騰落率が高ければ良いわけではない
ファンドマネージャーの投資判断などによって、市場全体の値動き(収益率)を上回る運用成果をめざすファンド(投資信託)を「アクティブ型ファンド」と言います。アクティブ型ファンドの運用の優劣を見る場合、ファンドに運用を託す投資家の立場からすると、「とにかく騰落率が高ければ高いほど良い」というのが本音ではないでしょうか。
しかしながら、ファンドの騰落率は組み入れた銘柄の種類や時どきの投資環境に左右されがちな面が多々あります。たとえば、株価が乱高下しがちな銘柄を多く組み入れていて、それがたまたま大きく値上がりしたおかげで基準価額が高くなったようなファンドの場合、今後その銘柄が大きく値を下げたら、基準価額も大きく下がってしまうでしょう。つまり、過去の騰落率という表面上の数字だけでは、ファンドの運用の巧拙や今後の展望は見えにくいわけです。
ファンドの評価情報を提供しているモーニングスターなどの金融商品評価会社や、R&I(格付投資情報センター)などの格付け機関では、騰落率の高さに加えて運用の安定度やリスク・リターン効率も重視しながらファンドの優劣を判断しています。具体的には「シャープレシオ」という指標を用いて、過去の一定期間における基準価額の上昇(リターン)が、どれだけブレ(変動率=リスク)の小さな運用によってもたらされたかを数値化し、検証しています。
運用の安定度と効率性を測るシャープレシオ
シャープレシオは単純化すると、「基準価額の上昇率(リターン)÷標準偏差(ブレ)」という計算式によって求められます。シャープレシオの意味を理解するために、極端な例ですが、以下のような3つのファンドがあったと仮定して考えてみましょう。
- ・ファンドA:基準価額の上昇率5%で標準偏差10%(シャープレシオ0.5)
- ・ファンドB:基準価額の上昇率10%で標準偏差30%(シャープレシオ0.33)
- ・ファンドC:基準価額の上昇率5%で標準偏差20%(シャープレシオ0.25)
(基準価額の上昇率はいずれも過去5年間の年平均リターン)
ここで言う標準偏差とは、ちょっと専門的になりますが、68%という確率で現れるブレの大きさを示した統計学上の指標のことです。
ファンドAの場合、1年間の基準価額の上昇率が年平均リターン(5%)を中心に±10%の範囲、すなわち+15%から-5%の間に収まる確率が68%あることになります。ちなみに、ファンドAの基準価額が1年間に+15%より大きく上がったり、-5%より大きく下がる確率は、残りの確率32%の半分にあたる16%です。
同様にファンドBは、1年間の基準価額の上昇率が+40%から-20%の間に収まる確率が68%あり、基準価額が1年間に+40%より大きく上がったり、-20%より大きく下がる確率は16%あります。ファンドCは、1年間の基準価額の上昇率が+25%から-15%の間に収まる確率が68%あり、基準価額が1年間に+25%より大きく上がったり、-15%より大きく下がる確率が16%です。
こうしてみると、過去5年間の年平均リターンはファンドBが最も大きいものの、運用の安定度という点ではファンドAが最も優れていることがわかります。また、ファンドCは年平均リターンがファンドAと同じですが、基準価額のブレの大きさはファンドAの2倍もあります。ファンドCは、同じだけのリターンを得るためにファンドAよりも大きな基準価額のブレを余儀なくされている(リスクを取っている)わけで、これは運用の効率が悪いことを意味します。
このように、基本的にはシャープレシオが大きいほど、より少ないリスクで効率的にリターンを上げたとみなすことができます。とくに同じような騰落率の似通ったファンドを比較・検討する場合には、シャープレシオの数値は大いに参考になると言えるでしょう。ただし、シャープレシオはあくまでも過去のデータに過ぎないため、将来の運用にもそのまま当てはまるわけではないことには注意が必要です。