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仏動揺、日米市場へのインパクトも甚大=国債“再評価”通じ

第413回 メインビジュアル

前回のコラムで、「欧州でもフランスやドイツの10年債利回りは前者では四半世紀、後者では10数年ぶりの高水準だ」と書いたこともあって、今回は今年から来年のマーケットを考える上で一つの大きな要素となりうる欧州、特にフランスについて考えてみたい。フランスでは我々日本人が想像しないような事も起こっていて、投資家としてやはり注意を払っておくべきだと思う。

最近日本のマスコミを騒がしたのは、「フランスにおける高校生らによる大規模な抗議デモ」だろう。まず「高校生」というのに驚くし、内務省によると全国で週によっては「25万人が参加」「これまでの拘束者数は7000人以上」という数字にも驚く。「商店を襲撃して略奪」「車両に放火」など暴徒化も日本からは想像を超える。

混乱は社会問題に限らない。なによりも政治の分極化が激しい。国民の支持政党も大きく割れており、就任時に高い支持率(2017年は45〜62%)を誇ったマクロン大統領の支持率は2期目最終段階の今になって15%(過去最低)にまで低下している。当然彼が率いる政治勢力の力も低下し、極右から極左まで様々な色合いの勢力に大きく割れている。大きなくくりで言うと、国家財政が悪化の一途をたどる中でも、国民に不人気な「財政緊縮」をあえて主張の柱に据える勢力がまだ微力なことだ。この結果、国債利回りの上昇などマーケットの懸念は噴出している。

「欧州の問題児」といえば、今まではイタリア、ギリシャなど南欧の国が多かった。しかし最近ではフランスがそう呼ばれるようになっている。長期債の利回りは四半世紀ぶりの高さになっており、日米を巻き込んだ「世界的な長期金利上昇」の震源地の一つだ。つまり投資家として、フランスの政治・経済・社会の動向に関心を払わざるを得ない状況だ。

もっとも、「政府の財政支出が拡大的になりがち」というのは、高市政権、トランプ米政権など他の国でも見られる。長期金利は日米ともに上昇しているが、それは政府の財政政策に対するマーケットの懸念の反映でもある。

ドイツと並んで欧州の中心(地理的にも、国力としても)に位置し、西側先進国としても重要。そのフランスで何が起こっているのか、そして今後どうなるかは、マーケットを考える上でかなり重要だ。

迷走するフランス

フランスの窮状が良く分かるので、高校生騒動にもう少し触れたい。原因は何か。高校生が怒っているのは、「深刻な教育環境の悪化」や「教育予算の不足」だ。二つはむろん関連する。「教師が足りずに産休や病気で休んだ教員の代わり(代理教員)が長く来ず、授業が行われない」などの事態が実際に生じている。これでは高校生は不安になる。AI(人工知能)時代ということもあって「将来への不安」が高まるのは当然だ。

抱える大きな問題の一つは「財政」だ。深刻な世代間対立がある。「年金の支給開始年齢」の問題を含めて、社会の各セクターで「予算の取り合い」が生じているのだ。この結果、公的部門の赤字は増え続けている。対国内総生産(GDP)比で見ると、フランスの政府債務残高(2026年見通し)は119.3%と120%に近い。欧州連合(EU)が定める「60%以下」の2倍だ。財政赤字は対GDP比で5.4%とスペイン、イタリア(3%前後)よりはるかに悪い。

特に問題なのは、財政赤字の増大が続く中で、フランス政府が借金(国債発行)に伴って行っている利払いの費用が急増していることだ。2026年の見込み792億ユーロから2027年は912億ユーロと、一気に120億ユーロ近く増加する見通し。金利上昇で利払いが増え、その利払い増がまた財政の赤字を増加させて金利を押し上げる、という悪循環が始まっている。

日米でも「財政問題」は存在するが、「金利上昇→利払い増加→赤字拡大→金利上昇加速」という悪循環にはまだなっていない。財政赤字削減への社会的合意が存在し、赤字増大に歯止めをかける勢力がまだ存在しているからだ。しかし将来の問題として「対岸の火事」でないことは確かだ。金融市場が今から恐れているのは、まさにその点だ。

株式市場では「資本回避」の傾向を見ることができる。代表的株価指数のCAC40は、今年8月初めから10月半ばまでの短い期間に1000ポイント、10%ほど下がっている。この間の米国などの市場は堅調だったから、資金がフランス市場から出ているように見える。最近のユーロ安・ドル高のトレンドも、フランスが直面する苦境を反映している。

政治勢力は弱小・分裂

政治勢力がまだある程度の塊を作っている日米と違って、フランスでは政治勢力の分散・離散・乖離(かいり)・弱小化が顕著で、赤字削減などの一つの大きな政治目標に向けた合意形成が難しい事が問題だ。フランスには大きく分けて三つの政治勢力がある。

  • 1. 中道・マクロン政権系(赤字削減優先。しかしマクロン大統領の支持率は低く、議会で過半数を確保出来ず→内閣が頻繁に交代)
  • 2. 急進右派・国民連合(マリーヌ・ルペン、ジョルダン・バルデラ両氏などが率いる。減税や社会的給付を主張するが、最近大規模な財政再建案を提出=後述)
  • 3. 左派・急進左派(メランション氏など。富裕層増税・企業補助金削減を財源に教育、社会保障の充実を主張)

三分類したが、同じ範疇には個々の問題に関して政治的主張の異なる勢力(党とか派閥)がいくつかあり、フランス政界はイデオロギー的にも勢力図的にも分散化・複層化している。「大きな政治勢力の塊」がない。“フランス的”と言えばそれまでだが、これが政治の意思決定を遅らせ、首相をトップとする内閣の力は弱い。

ただし財政赤字問題(金利上昇)が深刻化し、それが外交的にも、マーケット的にも国の課題になる中で、興味深い変化が起きつつある。それは、次期大統領選挙(2027年春)に関する世論調査で他の候補をリード(3割近い支持)する極右のマリーヌ・ルペン氏らが、国民連合(RN)の政策を従来の「財政拡張的」から「大幅な歳出削減と財政規律を打ち出す方向」へと転換しているのだ。

ルペン、バルデラ両氏は10月6日に国民連合(RN)としての独自予算案を発表。その中で「マクロン大統領が残した赤字を削減する」と明記し、大統領選後の5年間の財政計画として、①期間内に1400億ユーロの財政赤字を削減する ②2030年までに財政赤字をGDP比で3%未満にする ③移民関連支出、EUへの拠出金、行政経費などを削減する——などを明らかにした。大きな転換だ。しかし一方で減税や社会的給付も主張しており、まだ「彼女が本当に政策転換したのか」については「疑問が残る」という意見もある。

明らかなのは、従来の政治的立ち位置を変えて「信頼できる次期大統領候補」としての立ち位置(市場や国民に対する)を強くしようとしているということだ。支持率で頭一つ抜けた次期大統領候補だが、「政治を任せて大丈夫」という印象を強めようとしている。

まだ半年近く先の大統領選なので、今後の展開を今から読むのは難しい。しかしRNが“健全性”を念頭に置いた財政政策案を打ち出したことは重要だ。イタリアのメローニ首相も当初は右翼の際物のように言われたが、首相になったらこれまでの主張と実際の政策をうまく調整して、世界でも注目される安定政権を作っている。同首相のようにルペン氏(と率いるRN)が国民から広く支持される政権になる可能性もある。

しかしそれでも問題は残る。大統領選挙後も政治勢力の分散・離反が続くなら、RNを中心にどんな内閣が出来ても今(マクロン大統領下)と同じように長続きはせず、フランス政治の不安定は続く。

日米でも仏ゆえの国債“再評価”

マーケットから見て一番注意しなければならないのは、今でも1.5%近くに達しているドイツ国債とフランス国債の利回り格差。これ以上広がらないことが重要だ。ドイツも色々問題を抱えているが、同国の財政赤字の対GDP比は欧州諸国の中では極めて小さい。租税基盤の大きさなどから、欧州の中では財政優等生だ。欧州で“危機”が叫ばれる時には、「ドイツ国債の利回りと当該国国債利回りの格差」がいつもでも問題になる。この格差が大きいほど、危機の深刻度は大きい。

2009年から2010年の欧州金融危機の際には、ギリシャの国債利回りはドイツのそれに比べて5%以上乖離した。今のフランスのそれは2%未満だ。それほど心配ないという意見もある。しかし前回も述べたが、今の時代はフルAI社会構築に向けたインフラ(データセンターなど)構築のニーズが非常に高く、それが膨大な資金需要を生み出している。それが、各国で増える財政赤字ファイナンス需要とぶつかる危険性があることだ。久しぶりに「クラウディング・アウト」という単語を思い出した。

フランスで長期金利が上昇すると、世界で起きるのは「信用リスクの再評価」だ。世界経済での地位の高さ故に、“再評価”は日米の信用リスク中心となる。つまり「フランスは大変な事になっているが、米国や日本は大丈夫か?」となる。

“再評価”となれば、程度の差こそあれ「日本や米国も同じような問題を抱えている」から「利回り上昇圧力」が高まる。実際にその傾向が強い。つまりフランスの長期債利回り上昇は、日米の利回り上昇を招来しやすい。それによって起きるのは、国際的なポートフォリオの調整だ。「どちらのリスクが少ないか」との視点で、国境をまたいだ資金移動の原因となる。

つまりフランスの危機の深まりは、日米のマーケットにとっても大きな負荷となる。その意味で、日本のマーケットにいる我々もフランスの市場に関心を持ち続けざるを得ない。近いうちに、ドイツなど他の欧州諸国に関しても取り上げたい。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。