結論から言えば、信用取引の逆日歩(ぎゃくひぶ)は日本証券金融、大阪証券金融(それぞれ日証金、大証金と略されます)などの証券金融会社が毎日公表しています。日本経済新聞の株式欄にも毎日掲載されていますが、日証金、大証金のホームページ上ではより詳細に発表されるので、それを見ればすぐにわかります。
信用取引を使った株式の買いは、買い付け資金を借りてきて株式を買うことになるため、投資家は金利の支払う必要が生じます。反対に、信用取引での売り(カラ売り)は通常は金利を受け取ります(現在はゼロ金利なので受け取り金利はゼロです。信用買いの支払い金利はゼロではありません)。
カラ売りは本来は金利を受け取ることができるのですが、その銘柄が株不足になった場合は、通常とは逆に金利を支払うことになります。そのためにカラ売りを行っている投資家が支払う金利を「逆日歩」と呼んでいます。
逆日歩が発生するのは、貸借取引において株不足(かぶぶそく)が起こっているためです。したがって、どのような時に株不足が起きるのかを知ることが第一です。そのために、信用取引の仕組みについて少し説明しておきます。
ここでは、時価500円のA社の株式2000株を信用取引で売買するケースを考えます。
500円×2000株=100万円の売買です。A社の株式2000株を信用取引で買う投資家のPさんは、証券会社から買い付け資金の100万円を借りてA社株を買います。反対にA社の株式2000株を信用取引で売る投資家のQ氏は(つまりカラ売りをするわけです)、証券会社から2000株の株券を借りてカラ売りします。
この流れを注文を受け付けた証券会社サイドから見ると、Pさんが買い付けた2000株の株券は、カラ売りを行ったQ氏への貸し付けに回されることになります。反対にカラ売りを行ったQ氏の売却代金100万円は、信用取引での買い付けを行ったPさんへの貸付金に回されます。ひとつの証券会社の中で、資金と株券がグルグル回っているというイメージです。このケースでは、2000株と100万円のやりとりしかありませんので、証券会社は資金や株券を新たに用意する必要はありません。
しかし現実はそれほど単純ではありません。同じ証券会社の社内で同じ日に、同じ銘柄が同じ株数、信用取引を使って売り買いされることはまずありません。必ずどちらかが多く、どちらかが少ないものです。
通常は、Pさんのように信用買いを行う投資家の方が多いため、証券会社としては貸し付けに回す資金の方が不足することが大半です。その場合、証券会社は自己資金を使って貸し付けを行ったり、外部の金融機関から自ら調達したりしますが、それでも足りない場合は日証金などの証券金融会社に融資を申し込んで資金を調達します。
そして時としてカラ売りが集中して、Q氏のようにカラ売りをする投資家の方が、信用買いを行うPさんのような投資家よりも株数ベースで多いという状況になると、証券会社は社内で株券をグルグル回すことができなくなります。
そうなると証券会社は、以前から自社で保有していた株券を貸し出しに回すことになりますが、しかし大手証券会社といえども、何千社もある上場企業の株券を常に保有しているわけではありません。証券会社の社内にカラ売り用に貸し出す株券がない場合、証券会社は日証金などの証券金融会社に申し込んで株券を調達してくることになります。
このような証券会社と証券金融会社との資金・株券の取引を「貸借取引(たいしゃくとりひき)」といいます。貸借取引とは、証券金融会社が証券会社に対して、信用取引の決済に必要な資金または株券を、取引所の決済機構を通じて貸し付ける取引のことです。
ここまではよろしいでしょうか。次は株不足の説明です。
すべての証券会社と証券金融会社の間で行われているA社株の貸借取引を合計して、カラ売りのために貸し出されている株数の残高が、貸借取引の融資で買っている株数の残高を上回っている状態を「貸株超過」といいます。これが「株不足」です。証券金融会社において、カラ売り用に貸し出されている株数の合計残高が、信用買いの株数の合計残高よりも多いという状態です。
(注:株不足とは、あくまで証券金融会社の貸株残高が融資残高を上回っている状態を指します。東証が発表する信用取引残高の「買い残」、「売り残」の残高を比較することではありません。)
A社の株式が株不足になった場合、日証金などの証券金融会社は、A社の安定株主(大株主)である機関投資家から株券を借りてきて貸し出しに回します。A社の株券は無限に存在するわけではありません。発行済株式総数と流通株数(浮動株の数)は限られているためです。
大株主はタダで株券を貸し出すわけではありません。手数料を受け取って株券を貸し出します。この手数料を支払うのは、証券金融会社でも証券会社でもなく、カラ売りを行う投資家Q氏です。この手数料を品貸料(しながしりょう)と言い、別名「逆日歩」と呼ばれます。
逆日歩は「1株につき1日当たり○銭」と表示されます。「逆日歩5銭(0.05円)」となった場合、カラ売り2000株で1日100円(2000×0.05=100)、10日で1000円です。逆日歩がつくと、カラ売りを行っているQ氏はそれだけ支払いコストが上昇しますから、期間が長引けばカラ売り側には不利に働きます。
証券金融会社は大株主間の入札によって株券を調達してくるため、A社株が暴騰して相場が過熱してくると、株不足の状態が高じて株券の調達はますますむずかしくなります。発行株数の大きな大型株ならまだ調達しやすいのですが、発行株数の少ない小型株はもともとが品薄状態なので、市場からほとんどの株券がなくなってしまうという状態もあり得ます。
こうなるとQ氏が支払う逆日歩(=大株主が受け取る品貸料)はさらに吊り上ってしまい、損失を抱えたQ氏はたまらずカラ売りを決済しようとして買い戻します。Q氏の買い戻しによってA社株はますます上昇するようになり、相場は過熱の極みに達します。(通常はそのような状態になる前に、証券取引所からA社株の取引に対して「信用取引の規制措置」が発動されます。)
長くなりました。ご質問は「信用取引のカラ売りで逆日歩になりそうな場合、何を見ればいいでしょうか?」というものでした。それに対する答えとしては、「その銘柄が株不足の状態になっていないかどうか?」、言い換えれば「その銘柄の貸株残高が融資残高を上回っていないかどうか?」をチェックすることです。そしてそれは日証金や大証金のホームページで毎日調べることができます。