1. いま聞きたいQ&A
Q

投資信託が日本人の間に、長期的な資産運用の手段として定着しないのはなぜですか?

数ばかり増えて、息の長い商品が育っていない

昨年(2012年)は日本で、どのような投信(投資信託)がよく売れたのでしょうか。いつでも購入・解約できる追加型の株式投信では、海外の資産に投資するタイプが人気を博したのは従来通りですが、その中身には変化が見られます。投資対象としては豪ドル建ての中長期債や海外のREIT(不動産投資信託)などが、投資手法としては「為替ヘッジ付き」の外債投信が、それぞれ新たに注目を集めました。

毎年のように新しいヒット商品が生まれるものの、短期で売れ筋商品が入れ替わる傾向が強い、というのが日本の投信の特徴です。流行や話題のテーマに沿った新商品が次々と売り出され、テーマ性が薄れると見限られて放置される。そんな様子から、日本の投信は「粗製乱造」や「多産多死」といった有り難くない言葉で形容されることもしばしばです。

投資信託協会によると、昨年10月末時点で追加型株式投信の数は3,937本に上り、過去10年で8割の増加を記録しています。一方で、追加型株式投信の全体的な流入額(設定額-解約額)は2007年の約14兆6,000億円をピークに、昨年(10月末現在)は約1兆1,000億円まで減少。投信の総残高も約59兆円と、2007年末の約80兆円から25%のマイナスとなっています。

一般的な投信のうち運用期間が10年以上あるものは、インデックス投信を含めても全体の2割程度にすぎません。日本では数ばかり増えたものの、息長く資金を集め続ける投信が十分に育っていないことが分かります。その反映でしょうか、日本の個人投資家による投信の平均保有期間も2年4カ月程度と、過去10年で最も短くなっています。

選べない、考えられない個人をどう呼び込むか

前述したように、日本には追加型株式投信だけで4,000近くも本数があります。投信業界の関係者の中には、投資対象となる資産の種類や国・地域が多いこと、すなわち「商品分野の幅広さ」こそが投信の本質的な強みであると語る人もいます。確かに数や種類が多いほど、私たちにとって選択肢や組み合わせのバリエーションは増えることになりますが、果たしてそれが本当に私たち個人のためになるのでしょうか。

コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授が、米国の「401kプラン」と呼ばれる確定拠出型年金について調べたところ、興味深い事実が判明しました。各企業が導入したプランで選べるファンド(投信)の数が少ないほど、従業員のプラン加入率は高くなり、逆に選択肢が増えるにつれて加入率は下がることが分かったのです。

さらに、選択が可能なファンド数が10本増えるごとに、プランを通じて株式への投資をまったく行わない人の割合が3%弱増えていたそうです。長期的な積み立て投資である確定拠出型年金においては、一般に株式投資こそが最も効果を発揮するにもかかわらずです。この調査結果が示しているのは、選択肢が多いと私たちは「選べない」、あるいは「考えられない」ということです。

行動経済学の分野では、人の心にリスク評価を甘くさせる傾向があることを指摘しています。投信を選ぶにあたっては、本来ならば分厚い目論見書を読んで運用の仕組みや狙いを理解することはもちろん、客観的なデータを使って投資対象となる資産の値動きなどを自分なりに研究する必要もあるはずです。こうした手間ひまは、将来の利益のために投資家がいま支払うべきコストにあたります。

しかしながら、私たちには多かれ少なかれ、将来よりも目先(現在)の利益を重視する傾向があり、いま支払うコストについてはできるだけ省こうとする意識が働くようです。結果として投信を選ぶ際に、自分でよく考えないまま販売会社の推奨に従ったり、売れ筋商品に乗っかるケースが多くなるというわけです

資産運用をする人たちの間に「選べない」「考えられない」という性質が強いことを前提とすれば、日本の投信業界が取り組むべき課題は明確ではないでしょうか。まず投信全体の本数を減らす必要がありますが、それが難しいならば、初心者でも長期的な資産運用の柱として活用できる投信を数本、業界として用意するなどの方法が考えられます。

米国の確定拠出型年金では、加入者である従業員が意思表示をしない場合に自動選択される初期設定ファンドとして、年齢に応じて資産配分が変わる「ターゲット・イヤー・ファンド」を大手企業の7割が採用しています。こうした例も参考にしながら、多種多様に広がりすぎた商品性を逆に絞り込むといった、従来とはまったく異なる発想が求められるように思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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