外国国債に匹敵するリターン水準
社債とは、企業がおもに設備投資などの事業資金を調達するために発行する債券のことです。社債の多くは銀行や保険会社といった機関投資家向けに、最低購入単位が1億円程度で発行されますが、それを100万円程度に小口化して、個人投資家でも買いやすくしたものが「個人向け社債」です。
個人向け社債の発行額は、金融危機が発生した2008年下期(7~12月)から急激に増え始め、2008年度の市場規模は2兆円超と年度単位では過去最大を記録。2009年4月以降も順調に発行額を伸ばしています。こうした人気の背景には、企業側と個人投資家側の双方にそれぞれの事情があるようです。
金融危機をきっかけに信用リスクへの意識が高まり、機関投資家のあいだでは社債の購入を控える動きが強まりました。そのため、企業は資金の調達先として機関投資家だけでなく個人投資家にも頼らざるを得なくなり、それが個人向け社債の発行増加につながった格好です。なかには社債の購入者を対象に株主優待のような特典を設けるなど、これを機に将来の株主づくりに向けた入り口商品として個人向け社債を位置づけている企業もあります。
個人向け社債は償還までの期間が3年や4年など、比較的に短期間のものが多く、表面利率はおおむね1%前後から3%弱というところです。償還までの期間が近い他の債券の金利は、たとえば2009年7月15日に発行された「個人向け国債」の固定5年物が0.82%、8月10日発行の「新窓販国債5年物」が0.7%です(いずれも表面利率)。米国やドイツ、フランスといった先進国の国債(既発債)は、償還までの残存期間が3年から5年の場合、利回りが2%前後のものが多くなっています(2009年8月6日現在)。
こうして見ると、個人向け社債で期待できるリターンは日本国債より高めであり、なおかつ外国国債に匹敵する水準であることが分かります。すなわち、従来なら外貨建てで為替リスクをともなったレベルのリターンが、個人向け社債ならば為替リスクを負うことなく追求できるようになるわけで、この点が金利に敏感な個人投資家の注目を浴びているようです。
個別株式とセットで保有する手も
一方で個人向け社債への投資には、前述した信用リスクがともないます。社債を発行した企業が経営破綻してデフォルト(債務不履行)に陥った場合、基本的にはそのときの資産内容や再生計画などに応じて決まる弁済率に沿った金額しか、元本は戻ってきません。2001年に経営破綻したマイカルの個人向け社債では、弁済率は約3割にとどまりました。過去に個人向け社債がデフォルトしたのはこの1件のみですが、実はここにきて機関投資家向けの普通社債ではデフォルトが頻発しています。2008年度には不動産関連企業を中心に6件、総額1,250億円の普通社債がデフォルトしました。
個人向け社債の安全性を判断するうえで目安となるのが、各企業の信用力を示す「格付け」です。格付け機関のひとつ、R&I(格付投資情報センター)の例を見てみましょう。1999年から2008年までの10年間におけるデフォルト率は、格付けが最上級の「AAA」と次の「AA」がいずれも0%。以下、「A」が1.1%で「BBB」が2.7%、投資適格外の「BB」以下が26.5%となっており、格付けの高さとデフォルト率のあいだには明らかに相関関係がうかがえます。企業が経営破綻する場合は、その前に格付けが下げられるケースが大半を占めており、格付けの高さはもちろん、その動きにも常に注意が必要です。
投資期間が3~4年と短めなものが多いことから考えて、個人向け社債は資産運用の中核に据えるような商品ではありません。4資産のポートフォリオで言えば、国内債券部分の「味付け」的な意味合いでとらえておくといいのではないでしょうか。すでに個別株に投資している人や、これから個別株への投資を考えている人は、同じ企業の株式と個人向け社債にセットで投資するという手もあります。個人向け社債への投資は、事業資金の提供を通じて企業をサポートすることにつながり、ひいてはそれが自らの株式投資をサポートすることにもなります。また、個人向け社債は償還まで持ち切れば安定した金利収入が入ってくるので、考え方によっては3~4年といった期間限定で株式の価格変動リスクをある程度、ヘッジ(回避)する機能が得られることになります。