株式市場に秘められた大きな成長性
投資先の新興国として最も馴染みが深いのは、ブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字をとった「BRICs」でしょう。このほかにも「VISTA」(ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチン)や「ネクスト11」(ベトナム、インドネシア、韓国、フィリピン、バングラデシュ、パキスタン、イラン、トルコ、エジプト、ナイジェリア、メキシコ)など、さまざまなグループ分けがあります。
私たちが新興国の株式に投資する最大のメリットは、先進国の株式に比べて大きな収益が期待できる点です。国民1人あたりGDP(国内総生産)の上昇や富裕層の台頭、内需の拡大、外資導入の増加に加えて、若年労働力および天然資源の豊富さなど、新興各国ではファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が相対的に今後の大きな経済成長を期待させます。
実際にIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しによると、今年(2008年)の実質経済成長率(物価上昇を除いたもの)は中国9.7%、インド8.0%、ロシア7.7%、ブラジル4.9%となっています。対して米国は1.3%、先進国全体でも1.7%という低いレベル。一般論として、株式市場は経済成長にある程度、連動して大きくなると考えられるので、新興国の大きな経済成長はそのまま株式投資資産の大きな成長につながる可能性が高いわけです
一方で、新興国の株式には先進国とは異なるリスクもあります。まず、多くの新興国では株式市場の規模が小さく未成熟なため、急激な人気化や投機的資金の流入によって短期間で株式相場が乱高下しがちなこと。新興国には政治体制が不安定なところも多く、突然の政権交代によって経済政策や為替政策が大きく変わることもあります。新興国に関する情報は先進国に比べて入手しにくいため、こうした特有のリスク(カントリー・リスク)を事前に察知するのは難しいというのが現実です。
二極化により選別の目がいっそう大切に
ここ数年、新興国の株式市場は全体として価格上昇の流れが続いていましたが、今年に入ってからは調整や二極化という新たな流れが鮮明になりつつあります。
たとえば「ポストBRICs」として大きな注目を集めたベトナムでは、今年の5月から6月にかけて株価指数である「VN指数」が25営業日連続で下落するなど、株価は昨年(2007年)のピーク時の半分以下まで下落しました。ベトナムでは今年前半、消費者物価指数が前年同月比で25%を超える上昇を記録。利上げの影響やインフレによる社会不安の増大に加えて、国営企業などの民営化にともなう株式売り出しが急増し、株式の需給関係にも歪みが生じました。
ベトナムだけでなく、中国やインドなどアジアの新興国では全体的に株価下落が目立ちます。これにはサブプライムローン問題によって主要な輸出先である米国の経済が悪化したことや、資源価格と穀物価格の高騰が大きく影響しています。とくに資源価格や穀物価格の高騰によるインフレの進行を抑えるため、アジアの新興各国では利上げなど金融引き締めの姿勢を強めており、それが景気後退の懸念につながっています。今後は内需拡大などにより、経済の成長力をどれだけ維持できるかが、株式投資を判断するうえでの焦点になってきそうです。
一方で、豊富な天然資源をもつ新興国では好調が続いています。ロシアやブラジルでは資源価格の高騰によって歳入が増えたうえに、エネルギー企業であるガスプロム(ロシア)やペトロブラス(ブラジル)の時価総額が世界のベストテンに入るなど、企業単位で見てもその存在感は確実に増してきています。貴金属や希少金属の産出国である南アフリカも、2008年上半期(1月~6月)の株価騰落率が世界の主要市場における最高値を記録するなど、好調を維持しています。
このように、今日ではインフレや資源の有無などにより、新興国のあいだで二極化とも呼べる状況が進んでいます。インフレや資源高が今度どうなるかは分かりませんが、いずれにしても「新興国ならどこでも上がる」というような安易な考えは持たない方がいいでしょう。
前述したようなリスクを考えると、新興国株への投資は5年から10年以上といった長期的な視点と、投資比率を資産の1~2割にとどめる慎重な姿勢が基本になります。そのうえで、今後は各国経済のファンダメンタルズや市場整備の状況などを見ながら、経済成長を支える要因が確かな国に分散投資することが大切になると思われます。