりに分配金を50円出した場合、分配金利回りは【600÷10,500=0.057(5.7%)】です。
両者を比較すると、分配金利回りでは後者の方が高くなっていますが、現在の基準価額に過去の分配金総額を足して求める実質的な運用成果は、いずれも【11,100÷10,000=1.11(+11%)】となり、同じであることが分かります。
野村総合研究所によると、2010年11月末現在、日本国内で販売されている毎月分配型投信683本のうち76%にあたる518本において、基準価額が設定当初の10,000円を下回っています。なかには運用による損失で基準価額が下がったケースもありますが、運用元本や過去の運用による「貯金」の一部を取り崩して、実際の運用益以上の分配金を捻出している毎月分配型投信も数多く見られます。
私たちは月々の分配金や分配金利回りの高さというものを過剰評価しないよう、気をつけなければなりません。すでに毎月分配型投信を保有している人も、分配金の高さに満足するだけでなく、常に基準価額の推移を含めた実質的な運用成果に気を配る必要があります。
次回も引き続き、毎月分配型投信がもたらした影響や問題点について、さらに考えてみたいと思います。