1. いま聞きたいQ&A
Q

資産運用の一環として、いま外貨に投資すべきでしょうか?

将来の円安に備えることが本来の目的

私たち日本人が、円以外の外貨に投資する意味とは何でしょうか。

ひと言でいえば、それは「将来の円安に備えること」に尽きます。日本は食料の約6割、石油や天然ガスなどエネルギー資源の約8割を輸入に頼っており、それらの輸入代金は世界の基軸通貨である米ドルで支払われるのが一般的です。将来的に円安が進むと、食費や電気・ガスなどの公共料金、すなわち日常生活に欠かせないモノの値段が上がって、私たちの家計が圧迫される恐れがあります。

実際に将来、円安になるかどうかは専門家のあいだでも意見の分かれるところです。過去20年近くを振り返ると、全般的に円高傾向が強いうえ、一時的に円安が進んだ局面でも、「1ドル=150円」を超えるほどの極端な円安にはなっていません。しかしながら、少子高齢化が進むなかで日本の経済成長率が鈍化していくことは避けられず、中長期的に予想以上の円安になる可能性も否定はできないでしょう。その際に資産の一部を外貨建てで保有していれば、円による支出の増加分を外貨資産の値上がり分によって補うことが可能になるわけです。

こうした意味合いを重視するならば、外貨への投資はあくまでも長期的な視点に立って考えるべきものだと思われます。ところが、ここ数年はむしろ短期間で大きな利益を積極的に狙うような外貨投資が盛んにおこなわれました。その典型が「FX(外国為替証拠金取引)」です。

FXには

  • ●元本にあたる証拠金を担保にして、その数倍から数百倍の取引ができる
  • ●外貨を買って円安になるのを待つだけでなく、外貨を売って円高になるのを待つこともできる(どちらでも為替差益が狙える)
  • ●「外貨預金」などに比べて手数料が安い

――などの特徴があります。

昨年(2008年)の後半まで円と外貨の金利差が大きかったことも、FXにとっては追い風となりました。FXでは金利の低い通貨(たとえば円)を売り、金利の高い通貨(たとえば豪ドル)を買うことによって、その金利差分の利益を期待することも可能だったため、為替差益に加えてこうした金利収入を目当てに投資する人もいたようです。つまり、ひと頃のヘッジファンドによる円キャリー・トレードを地で行くような取引が、FXを通じておこなわれていたわけです。

外貨投資が「為替相場への投資」に近づいた!?

ここにきて外貨投資をめぐる環境は大きく変化しました。昨年来の金融危機と景気後退を受けて、金利はいま世界中で低下傾向にあります。円と外貨の金利差が縮小した結果、外貨投資における高金利収入の魅力は薄れました。従来ならば一時的に円高が進んで為替差損を被っても、外貨の高金利に一種の緩衝材のような役割を期待することもできましたが、それが難しくなった現在、外貨投資は純粋な「為替相場への投資」に限りなく近づいてきた感じがします。

いま改めて考えておきたいのは、為替相場の性質です。為替相場では、たとえばある為替レートで円を売って米ドルを買う投資家がいた場合、市場のどこかに同じ為替レートで同じ金額だけ円を買って米ドルを売る投資家がいることを意味します。その後に円高が進むと、前者は為替差損を被りますが、後者はそれと同じ金額だけ為替差益を得ることになります。つまり為替相場とは、極論すれば結果が当たりか外れのどちらかしかない、いわゆる「ゼロサムゲーム」の世界なのです。

たとえば外国株に投資する場合でも、同じように為替変動のリスクは生じます。しかし、その意味合いは為替相場への投資とは大きく異なるものです。外国株に投資するという行為の本質は、外国企業の経済活動に部分的に参加しながら将来の利益配分を期待することであり、外国企業の活動が続くかぎり、その期待値はいわば無限大です。為替変動リスクはあくまでも、それに付随するものに過ぎません。

もちろんFXや外貨預金でも、相場の読みが当たって最終的に利益が出ればいいという考え方はあるでしょうし、今後また環境が変わって高金利を享受できる日が来る可能性もあるでしょう。ただ、将来の円安に備えた長期運用という本来的な意味を重視するならば、少なくとも現段階では、実体経済の裏づけがある外国株などを通じて外貨に投資する方が、運用手段としての健全度は高いと思われます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

バックナンバー2009年へ戻る

目次へ戻る