1. いま聞きたいQ&A
Q

世界経済はなぜ、バブルの発生と崩壊を繰り返すのでしょうか?

投資家の多くは合理的に行動しない!?

世界経済の歴史をひも解くと、古くは1600年代のオランダにおけるチューリップ・バブルから、最近では2007年にサブプライムローン問題として表面化した米国の住宅バブルまで、過去に数多くの大規模なバブルが発生しては、崩壊してきました。いま問題となっているギリシャ危機も、見方によってはユーロ・バブルの崩壊過程ということもできるでしょう。

経済のバブルは一般に、「短期間で資産価格がその実態(実質的な価値)から大きく乖離して上昇する現象」と定義されます。資産価格がさまざまな投資家の心理や思惑によって形成される以上、それが実態からある程度、乖離しても不思議ではありません。ただし、過去の教訓があるにもかかわらず、バブルと呼ばれるほどの大規模な乖離が性懲りもなく何度も繰り返されているとなると、そこには何か避けようのない構造的な問題が潜んでいると考えた方がよさそうです。

伝統的な金融理論のひとつに、市場価格は常に正しいと説く「効率的市場仮説」があります。この理論では、例え資産価格が実態から乖離しても、その時点で割安な銘柄を買って割高な銘柄を売るという投資家の合理的な行動(裁定取引)により、乖離状態は短期間のうちに解消されるのが当然と考えます。ところが実際には、資産価格の大きな乖離が長期にわたって継続し、裁定取引も十分に機能しないといったケースが意外なほど多いのです。

効率的市場仮説では、投資家の多くが合理的であることを前提としていますが、ファンドやディーラーなどのいわゆるプロの投資家であっても、必ずしも合理的な投資行動をとるとは限らないのが現実です。例えばいま、Aというファンドがリスクの高い金融商品に投資して、高いリターンを上げているとします。Bというファンドが過度のリスクを嫌ってその商品への投資を避けた場合、リターンがAよりも劣ることにより、運用資金がAへと逃げ出してしまう恐れが出てきます。

この時、ファンドBがファンドAにならってリスクの高い商品に投資することは、自らの利益の最大化を図る上では利にかなった行動といえるかもしれません。しかしながら、金融理論が前提とする裁定取引の観点からみると、それが著しく合理性を欠いた行動となる場合も多々あります。こうしてプロを含む多くの投資家が、合理性よりも目先のリターンを優先させて投資を行う結果、資産価格の実態からの乖離が拡大・長期化し、バブルにつながっていくと考えられます

同じく伝統的な金融理論によれば、資産価格が上がるか下がるかの確率は、常にランダム(無作為)とされています。しかし、例えば為替市場における最近の研究では、ディーラーがその時どきの相場トレンドを認知しているかどうかによって、為替の上下動する確率が変わってくるという観測結果が出ています。円相場が下落基調にあるとディーラーが判断した場合、今後も引き続き円が下落する確率が、上昇に転じる確率よりも高くなるのです。このように投資家が相場に追随して、いわゆる「順張り」をする傾向が強いことも、バブルの生成や崩壊に大きく関係していると思われます。

バブルの後始末が次のバブルを呼ぶ

近年のバブルを検証すると、何らかの理由で市場に大量の資金が供給され、行き場をなくした資金が一部の資産へ投資を集中させる、いわゆる「過剰流動性バブル」の発生が多いことに気づきます。例えば1990年代末の米国ITバブルは、97年のアジア通貨危機後に「質への逃避」として、米国の短期債券市場へ大量の資金が流入したのがきっかけでした。2004年頃から始まった米国の住宅バブルも、2000年のITバブル崩壊や2001年の同時多発テロを受けて、米国が大幅な金融緩和をしたことが背景にあります。

その住宅バブル崩壊後、2008年に発生した世界的な金融危機に際しても、日米欧をはじめとする世界各国の政府と中央銀行が、景気対策や金融システム安定化を目的として異例の資金供給を実施しました。結果として、世界のマネー流通規模は金融危機前の2倍に膨れ上がり、それが今日、中国の不動産など新たなバブル発生の温床になっているのではないかと危惧されています。

すなわち、バブルの崩壊や経済危機といった世界的な事件が、次なるバブルの呼び水となる傾向が強いわけです。事件が重大であればあるほど、てこ入れは大掛かりとなり、バブルへの懸念は高まります。こうした過剰流動性の問題について、今後はさらなる研究や対応が求められることになりそうですが、いずれにしても人びとが資金効率の最大化を図る「合理的ではないが優秀な投資家」であるかぎり、バブルは繰り返すのかもしれません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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