1. いま聞きたいQ&A
Q

サブプライムローン関連商品が、高格付けを得ていたのは何故ですか?

なかば人工的につくられた高格付け

前回、サブプライムローン関連の証券化商品を世界中の投資家が購入した理由として、「リスクが意外に低いのではないかという錯覚があった」というお話をしました。今回はその錯覚が生まれた背景について、もう少し詳しく見てみようと思います。キーワードは、「モノライン」と「格付け」です。

「モノライン」とは、金融商品の元利払いを保証する保険会社のこと。一般の保険会社が生命保険や自動車保険、火災保険など複数の保険事業を扱う(マルチライン)のに対し、金融保証のみに特化しているため、単一の事業(モノライン)という意味でこう呼ばれています。モノラインが扱う金融商品は元来、米国の州政府が発行する地方債(州債)などが中心ですが、サブプライムローン関連の証券化商品についても多数の保証をおこなっていました。

モノラインは、地方債を発行する州政府などの自治体や、証券化商品を販売する金融機関から一定の保証料を受け取ります。万が一、債務不履行が生じた場合には、その保証料を用いて購入者への元利払いを肩代わりする仕組みです。この仕組みがあるために、本来ならば債務不履行に陥るリスクが高い、すなわち信用力が低いと見なされるべきサブプライムローン関連の証券化商品に対しても、格付け機関が「トリプルA」などの高格付けを安易に与えることとなりました。

サブプライムローン問題が表面化した昨年(2007年)夏頃まで、モノラインは過去30年以上にわたって無事故で健全な経営を続けてきたため、モノライン自身にも「トリプルA」の高格付けが与えられていました。このように、高い格付けを持つ保険会社が元利払いを全面的に保証することで、なかば人工的に高い格付けを持つ証券化商品が数多くつくられ、それが投資家のあいだに「安心」「信用」といった錯覚を生むことになったのです。

格下げの影響が地方債にも及ぶ

昨年の夏以降、サブプライムローンの返済焦げ付きが急増したのにともない、モノラインが証券化商品の元利払いを肩代わりするケースも急増します。モノラインが元利払いを保証した証券化商品の残高が90兆円以上もあることから、保証の不履行はもとより、モノラインの経営危機さえ懸念されるようになりました。

格付け機関は昨年の秋口から証券化商品の格付けを相次いで引き下げましたが、今年(2008年)に入ってからはモノラインの格付けも引き下げに動いています。これにより、サブプライムローン関連の証券化商品だけでなく、米国の地方債も市場価値が大きく損なわれることになりました。こうした事態を受けて、米国の著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏が、モノラインの保有する地方債を最大8000億ドルまで再保証するという救済案を提示。実現はしなかったものの、一時的に大きな話題となりました。

本来、モノラインが地方債の元利払いを保証する際には、モノライン自身が地方債の信用力を厳密に審査し、安易に保証しないという態度を保つことで自らの高格付けを維持することが可能になるはずです。同時に、厳密な審査をパスして保証を受けるからこそ、地方債にも高格付けが付与されるはずです。しかしながら、サブプライムローン関連を含む証券化商品の保証に関するかぎり、モノラインがそうした基本的な姿勢を重視したとは思えません。

今回のサブプライムローン問題では、証券化商品に対して高格付けを乱発した格付け機関の無責任さが問題視されています。ただし、モノラインにしても投資家にしても、その格付けを無批判に受け入れすぎたという側面が大きかったのではないでしょうか。「リスクを自分で判断する」というプロセスをおざなりにしたために、結果として格付けに翻弄されたような気がしてなりません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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