1. いま聞きたいQ&A
Q

人口構造の変化は経済に、どのような影響を及ぼすのでしょうか?

日本のデフレは「人口オーナス」が原因か?

国連人口基金の推計によると、世界の総人口は今年(2011年)10月31日に70億人を突破しました。今後も増え続け、2050年には93億人、2100年には101億人に達すると予測されています。

一方で、日本の人口は2007年から4年連続で減少を記録しています。高齢化には一段と拍車がかかっており、65歳以上の人口比率は23%と、世界で最も高い水準にあります。高齢化率(65歳以上が総人口に占める割合)が21%以上の国は「超高齢社会」と呼ばれますが、日本は現在、世界で唯一それに該当します。

世界も日本もいま大きな人口構造の変化に見舞われているわけですが、こうした人口変動が経済に及ぼす影響を考えるにあたって、キーワードになるのが「人口ボーナス」と「人口オーナス」です。

一般に国の人口は、経済が一定の水準に達した段階で出生率が下がり、いわゆる少子化に向かいます。少子化が始まってしばらくすると、15~64歳の生産年齢人口が相対的に大きく、経済成長に最適な状態を迎えます。これが「人口ボーナス」です。逆に高齢化が進んで退職者が増え、生産年齢人口の比率が下がり、税収が減るとともに年金などの社会コストが増していく状態が「人口オーナス(onus=重荷)」です。

日本では昨年来、人口オーナスとデフレの関係について、さまざまな議論が交わされています。例えば人口オーナスがデフレの要因であるという説では、労働と同時に消費の主役でもある生産年齢人口の減少が国内需要の減退をもたらす一方で、企業の供給力は変わらないために、需給ギャップが生じてデフレになると考えます。いわばデフレを需要の「量」の問題と捉えているわけです。

この説に基づくと、需要が減るのはあくまでも人口構造の変化が主因であり、国民一人ひとりの需要が減ったわけではないため、いくら需要の総量を増やそうと試みても、そこには限界があることになります。むしろ、供給力の削減によって需給ギャップを調整することが、デフレの解消につながります。

一方で、デフレを需要の量ではなく「質」の問題と捉える見方もあります。高齢化によって新たな需要が生まれるなど、人口構造の変化は需要の中身も変化させますが、それに日本社会が対応しきれていないことがデフレの要因だというのです。

代表例として介護や医療など、高齢化にともなって需要の顕著な増加が見込まれるサービス分野の現状を挙げることができます。これらの分野は国の規制で事実上、自由競争が妨げられており、いまだに潜在需要を十分には掘り起こせていないと思われます。

総務省の家計調査によると、2010年における世帯あたりの生鮮野菜の支出が最も多いのは60代で、29歳以下の2.1倍に上っていました。パック旅行の支出が最大なのは70歳以上の世帯で、30代の約3倍にあたります。このように、高齢化は日本国内の消費構造にも大きな変化をもたらしつつあり、さらに細かな対応を通じて、いわゆるシルバー市場の拡大につなげる余地は大きいかもしれません。

生産年齢人口の増加=経済成長とは限らない

量と質の問題は、人口ボーナスにも当てはまります。例えば現在、世界最大の人口を抱える中国では少子高齢化の進行が著しく、2015年ごろに人口ボーナスが終わると予測されています。一方で人口が世界2位のインドでは、出生率が高いことから今後30年にわたって人口ボーナスが続き、2021年には中国を抜いて世界1位の人口大国となる見込みです。

それならば、インドがこれから中国を上回る高い経済成長を続けるかというと、そう単純でもないようです。インドのGDP(国内総生産)に対する産業の構成比率をみると、雇用吸収力が高い製造業の比率が低く、生産年齢人口の増加に見合うだけの雇用が創出できていません。企業の経営効率化や生産性向上の面で中国に大きく遅れをとっているほか、国土の広さが中国の3分の1程度であり、人口が増えるほど環境制約は厳しくなります。

21世紀の半ばまで人口ボーナスが続くアフリカ諸国についても、失業率の高さや政治の不安定さなどからみる限り、生産年齢人口が増加しても経済成長にはそれほど寄与しないといった声が聞かれます。

人口構造の変化が各国の経済に少なからぬ影響を与えることは確かですが、その影響を生かすのも防ぐのも、国家運営と国民の意識次第といえそうです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

バックナンバー2011年へ戻る

目次へ戻る