海外投資家の評価を高めた日本企業の構造改革
日本株の上昇基調が止まりません。日経平均株価は今年(2015年)の2月第2週(9~13日)から3月第3週(16~20日)まで6週連続で上昇し、途中3月13日には約15年ぶりに1万9000円台を回復しました。3月23日現在でも終値は1万9754円と、年初来高値を更新しています。
急速な日本株上昇の背景には、良い意味でも悪い意味でも「変化」というキーワードがあるようです。例えば今、日本企業の間では資本効率を重視する経営姿勢が広がりつつあります。今年1月~3月の日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)は約4兆円に上りました。キユーピーやNTTグループなど、いわゆる内需関連企業が国内外で設備投資を増やしたり、企業買収に乗り出したりするケースも目立ってきました。このように賃上げも含めて日本企業が90兆円超といわれる手元資金の活用を本格化することで、「消費への波及→景気の押し上げ」という好循環への期待が高まっているのです。
3月13日には工作機械用NC(数値制御)装置で世界シェア首位のファナックが、投資家向け活動に消極的とされてきた従来の方針から「株主との対話路線」に転換するというニュースが伝わって、市場の大きな驚きと関心を呼びました。こうした日本企業の構造変革は、とりわけ資本効率に敏感な海外投資家の日本株に対する評価を高め、持続的な海外マネーの流入につながると期待できます。
業績面からも日本企業への注目は高まっています。大和証券と米調査会社トムソン・ロイターの集計によれば、15年度に東証1部上場企業の平均増益率(純利益)は13.9%に達し、主要な欧州企業の6.2%や米国企業の1.7%(いすれも1株利益)を大きく上回る見通しです。これらの数字を基に予想PER(株価収益率)を計算すると日本株が14.9倍、ドイツ株が16.7倍、米国株が18.2倍となり、日本株は欧米株より割安な水準にあることが分かります。
ゴールドマン・サックス証券によると、世界に分散投資する有力株式投信の日本株組み入れ比率は14年末に平均16.6%でした。対して、市場関係者が運用の指標とする株価指数では日本株の比重が20%強となっています。海外投資家の多くはいまだに標準的な組み入れ比率よりも低い割合しか日本株を保有していないわけで、「持たざるリスク」を意識して積極的に資金を振り向けている模様です。日本株が数年前まで海外投資家にほとんど見向きもされなかったことを考えると、このような日本株の地位向上もまた重大な変化ということができるでしょう。
公的マネーの影響力が市場をゆがめる懸念も
一方で、少し気になる変化として公的マネーが相場に及ぼす影響力の増大を挙げることができます。137兆円の運用資金を誇る年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、14年末で19.8%だった株式での運用比率を25%まで高めるべく、既に活発な日本株買いを進めています。今年3月には地方公務員共済組合連合会など3つの共済年金が、GPIFと同水準まで日本株の保有比率を高める計画を発表しました。
かんぽ生命保険とゆうちょ銀行も今秋の株式上場をにらんで、運用収益の向上を目指した株式への投資拡大を計画中です。加えて日銀も異次元金融緩和の一環として、ETF(上場投資信託)を通じた日本株買いを続けています。UBS証券の試算では、これらの代表的な公的マネーによる日本株の買い余力は合計で27.2兆円に上ります。国内に1,000本弱ある公募型日本株投信の残高合計は約19兆円で、それと比べても公的マネーの潜在的な影響力の大きさは明らかです。
結果として「市場のゆがみ」と呼べるような現象も起きています。今回の相場上昇局面では、これまでセオリーとされてきた日本株相場と為替相場、あるいは米国株相場との連動性がほとんど見られなくなりました。公的マネーは為替や海外株式市場の動向にかかわらず、継続的に日本株を購入する傾向が強いのが特徴です。公的マネーによる買いは日本株相場の下支え役として機能する半面、その影響力が高まるほど市場本来の価格形成機能をゆがめる懸念もあるわけです。
一部の専門家からは最近の日本株について、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の裏付けを欠いているという懸念の声が上がっています。公的年金による運用資産の入れ替えを通じた買いと、公的マネーの流入を見込んだ海外投資家による買いが、相場を必要以上に押し上げていると考えられるからです。
3月23日には東証1部の売買代金全体に占める上位20銘柄の割合が30%と、約1カ月半ぶりの高水準を記録しました。これは急ピッチで進む株高に乗り遅れるのを嫌った海外投資家が、割安な出遅れ銘柄をじっくり拾うことよりも、時価総額が大きく値動きのよい主力銘柄の購入をひとまず優先した結果といわれています。
こうしてみると、今の日本株市場では「業績相場」や「官製相場」「需給相場」といった複数の相場フェーズ(位相)が混在していることが分かります。投資家の銘柄選びや投資スタイルも多様化しつつあり、意外な銘柄が人気になるなど、従来の経験則だけでは相場の動向が読みづらくなってきました。次回はその辺りの話を中心に、日本株市場の現状と今後についてさらに詳しく探ってみたいと思います。