投資マネーによる新興国の選別がいっそう進む
新興国から投資マネーがたびたび流出する要因として、新興国自身の問題を指摘する声も少なくありません。
新興国のなかには、経常赤字や高インフレ率といったファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)のもろさはもとより、過剰消費や貿易不均衡、国外資本への過度の依存、さらには汚職を糾弾する反政府デモの広がりなど、国家としての慢心や腐敗が露呈しているようなケースもあります。投資マネーの流入とそれに伴う高成長の好循環が続いている時期に、こうした構造的な問題を放置してきたツケが、資金流出につながっているという面も否定できないわけです。
例えば「フラジャイル5(脆弱な5カ国)」のひとつ、南アフリカは2000年代半ばに年率5%の高成長を続けましたが、その間も失業率の高さや治安の悪さを改善できませんでした。最近では主要産業である鉱山でストライキが慢性化し、生産活動が停滞しているほか、賃上げによって生産コストがかさみ経済の重荷になっています。
同じくフラジャイル5のひとつ、トルコでは輸入依存の経済構造から抜け出せず、02年から昨年(13年)まで12年連続で経常赤字を記録。汚職疑惑によって国民の政権批判も噴出し、タイやウクライナと同様に、反政府デモによる政情不安が問題視されています。
一方で、資金流出がそれほど深刻でなかった新興国もあります。昨年の実質国内総生産(GDP)が前年比7.2%の増加となったフィリピンは、コールセンターなどアウトソーシング業務の請け負いで外貨を稼ぐことに加えて、海外で働く出稼ぎの比率が高い点も注目されています。通貨ペソの下落時には、出稼ぎ労働者からの送金額がペソ建てで増えることになるため、国内に残る家族の購買力が高まって内需が伸びやすいという経済構造にあるからです。
昨年秋に消費税の導入など財政改善策を打ち出したマレーシアや、昨年末に国営会社が独占する石油開発市場の開放を決めたメキシコなど、いち早く経済の構造改革に乗り出した国も市場から評価されています。今後はこうした経済構造の強さや政府の改革姿勢などを背景として、投資マネーによる新興国の選別がいっそう進むと考えられます。
数十年後に有望な新興国など誰にも分からない
ただし、新興国の選別や二極化については過去にも何度か市場で話題となり、新たな新興国にスポットが当たっては消えるといったことが繰り返されてきました。いわば株式投資における「投資テーマ」のようなものであり、どちらかというと短期でリターンを狙う投資家が重視するファクターでしょう。
米国の調査会社が、新興国株で運用する投資信託やETF(上場投資信託)、一部のヘッジファンドを対象に資金の動きを調べたところ、昨年10月30日までの1週間から今年(14年)2月12日までの1週間にかけて、16週間連続で資金の流出が流入を上回っていました。機関投資家の資金を中心に投資マネーは新興国から欧米など先進国の株式投信に向かっており、欧州ではポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインの「PIIGS」と呼ばれる5カ国の株式にも、今年の初めから資金が活発に流入しているようです。
PIIGSといえば、少し前まで欧州債務危機の震源地として目の敵にされていた国々です。欧州経済に回復の兆しが見えるとはいえ、投資マネーの変わり身の速さには改めて恐れ入ります。同時に、こうした事実が図らずも投資マネーの短期志向を如実に表しているといえるでしょう。
市場では現在、「FRB(米連邦準備理事会)による量的金融緩和の縮小」「中国経済の減速懸念の高まり」という2つのリスク要因がくすぶっています。いずれも新興国に及ぼす影響が大きいことから、完了あるいは収束のめどがつくまでの間、投資家の心理には断続的に負のバイアスがかかることになります。そのような状況下では、市場から評価されている新興国も決して安泰とは言い切れません。むしろ現時点で資金流出が抑えられている分だけ、流出の規模が大きくなる恐れもあります。
これらのことを踏まえると、私たち一般の個人投資家が新興国への投資を考える場合、いたずらに選別などという形で投資対象を限定すべきではないように思われます。前回も紹介したように、新興国が中長期的に見て有望な投資先であることは明らかですが、10年後あるいは数十年後にどの国が大きなリターンをもたらすことになるのか、本当のところは誰にも分かりません。
むしろその「分からない」という前提を素直に受け入れ、インデックス投信やETFを通じて多くの国をカバーしながら、資金流出による下落局面を利用して安値を拾い、できるだけ長期で投資する――。そんな王道ともいえる投資のあり方が、新興国には向いているような気がします。