全国各地からサクラの開花便りが届いています。サクラが咲くとすぐに年度が変わります。昔から人は、新年の元旦と自分の誕生日、そして年度の替わり目、という「1年に3度」決意を新たにすると言われます。フレッシュな新入社員の緊張に満ちた顔が街中にあふれ、それを見て社会人の先輩たちも自分の新人時代を思い出して、また気持ちを新たにして日々の仕事に取り組んでゆきます。4月1日は特別な区切り、新しい決意の時でもあります。
決算年度は4月1日から始まるというのが一般的です。東京、大阪の証券取引所第1部に上場する1603社のうち、4月1日から新年度が始まる、いわゆる「3月決算」の会社は1327社あります。全体の82.8%の企業が3月決算を採用しています。
しかし中には3月決算以外の企業もあります。代表的なのが質問にもありますように小売業界の「2月決算」です。先の1603社の中で言えば、全体の5.4%に当たる87社が2月決算を採用してます。円グラフで示されているように、月ごとの決算社数の割合を見てみますと、やはり3月決算を採用する企業は全体の83%にのぼり、圧倒的に多いことがわかります。次に多いのが12月決算の6%です。そして2月決算企業の5.4%は第3番目に多いことになります。そしてそのほとんどが小売関連企業です。2月決算の代表的な企業を挙げてみますと、次のようになります。
2月決算の小売関連企業
【デパート】
三越、高島屋、大丸、松坂屋、松屋、近鉄百貨店、丸栄
【スーパー】
イトーヨーカ堂、イオン、ダイエー、ユニー、マルエツ、東急ストア、東武ストア、フジ、十字屋、井筒屋、ヨークベニマル、イズミ、平和堂
【コンビニ】
セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、ポプラ
【アパレル】
オンワード樫山、東京スタイル、鈴丹、しまむら、ジーンズメイト、タカキュー、西松屋チェーン、キャビン、インパクト21
【外食】
吉野家ディー・アンド・シー、デニーズ、リンガーハット、プレナス、東天紅
【その他】
良品計画、パルコ、ニトリ、ベスト電器、チヨダ、エービーシー・マート、ガリバーインターナショナル、東宝、松竹
これを見ると、日本を代表する小売関連企業の名前がほとんど網羅されています。この他にもホームセンターのホーマック、通販のシムリー、ドラッグストアのスギ薬局、イオンの子会社になったスーパーのポスフール(旧・マイカル北海道)、レナウンダーバンホールディングスも2月決算企業です。
「ユニクロ」で知られるファーストリテイリングや、カジュアルイタリアレストランのサイゼリヤ、家具の島忠、居酒屋チェーンの大庄は8月決算を採用していますが、これらの企業は2月が中間決算になります。これも一種の2月決算企業と見ることができるでしょう。
小売業界の売上高は、私たちひとりひとりの消費行動に直結しています。いわば個人消費関連企業です。年を通じて消費活動が一番盛り上がるのは、今も昔もお中元、お歳暮の時期です。ボーナスが支給される6月と12月には、全国的に「ボーナス商戦」が活発になり、小売店側は大々的なバーゲンセールを打って顧客の取り込みを図ります。冬物や夏物衣料、季節の変わり目の食材、贈り物など、年間で最も消費活動が活発になるのが12月~1月の年末年始、次が6月~7月のお中元から夏休みシーズンにかけてです。
その反動減が翌月の2月と8月に出てきます。いわゆる「ニッパチ」と呼ばれるものです。消費者の買い疲れとも言うべき現象ですが、前の月までの散財で財布の中身も少し寂しくなります。2月と8月は気候的にも寒さ暑さがピークを迎え、外に出かけるのがおっくうになります。消費者の間で盛り上がっていたそれまでの買い物に対するテンションの高さが峠を越え、街中のムードも少し落ち着いてきます。日常業務のあわただしさがピークを超えたその時期に、小売業界は決算を締めてしまいます。
決算月というものは、企業にとって非常にあわただしいものです。1年の区切りが迫っているわけですから、やり残した仕事は何とか年度内に片づけてしまおうとするでしょうし、売上目標の達成ににあと少しというところは、ラストスパートの営業活動に拍車がかかるでしょう。
1年分の帳簿を締めるために、全国の支店から経費や売上高の集計伝票が本社に送られてきて、経理部ではそれを全部まとめなければなりません。「どれだけ売れたか(=売上)」、「売るためにどれだけコストがかかったか(=経費)」を計算するとともに、「どれだけ売れ残ったか」という棚卸(たなおろし)の作業も重要です。この棚卸作業が時間と人手のかかるたいへんな仕事なのです。さらにそれらと同時進行で、次の年度の計画も立てる必要が出てきます。
決算期の最後の月は必然的にどこの企業でもたいへん忙しくなります。雑念を払ってその膨大な作業に集中するためには、できるだけ他の仕事が入らないようにした方が手際よくはかどります。年度を通してできるだけ手のすいた時期を選ぶとなると、小売業界の場合は、比較的繁忙さから開放される2月と8月という時期になります。これが小売業界に2月決算が多い理由です。
小売関連、消費関連企業は2月決算(8月決算)を採用することが多いのですが、あくまで「多い」というだけであってすべての消費関連企業がそうではありません。12月決算の会社も多く見受けれらます。西友は12月決算です。キリンビール、アサヒビール、サッポロホールディングスのようなビール会社も12月決算を採用しています。すかいらーく、ロイヤルの外食産業の仲間もそうです。またデパートの伊勢丹やスーパーのいなげや、牛丼のゼンショーは3月決算です。
小売業界に限らず企業の決算期は、長年の取引先とのつきあいや昔からの商慣習に基づいて、それぞれの企業の年間スケジュールに合わせて決算月を決定しています。経理が手作業で行われていた昔と違って、今や企業財務はほとんどが日々、リアルタイムでシステム処理されるようになっています。年度末の伝票集計も、年度の最後の月に集中するのではなく、毎日の業務の中で自動的に処理されるようになっています。最近は企業同士の合併、経営統合やM&Aが日常的に行われるようになったため、決算期の変更も増える傾向にあるようです。
最後に東証、大証の1部上場企業1603社の中から、それぞれの月の代表的な決算企業を挙げておきます。
【1月決算】 16社
積水ハウス、東急百貨店、ピジョン、東京ドーム
【3月決算】 1327社
ソニー、松下、NTT、トヨタ、新日鉄、三井不動産、4大銀行、など多数
【4月決算】 4社
伊藤園、ロックフィールド、飯田産業、日東製網
【5月決算】 19社
日本オラクル、パソナ、カッパクリエイト、三協立山ホールディング
【6月決算】 7社
ドン・キホーテ、ニイウス、リソー教育
【7月決算】 3社
SFCG(旧商工ファンド)、内田洋行、稲葉製作所
【8月決算】 7社
ファーストリテイリング、ライトオン、サイゼリヤ、千代田インテグレ
【9月決算】 15社
浜松ホトニクス、コナカ、東陽テクニカ、セイジョー
【10月決算】 7社
田崎真珠、パーク24、クミアイ化学、イハラケミカル
【11月決算】 15社
松下電工、キューピー、ユニオンツール、不二越
【12月決算】 96社
キヤノン、キリンビール、ブリヂストン、すかいらーく、ライオン、など多数