証券投資が最長10年間、非課税扱いに
「日本版ISA」は、私たちが上場株式や公募株式投信などを購入する際に、年100万円という枠内の購入分については5年間にわたって売却益や配当、分配金が非課税になる制度のこと。英国が1999年に導入したISA(個人貯蓄口座)をモデルとしており、日本版には「NISA(ニーサ)」という愛称が付けられています。
専用のISA口座を銀行や証券会社などの金融機関で開くことにより、日本国内に住む20歳以上の個人なら誰でも利用することができます。2014年1月からスタートし、口座開設が可能な期間は2023年まで続きます。
金融庁ではNISAを、これから本格的に資産形成を始める20~40歳代を中心とした投資の初心者向けの制度と位置づけており、「貯蓄から投資へ」の流れを進める一歩として大きな期待を寄せているようです。ただ、それにしては仕組みがいささか複雑で分かりにくく、現状では利用上の注意点も多いように思われます。
NISAでは、非課税投資枠が最大で500万円、非課税期間は最長で10年間となっています。例えば2014年中に、年間投資枠の上限である100万円分の株式や投信を購入したとすると、非課税期間は丸5年後の2018年末まで続きます。同様に2015年から2018年まで毎年100万円ずつ新規に購入していくと、2018年には非課税扱いの株式や株式投信が合計で500万円分積み上がります。
翌2019年には2014年に購入した分の非課税期間が切れることになりますが、2019年以降も2023年までは毎年同じように投資枠を利用できるので、2019年の投資枠を使って新たに100万円分を購入するか、あるいは2014年の購入分をその枠に繰り越して投資を継続することが可能です。2019年の投資枠については丸5年後の2023年末まで非課税期間が続くため、2014年に購入した100万円分は途中で繰り越しを行えば、10年後の2023年まで非課税の対象となるわけです。
5年が経過した時点で3つの選択肢から対応を迫られる
NISAの仕組みを正確に言うと、「5年間をひとくくりとした100万円の非課税投資枠」を、資産総額500万円(枠5つ=5年分)を上限として、2014年から2023年までの10年間、毎年開設して利用できる制度-ということになります。問題は5年間をひとくくりとしたために、ある年の投資分について非課税期間の5年間が経過した時点で、私たちはいちいち対応を迫られるということ。
その際、私たちには大きく分けて以下の3つの選択肢があります。
- 1. 売却して利益を得る(値上がりの場合)、損切りする(値下がりの場合)
- 2. 全額を課税口座に移す
- 3. 翌年の非課税投資枠に繰り越す
2014年に株式や投信を100万円分購入し、非課税期間が終了する2018年末の時点で120万円に値上がりしていたケースを考えてみましょう。すべて期間内に売却した場合は、売却益の20万円には課税されないため、非課税メリットを丸ごと享受することができます。課税口座に移した場合は、株式や投信の取得価格が120万円に修正されるため、仮にその後150万円まで値上がりしても、課税対象は課税口座に移してからの値上がり分である30万円に限られます。
注意が必要なのは、翌2019年の非課税投資枠に繰り越す場合です。2019年の投資枠は上限が100万円なので、繰り越して再投資できるのは100万円分に限られ、20万円分は課税口座にまわすか、売却しなければなりません。2014年に100万円で1本の投信を購入したような人ならまだしも、複数の株式銘柄や投信に分散投資した人は、どの20万円分を枠から外すかで迷うのではないでしょうか。
そもそもNISAでは、1年間の100万円という投資枠内での商品入れ替え(スイッチング)が認められていません。途中売却はいつでも自由なものの、売却部分の枠は再利用できないことになっており、資産価値の変動に応じたリバランス(資産配分比率の調整)が難しいと指摘されています。こうした点も合わせて考えると、特に投資の初心者がNISAを利用する場合、購入対象として適した商品はおのずと限られてくるように思われます。
有力視されるのは、国内外の株式や債券、REIT(不動産投資信託)など値動きの異なる複数の金融資産で運用しながら資産配分を機動的に見直していく、「バランス型ファンド」と呼ばれるタイプの株式投信です。すでに運用会社の間では、NISAを意識した新しいバランス型ファンドを設定する動きが広がっており、一部は銀行や証券会社での販売も始まっています。
ただし、この「購入する商品を選ぶ」という点においても、一筋縄ではいかない事情があります。そのあたりも含めて次回、引き続きNISAについて考えてみましょう。