海外投資家が日本株に対して強気になれない事情
まず、日経平均株価の過去3年間における推移(それぞれ年末の終値)と年間騰落率を振り返っておきましょう。
- ・2011年:8,455円35銭
- ・2012年:10,395円18銭(+22.9%)
- ・2013年:16,291円31銭(+56.7%)
- ・2014年:17,450円77銭(+7.1%)
一見して分かるのは、2014年の年間プラス幅が13年に比べて大きく落ち込んでいること。日本株市場で売買高の6割を占めている海外投資家は、13年に日本株を15兆円以上も買い越しましたが、14年には買い越し額が8,400億円程度まで激減しています。こうした数字を見る限り、アベノミクスの実質3年目にあたる今年(15年)もやはり、海外投資家の動向が日本株相場を大きく左右すると言っていいでしょう。
その兆候はさっそく新年の値動きに表れました。1月6日には日経平均株価が前日比で525円下落し、8日と14日にもそれぞれ300円近い上昇と下落を記録するなど、年明けの日本株相場はちょっとした乱高下の様相を呈しています。
背景には、1月13日にニューヨーク市場で一時、1バレル=45ドルを割り込む水準まで進んだ原油相場の急落があります。原油安は燃料コストの低減など、いわゆる交易条件の改善をもたらすため、基本的には先進国の経済にプラスに働くとされています。しかし、一方では米国におけるエネルギー関連投資や産油国および資源国への悪影響も連想されるため、海外投資家はいわゆるリスクオンとオフの間で態度を決めかねていると考えられます。
原油相場の急落以外にも、欧州のデフレ懸念や再び浮上してきたギリシャによるユーロ離脱の可能性、中国の景気失速懸念など、金融市場ではこのところリスクの芽が入れ替わり立ち替わり吹き出している状態です。また、海外投資家は日本株への投資を判断するに当たって、今後は安倍政権の成長戦略の進捗状況を重視すると考えられます。その意味では、アベノミクス自体がリスクをはらんでいると見ることもできます。
加えて海外投資家には、日本株に対して強気になれない特殊な事情もあります。1ドル=120円前後まで円安が進行したことにより、ドル建てで見た日本株相場は昨年後半から低調な値動きが続いています。実際に14年のドル建て日経平均株価は6%の下落でした。特に海外の長期投資家は、日本株の売買に当たって為替変動リスクをヘッジ(回避)しないのが一般的です。そのためドル建て日経平均株価が停滞する局面では、たとえ日本株を割安と感じたとしても、おいそれとは買いを入れにくいのが現実でもあるわけです。
企業収益の改善で日経平均株価は2万円を目指す?
そんな懸念材料とは裏腹に市場では今年、日経平均株価が2万円を突破するとの強気な見方が大勢を占めている模様です。その根拠となっているのが、円安と原油安がもたらす日本企業の収益改善です。
ゴールドマン・サックス証券では、円安が輸出企業の業績に通期で貢献し、15年度に東証1部上場企業の1株利益は14年度比で22%増えると見込んでいます。これは1ケタ台の米欧やアジア諸国に比べて断トツに高い増益率です。世界の中で日本企業の1株利益の伸びが相対的に大きい時期には、海外投資家が日本株を買い越す傾向が強いことから、今年は再び海外からの買いが増えると見る向きもあります。
UBS証券の試算では、円安と原油安がそれぞれ5%ずつ企業増益に寄与し、法人減税や米国の景気回復などの影響も加味すると、堅めに見積もっても15年度は10%超の増益が期待できるとのこと。これらの数字を参考に、日本株相場がどこまで上昇が見込めるのか考えてみましょう。
今年1月14日現在、日経平均株価ベースの1株利益は1,093円で、日経平均採用銘柄の平均PER(株価収益率)は15.37倍です。15年度の増益率を例えば15%と仮定すると、同1株利益は1,257円まで増加し、これにPERの15.37倍を掛けると1万9,320円になります。企業の増益率がさらに高まったり、市場がPER16倍を許容できたりすれば、2000年4月以来の2万円回復がいよいよ視野に入ってくる計算です。
ひとつ注意しておきたいのは、今年は海外勢に限らず投資家の目が従来にも増して日本企業の「個々の力」に注がれるであろうということ。例えば1月8日には、東証2部株価指数と日経ジャスダック平均株価がそろって約8年7カ月ぶりの高値を記録しました。これら中小型株は原油安などの外部環境に左右されにくいうえ、内需関連企業が多いことから、安倍政権が掲げる「地方創生」の恩恵を受けやすいという期待も膨らんでいます。
収益性の高さや安定感という意味からすれば、当然のことながら世界で高いシェアを持つ企業や、ROE(自己資本利益率)が高い、あるいはROEの水準が顕著に上昇しそうな企業への注目も高まっていくでしょう。いずれにしても、企業の稼ぐ力はもちろん、ガバナンス(企業統治)や資本効率も含めた銘柄の選別が今年はいっそう進むと思われます。すなわち銘柄格差が広がることになるわけで、私たち個人投資家が日本株に投資する際には、入念な調査・分析が必要になるのは言うまでもありません。