1. 金融そもそも講座

第100回「BRICSはどこに?」いくつかの共通点 / 豊かさを求めて

かつては毎日のように新聞やテレビに登場していたものの、最近めっきり目にしなくなった単語がある。「BRICS」だ。ブラジル(B)、ロシア(R)、インド(I)、中国(C)、そしてしばらく後に南アフリカ(S)が加えられた。一般的なイメージは、「人口が多く、高成長で先進国よりも世界経済をけん引すると思われる国々」というものだった。しかしそれは過去のイメージになりつつある。そこから読み取れるものは何か?

いくつかの共通点

「BRICs」という言葉を最初に使ったのは投資銀行ゴールドマン・サックスの著名なエコノミストであるジム・オニールだ。彼が2001年11月末に投資家向けに書いたリポートのタイトルが「Building Better Global Economic BRICs」で、ここに初めて「BRICs」という単語が登場した。当時は最後の“s”は複数形とされて小文字で表記された。それが大文字の“S”に変更されたのは10年後の2011年で、中国の北京で行われた4カ国首脳会議(ブラジル、ロシア、インド、中国)に南アフリカ共和国が初参加したことに伴い「BRICS」となった。BRICSを構成する5カ国は共通点をいくつか持っている。

  • 1. 国土が大きく、かつ資源大国である。国土面積はロシアが世界1位、中国が3位、ブラジルが5位、インドが7位、南アフリカが24位であり、5カ国で世界の32%を占める
  • 2. 人口が多い。中国が約13億人(世界1位)、インドが約12億人(2位)、ブラジルが約1億7000万人(5位)、ロシアが約1億4000万人(7位)と続く。日本より人口が少ないのは南アフリカ(約5000万人)だけである。5カ国合計で28億人以上、世界の人口の半分弱を占める
  • 3. 政治的・軍事的にそれぞれの地域で強い影響力を持つ。面積も人口も多ければ当然そうなる。ロシア、中国、インドの3カ国は核保有国でもある

豊かさを求めて・・・

注目されたのは高い成長力だった。成長率が二桁に乗ることが珍しくなかった中国を先頭に、当初の4カ国は2000年から10年間ずっと、先進国(日・米・欧など)の平均成長率を上回る6~7%の成長を続けた。日本はこの間、平均すると2%にも達しない成長率だったから、BRICsの高成長は垂涎の的だった。先進国の成長が鈍れば鈍るほど、BRICsの高成長に対する羨望と期待が高まった。「世界経済を引っ張ってくれるのではないか」という期待は、数多くの国際会議の声明に表れた。

もっとも当初はBRICsのGDPは合計しても先進国の合計から見ると極めて小さいものだったから、成長率が高くてもそこから生まれてくる世界にとっての新たな富はそれほど大きくはなかった。しかし、これら4カ国、後に5カ国が持つ潜在力(国土面積、人口など)と併せて考えると、「いずれ“BRICS”の時代が来る」と思わせられたものだ。

むろん、BRICSもそう願った。これらの国はいずれも21世紀に入る前に豊かさを求めて経済改革を行った。一番早かったのは中国が1970年代に実施した「改革開放」だ。社会主義という体制を残しながら市場経済を導入するという実験だった。それが成果を生み、中国が著しく経済発展するのを見て、ブラジル、ロシア、インド、南アフリカも、遅くとも1990年代には経済政策を実施した。いくつかの国で社会主義の名残があったのを「市場経済」に転換した。国民の豊かさへの渇望を無視できなかったからだ。

共通しているのは、経済各部門(資源開発など)の対外開放による海外からの投資導入、それに伴う市場経済化だ。それまで豊かではなかったので、国内には開発資金がなかった。海外から持ってくるには、海外の資本にとって魅力的にならなければならない。そのためには、海外の資本が安心してBRICSに入ってくる法的、制度的枠組みが必要だった。それが国内経済の市場経済化だった。

低い発射台から・・・

開発を目指して外資を入れた国はどこでもそうなることが多いが、BRICS諸国の当初の成長率は高く、しばらく持続した。それ故に、自国民の期待もそうだが、先進国、世界の期待も高くなったのである。「BRICSは世界経済の新しいけん引車」と。なぜ近代的開発に初めて着手する国の成長率は高くなるのか。それには次のような展開による理由が考えられる。

  • 1. そもそも発射台が低い。発射台とは、国民一人当たりのGDP、社会的インフラ(道路、上下水道、通信網など)、教育水準など、諸々の条件を指す。外資の導入で生産が伸びるとそれが雇用を生み、雇用が所得を生んで消費が起きる。それを足し合わせれば発射台が低いだけに成長率は高くなる
  • 2. 世界の最新技術を使える。外資が入ってくるときには、一緒に新しい技術(主に生産に関わる)も持ってくる。先進国の企業は安いコストで生産したいからだ。その最新技術がまた生産を加速する
  • 3. そのプロセスで途上国の国内に富が生まれて、消費を刺激し、先進国の消費財の企業も途上国に進出する。大都市の不動産価格、オフィス価格が上昇するなど、当該途上国の国内に“高揚感”が生まれる

BRICSの発展形態はよく「中間省略型」といわれる。具体的には、日本など先進国の通信インフラは“固定電話網”の時代が長くあって、その上で“携帯電話網”が構築された。今でも日本の固定電話網は強固なものである。しかし携帯電話技術が発達した段階で電話網を構築し始めた途上国は、最初から携帯電話技術に基づいて電話網を構築し、各戸への電話線は引かなかった。カバーに必要な基地局をつくって終わりで、安く済む。それを中間省略(固定電話網をパスしたという意味で)という。最新技術を使えるのだし、電話網ならそれでよい。しかし、BRICSが中間省略したのは電話網だけではなかった。それが今、大きなネックになってきている。(

ご注意:本コラムは、上記掲載日から1ヵ月程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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