1. いま聞きたいQ&A
Q

欧州経済に、いま何が起こっているのですか?(前編)

欧州各国で複合的なバブルが同時崩壊

欧州経済の不調が深刻さを増しています。ECB(欧州中央銀行)では内部予測の中間値として、ユーロ圏16カ国における2009年の実質経済成長率を随時公表していますが、その数値は2008年9月時点の+1.2%から、同年12月時点で-0.5%、2009年3月時点では-2.7%と、悪化の一途をたどっています。ユーロに加盟していない英国についても、IMF(国際通貨基金)が2009年の実質経済成長率を-2.8%と予測しており、いずれの数値も先進国のなかでは最悪の水準です。

経済の弱体化は為替にもあらわれています。対円の為替レートを2008年9月12日と2009年3月13日の過去半年あまりで比較すると、ユーロは17.5%、英ポンドは29.2%、それぞれ安くなりました(終値ベース)。同じ過去半年の期間中に、米ドルが円に対して9.2%の下落にとどまっているのを見ると、ユーロや英ポンドの下落ぶりが目立ちます。

欧州経済が悪化した大きな要因として、欧州各国でさまざまなかたちの「バブル」が複合的に進行し、それらが一気に同時崩壊したことが挙げられます。たとえばユーロ加盟国のスペインやアイルランドでは2000年以降、世界的な低金利による運用難を受けて投機的な資金が大量に流入し、一時は住宅価格の上昇率が年平均10%を超えるほどの住宅ブームに沸きました。ところが、サブプライムローン問題によって不動産市場は急激に失速。経済全体が不動産を中心に回っていたスペインでは、消費も雇用も壊滅状態となり、失業者数が10年ぶりの高水準に達するほどの不況に陥りました。

欧州の金融機関はこれまで、将来の成長が見込める新興市場として中東欧諸国への投資を膨張させてきましたが、それが現在、一転して大きな火種となっています。世界的な金融危機と信用収縮によって、ポーランドやハンガリーなど一部の中東欧諸国では投資資金の流出と通貨の下落が加速しており、それらの国々に巨額の資金を提供してきた欧州の金融機関で不良債権の増加が懸念されているのです。なかでもユーロ加盟国のオーストリアでは、銀行による融資残高の約5割が中東欧諸国向けと非常に大きいことから、中東欧諸国における通貨や株価の下落にともなって銀行株が急落するなどの影響を被っています。

金融立国ゆえに影響が深刻な英国経済

英国では不動産バブルとともに金融バブルも崩壊し、厳しい苦境に立たされています。1980年代のサッチャー政権時代に門戸開放を打ち出し、海外から多くの金融機関や人材、投資マネーを集めてきた英国の「金融立国モデル」は、16年もの長期にわたる経済成長を同国にもたらしました。しかし、その間に英国の銀行資産規模はGDPの5倍強にも拡大。家計の銀行借り入れも可処分所得の1.4倍程度まで膨れ上がり、米国に匹敵する借金消費大国となりました。こうした金融依存度の高い体質により、金融危機が英国経済に及ぼす影響は他国に比べてより深刻なものとなっています。

実際に英国政府は、公的資金による資本注入や不良債権の損失保証などを通じて銀行への公的関与を強めており、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)、ロイズ・バンキング・グループの大手銀2行については、それぞれ株式を5割超取得して実質国有化に踏み切りました。ただし、こうした銀行救済にともなう財政負担が将来的にどこまで膨らむかという懸念は大きく、それが英ポンドや英国債の相場急落につながっています。

2009年3月5日、イングランド銀行(英国中央銀行)とECBは政策金利をいずれも0.5%引き下げることを決定しました。これにより英国は年0.5%、ユーロ圏は年1.5%と、それぞれ史上最低の水準まで政策金利を引き下げたことになります。イングランド銀行は同時に、金融市場で英国債などを大規模に購入する量的緩和政策の導入も発表しました。

金融政策も未踏の領域へ突入し、欧州経済はいま、まさしく背水の陣を迎えたと言うことができます。そんななか、ユーロ圏各国のあいだで政策協調の乱れや信用力の格差が目立ち始め、ユーロが分裂や崩壊に向かうのではないかと危惧する声も聞かれるようになってきました。しかし同時に、通貨危機に見舞われた周辺のユーロ非加盟国が「ユーロ参加」を熱望するなど、金融危機によってユーロの求心力がかえって高まっているという側面もあります。

次回はこうした経緯を検証しながら、欧州各国におけるユーロの意味も含めて、欧州経済の現状を改めて考えてみたいと思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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