時価総額をベースにした指数の矛盾を解消する
投資・運用の世界ではこれまで、市場平均などのベンチマークに連動した投資成果を目指すインデックス運用と、運用担当者が投資銘柄を自由に選ぶアクティブ運用の、どちらが効率的で優れているかという議論が盛んに行われてきました。投資家は両者の「効能」を認めたうえで、それらの比較優位性を問うてきたわけです。ところが最近では、これら2つを含めた伝統的な投資理論について、それぞれの中身自体を問い直す動きが広がりつつあります。
株式のインデックス運用では、TOPIX(東証株価指数)、米国のS&P500といった伝統的な株価指数への連動を目指すのが一般的です。これらの株価指数では時価総額に準じて各銘柄の構成比率が決まるため、インデックス運用における投資比率も時価総額が大きい銘柄ほど高く、小さい銘柄ほど低くなります。
こうしたインデックス運用の理論的な根拠となっているのは、「市場が決めた株価や時価総額は常に適正であり、故にすべての資産を時価総額に応じて保有するのが最も効率的である」という考え方です。しかしながら、時価総額に合わせて機械的に銘柄を購入するため、とくにバブルなど株価が実態から乖離(かいり)する局面において、いわゆる割高株を多く、割安株を少なく保有しやすくなる懸念があります。すなわち、常に効率的とは言いがたいわけです。
その矛盾を解消しようと考案されたのが、各企業の株主資本やキャッシュフロー、配当額などを基に銘柄の構成比率を決める財務指標ベースの新型株価指数です。最大の特徴は、企業の本来価値(ファンダメンタル・バリュー)が反映されやすいこと。米国のリサーチ・アフィリエイツが開発したこのタイプの日本株指数は、日本国内の株式投信をはじめ、全世界ですでに4兆円以上のインデックス運用規模を誇っています。
債券のインデックス運用において一般的な連動対象である世界国債指数も、各国の国債発行残高に応じて国ごとの構成比率が決まる時価総額ベースの債券指数です。財政が悪化して赤字国債を多く発行した国ほど構成比率が高まるため、この指数への連動を目指して運用すると、大きな信用リスクを背負うことになりかねません。
英国のバークレイズ・キャピタルが開発した新しい世界国債指数では、各国の債務残高や財政収支、経常収支および政府の支払い意欲などを考慮して国ごとの構成比率を決めていきます。従来の世界国債指数と比べると、財政健全度の高いドイツの比率が高まる一方で、日本や米国、イタリアなどの比率が低下しています。
低リスク・高リターンの投資も可能!?
60年前に米国の経済学者ハリー・マーコビッツ氏によって提唱されたモダン・ポートフォリオ理論では、投資におけるリスクとリターンの関係が将来的に期待されるリターンのぶれ幅(価格変動率)という形で定義され、リスクの低減に向けて分散投資の効果が示されました。これらの基本的な投資理論に対して、今日のアクティブ運用が異議を唱えつつあります。
BNPパリバ インベストメント・パートナーズが、先進国の約1,600の株式銘柄を対象に、1999年末~2009年末の10年間におけるリスク(価格変動率)とリターンを計測し、リスクの大きさごとに5つのグループに分類して、グループごとに銘柄全体の運用成績を調べました。その結果、リスクが最小のグループにおいてリターンが最も高く、リスクが最大のグループでリターンが最も低いことが分かったかったのです。これはすなわち、「低リスク・高リターン」の投資が可能なことを意味します。
このデータを基に、あえて値動きの小さい地味な銘柄ばかりを選んで投資する新興国株投信が登場して注目を浴びています。対象銘柄の中心は食品や電力やガスなどの公益、医薬品など、いわゆるディフェンシブ銘柄。これらは業績が安定していて売買材料に乏しいため、相対的に価格変動が小さく、市場の人気が適度な水準にとどまりやすいのが特徴です。結果として業績拡大などの好材料が出た際に、株価が素直に反応しやすいといわれます。
分散投資に関しては、組み入れ銘柄数の目安が20~40と比較的少ない「集中投資型」の株式投信が増えてきています。野村総合研究所の調査によると、組み入れ銘柄数が1から10程度まで増える過程で分散によるリスク低減効果は劇的に向上するものの、銘柄数が30を超えると効果はほぼ頭打ちになります。銘柄を絞り込むことにより、企業の収益力や国際競争力はもちろん、経営理念や顧客との関係など数字に表れない部分まで徹底的に分析・評価できるという利点もあるようです。
こうして見ると、新しい運用手法はいずれも伝統的な投資理論の「修正版」です。背景に、経済成長期待の鈍化や相次ぐ相場の大変動によって生じた伝統理論のゆがみがあるとするならば、今後の注目はそのゆがみがいつまで続くのかということでしょう。いずれにしても、新しい時代の新しい投資理論が根づくまでには、長い年月を通じた検証が必要になります。