世界的な景気減速への警戒感が広がった
金融市場の方向感が読みづらい展開になってきました。米国ダウ工業株30種平均は、今年(2014年)9月19日に終値で1万7,279.74ドルの史上最高値をつけた後、下落基調に転じ、10月15日の終値は1万6,141.74ドルまで下落しています。特に10月に入ってからは相場が乱高下の様相を呈しており、1日に200ドルを超える下落を3度、反対に200ドルを超える上昇を2度、それぞれ記録しています。
日経平均株価も9月25日に年初来高値となる1万6,374円14銭の終値を記録し、6年10カ月ぶりの高値圏にありましたが、その後は下落に転じ、10月16日の終値は約4カ月半ぶりの安値にあたる1万4,738円38銭となっています。9月25日から3週間で1,600円以上も下落した計算です。
この間、外国為替市場では10月1日に一時1ドル=110円台と、約6年1カ月ぶりの水準まで円安・ドル高が進みました。8月下旬からの下落幅は1カ月半で約8円となり、2012年秋に始まったいわゆるアベノミクス相場で最速のペースでしたが、その後は円高・ドル安への揺り戻しが進み、10月16日には1ドル=105円台をつけています。
こうした市場変調の背景には、世界経済の先行きが不透明なことに対する警戒感があるようです。例えばドイツでは今年8月の鉱工業生産が前月比マイナス4%の大幅減となり、同月の輸出も2009年1月以来の落ち込みを記録しました。けん引役であるドイツの低迷から、ユーロ圏経済の先行きに対する懸念が大きく膨らんでいるほか、ドイツの主要な輸出先である中国でも景気の下振れ懸念が強いのが現状です。IMF(国際通貨基金)では10月7日に新興国の成長鈍化などを指摘したうえで、世界経済の成長見通しを引き下げました。
世界的な景気減速の影響は、これまで唯一好調さを保ってきた米国経済にも及ぶと考えられるため、米国企業の業績が悪化するとの憶測から米国株の「売り」につながります。一方で米国経済にも停滞の懸念が広がった場合、FRB(米連邦準備理事会)による利上げの実施時期は市場予想の2015年半ばより遅れることとなり、金融緩和のさらなる長期化への期待から米国株の「買い」にもつながります。今回の米国ダウ平均の乱高下は、これら両者の思惑が交錯した結果とみることができそうです。
米国株相場は本来の姿に戻りつつある?
米国株のボラティリティ(価格変動率)が急上昇するなか、投資家の間では株式から安全資産の代表である米国債へ資金をシフトする動きも広がっています。マイナス金利が定着したユーロ圏の国債から相対的に金利の高い米国債へ資金を移す流れや、中東情勢などの地政学リスクを警戒して原油などの商品から米国債へ資金を緊急避難させる動きも加速。米国の長期金利の指標である10年物国債利回りは10月15日に一時、約1年4カ月ぶりに2%を割り込みました。
米国の長期金利の低迷は、これまで日米金利差の拡大を前提として進んできた円安・ドル高の流れにストップをかけることとなりました。日本株市場では円安メリットが薄れた輸出企業の株式を中心に、海外投資家の利益確定売りが相次ぎ、日経平均株価も大幅な下落を余儀なくされたわけです。
金融市場の現状と今後の方向性を読み解くうえで重要なポイントは2つあります。ひとつは、FRBの金融政策の転換点において市場は不安定になりがちだということ。過去にも量的緩和の第1弾(QE1)と第2弾(QE2)の終了時には、それぞれユーロ債務危機と米国政府の債務上限問題が生じ、米国ダウ平均が大きく調整するなど市場は混乱に陥りました。今回の市場変調も、この10月末に第3弾(QE3)の終了を控えたタイミングで、市場が悪材料に過剰反応を示したという側面が大きいように思われます。
もうひとつは、最終的に実施時期がいつ頃になるにしてもFRBによる利上げをそう遠くない将来に控えて、今後は米国の長期金利の上昇が基本的な前提になっていくということです。原則論に基づけば、長期金利の上昇は個人消費や住宅投資を冷やし、企業の資金調達コストの上昇をもたらすため、FRBの利上げ観測は米国株の下落要因として働くはずです。
ところが実際には米国が景気回復に向かっているのに対して、欧州や日本をはじめとする他国の“もたつき”が目立つため、為替市場でドルが「独り勝ち状態」となり、世界の投資マネーが強いドルを目当てに米国へ大量に流入してきました。こうした流入資金が米国債をいわば買い支え、長期金利の上昇に歯止めをかけて、米国株の押し上げや安定にひと役買う形となっていたのです。
今回も米国債への一時避難的な資金流入はありましたが、米国ダウ平均が乱高下の末に大きく下落したことは、高値圏で推移してきた相場が調整段階に入ったことを意味します。米国では現時点で企業業績が堅調さを保っており、雇用の改善基調も続いています。米国景気が変調を来したわけではないことから、米国株相場が本来の姿に戻りつつある過程と見るのが妥当ではないでしょうか。