ルール改正で配分に関する信頼性は向上
IPO株とは、新規に株式市場へ上場する株式のことです。企業が株式市場へ新規上場する際には、創業者などの大株主が持っている株式の一部や、上場にともなって企業が新たに発行する株式などが、複数の証券会社を通じて一般の投資家に販売されます。そのとき決められる販売価格を「公募価格」と言い、上場して最初に株式市場で売買される価格を「初値」と言います。
公募価格は、ブックビルディング(需要申告)という手続きを通じて決められます。この手続きは、IPO株に対する投資家の需要がどの程度あるのか、証券会社が一定期間を設けてリサーチするもの。証券会社側から仮条件として価格の範囲が提示され、投資家はその範囲内で自分が希望する購入価格と株数を申告します。
販売株数を上回る申し込みがあった場合は、証券会社が抽選をおこない、当選者と販売株数を決定します。かつてIPO株の配分(販売)は、証券会社の裁量による部分が大きく、投資家への配分状況も非公開だったため、個人投資家のあいだでは不公平感が募っていました。しかし、昨年(2006年)7月に日本証券業協会がルール改正をおこない、個人投資家に配分を予定している株数の最低10%は完全抽選とすることが、すべての証券会社に義務づけられました。
今日では証券各社が抽選配分の割合などを事前に公表しているほか、実際の配分結果も日本証券業協会がホームページ上で公開しています。個人投資家は抽選比率や過去の販売銘柄数など、具体的な数字によって証券会社を比較しながら、IPO株の購入申し込みを検討できるようになりました。
IPO株そのものの信頼回復が課題に
IPO株の公募価格は、同業他社の株価などを参考にしながら、若干割安な水準に設定されるのが一般的です。そのため、上場後の初値は公募価格を上回ることが多く、公募の段階でIPO株を買い、初値がついたらすぐに売るという方法をとれば、比較的高い確率で利益を期待することができます。こうした点が個人投資家の注目を集め、IPO株はこれまで大きな人気を呼んできました。
ところがここにきて、IPO株をめぐる状況は大きく変化しつつあります。今年(2007年)の年初から8月末までに、日本国内で89社が新規に上場しましたが、そのうち初値が公募価格を下回った(公募割れした)銘柄は18社に上りました。その割合は20%を超えており、2006年(通年)の10%から大幅に悪化しています。
初値が低迷している背景として最も大きいのは、信頼性の問題でしょう。2006年1月のライブドアによる粉飾決算事件や、その後に続出した有力企業の業績下方修正などは、IPO株が属する新興市場(ジャスダック、東証マザーズ、大証ヘラクレスなど)に対する投資家の不信感を募らせることとなりました。2007年に発生した上海ショックや米国のサブプライムローン問題を通じて、投資家のリスク回避志向が強まったことも影響していると思われます。
そもそもIPO株は、上場前で企業経営に関する情報が少ないうえに、新興市場の一部では上場基準が相対的に緩いため、上場後の業績面においてもリスクは高くなりがちです。上場後に業績が思うように伸びず、結果として株価が公募価格を割り込むケースも目立っています。信頼性と成長性の両面で発展途上にあるIPO株への投資にあたっては、業績予想の達成にどの程度の信憑性があるかなど、より慎重かつ冷静な分析が求められていると言えます。