1. いま聞きたいQ&A
Q

新興国経済の将来性を測るにあたって、どのような点に注目すればよいですか?

当面はグローバルな危機への対応力がカギ

リーマン・ショック前の2008年8月に、このQ&Aで新興国の経済や株式について取り上げたことがあります(Q&A「新興国の株式」参照)。当時は新興国の間でいわゆる勝ち組と負け組の二極化が進みつつあり、インフレへの対応や天然資源の有無など、経済成長を支える要因の確かさが新興国の将来を左右するといわれていました。

それから約3年半。米国発の金融危機と欧州発の債務危機を経て、「新興国経済の将来性を測るポイントは、その中身も意味合いも変わってきたように思われます。ここにきて注目されているのは、金融危機や債務危機など相次いで押し寄せるグローバルな危機への対応力です。

多くの新興国では昨年(2011年)、欧州債務危機の影響で欧州向け輸出が減少したほか、リスク回避を目的に欧米を中心とした海外の投資マネーが流出し、景気の停滞や通貨の下落に見舞われました。そんななか、外需(輸出)が急減した際の耐久力として「内需」に十分な厚みがあり、海外マネー流出時における通貨防衛の余地として「経常収支」が黒字であることなどが、当面は新興国の経済成長にとってカギを握ると考えられます。

すでに新興各国では景気の下支えを目指して、金融政策を引き締めから緩和へと転換する動きが目立っていますが、緊急時には金融政策と同時に財政政策による柔軟な対応も求められます。財政出動余力として「政府債務残高」の対GDP(国内総生産)比が小さいことも重要でしょう。

こうした観点から、新興国間で新たな選別が進んでいることが分かります。例えばBRICsのなかで今後も成長期待が高い中国とブラジル、インドを比較すると、いずれの条件も満たしているのは中国のみ。ブラジルとインドは経常収支と財政収支の「双子の赤字」を抱え、政府債務残高の対GDP比も60%超と相対的に大きい水準にあります。むしろインドネシアやタイ、フィリピンなどのASEAN(東南アジア諸国連合)に、危機対応力の高い国が目立ちます。

独自の強みや課題をいかにマネジメントできるか

もうひとつ注目したいのは、それぞれが抱える経済的な強みや課題、社会的な事情など、いわばその国の“個性”にあたる部分を、新興各国がどれだけ的確にマネジメントしていけるかという点です。

中国では昨年来、輸出の減速や投資の抑制によって民間企業の倒産が増え、自動車など高額商品の売れ行きが鈍化するなど、経済の変調を示すシグナルが相次いでいます。中国政府も2012年のGDP成長率の目標を事実上7%台に設定し、長らく掲げてきた「8%成長」の看板を8年ぶりに下ろしました。これらは欧州債務危機の影響による一時的な低迷とも考えられますが、一方では構造的な問題を指摘する声もあります。

過去5年ほどにわたる中国の大規模な内需拡大には、北京五輪や上海万博、4兆元(57兆円=当時)に上る財政出動など、少なからず特殊要因が貢献していました。そこで需要が「先食い」されたのではという懸念に加えて、中国では2015年頃にも生産年齢人口が減少に転じるともいわれています。

景気対策として即効性のある公共投資は不動産バブルの再燃につながりかねないため、中国政府は今後も消費の拡大に力点を置く方針ですが、国民の間で生活防衛への意識が高まるなか、従来のような右肩上がりの内需拡大は望み薄かもしれません。中国は成長と安定のはざまで、非常に難しいかじ取りを迫られることになりそうです。

ブラジルは昨年、1年を通してインフレ抑制と通貨乱高下への対応に追われ、7~9月期には実質GDPが前期比で2年半ぶりにマイナス成長となるなど、経済の不安定さが目立ちました。同国は政策金利が年11%(2011年12月)と高く、内外金利差や経済成長への期待から海外マネーの流入が多いことで知られており、もともとグローバルな危機の影響を受けやすい体質にあるといえます。

ただし、ブラジルでは2014年にサッカーのワールドカップ、2016年には夏季五輪と、立て続けに国際イベントの開催を控えています。内需の拡大はもとより、企業買収やインフラ整備といった形で海外からの投資マネー流入が継続的に期待できるわけです。2億人弱という人口の半数は30歳以下と若いうえに、鉱物資源と食料資源の双方を豊富に持つという輸出面での強みもあります。

潜在能力に恵まれている印象が強い半面、財政運営が機動性に乏しく、インフラ不足による供給制約が個人消費の壁になるなど、ブラジルには政治的・経済的に未熟な面も残ります。要は潜在能力を十分に発揮できる環境をいかに整えるかえるかであり、その意味においても、世界からの注目が集まる今後数年はひとつのヤマ場といえるでしょう。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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