1. いま聞きたいQ&A
Q

経済にとってなぜ株価は重要なのですか?

1929年10月24日、木曜日。ニューヨークの株式市場が突如として大暴落に見舞われました。この日を境に世界経済は大恐慌に突入し、20世紀に起きた十大事件のひとつに数えられる「世界大恐慌」はニューヨークの株式市場から始まりました。1929年10月24日は「暗黒の木曜日」と呼ばれ、歴史の教科書には必ず登場します。

ニューヨーク株式市場の大暴落を社会科の教科書で読んで、「なぜ株価の暴落が世界大恐慌につながるのだろう」と疑問を持った人も多いのではないかと思います。私も中学生の頃、そう思いました。ここでは株価の暴落と経済への影響を考えてみます。

米国の株式市場から始まった大恐慌は、アメリカだけでなくヨーロッパにもすぐに伝播し、世界経済のあらゆる分野に大きな打撃を与えました。物価は下落し、生産活動は急速に減少し、企業や銀行の倒産が続出して、街中に失業者があふれました。アメリカでは1930年~1932年の3年間で銀行が5000行も潰れ、工業生産は半分以下に落ち込みました。

株価の下落は、経済活動に大きな影響を与えます。短期的な暴落、長期にわたる大幅な下落、そのどちらも国民経済には壊滅的な打撃が加えられます。反対に株価の上昇は経済にはプラスの影響を与えますが、影響の度合いとしては下落によるダメージの方がより大きなものになります。

株価が下落すると、その影響はどのような経緯によって国民経済にダメージを与えるのでしょうか。いくつかのルートがありますが、ここでは次の3つの流れを見ておきます。

  • (1) 株式を保有している人が損失をこうむること
  • (2) 株価の下落によって信用機能が収縮すること
  • (3) 株価の動きが景気の動きそのものを示していること

まず(1)の「株式を保有している人が損をこうむること」。株価下落の直接的なダメージとして最もわかりやすいものです。1000円で株を買った人が500円に値下がりしてしまい、財産が半分になってしまうことです。

一般に大暴落が起きる時というのは、それ以前までに株価が大きく値上がりしているはずです。歴史的に見ても、大暴落が起きる前は株式市場が大活況に沸いていて、国民の間で株式投資が大ブームとなっているものです。

1920年代はアメリカの黄金時代でした。1918年11月11日の対ドイツ戦争終結の日から、1929年10月24日の株式大暴落までの10年間は、アメリカがきわめて短い時間のうちに絶頂へと駆けのぼり、まばゆいばかりの輝きのままに「暗黒の木曜日」によって破綻を向かえました。こうなると誰も逃げられません。

個人も企業も、ブームに乗って株を買っていた人たちは残らず大損を被りました。株式投資ブームでは信用取引による投資も空前の規模に膨らんでいるため、投資家の中には一夜にして破産する人も出てきます。損失金額は国民経済に大打撃を与えるほどの規模になり、消費活動は急激に落ち込んで、モノが売れなくなるので、企業の生産は急減します。

次に(2)の「株価の下落によって信用機能が収縮すること」ですが、一般に株価が大きく上昇している時には、株式以外の資産価値(たとえば不動産)も大きく値上がりしているものです。1920年代のアメリカでは不動産ブームが起きていました。1980年代の日本も同様です。

株式や不動産などの資産価値が値上がりすると、それを担保にして銀行からの貸し出しが増えます。銀行貸し出しが増えるということは、それだけ世の中にマネーがあふれていることになり、それが世の中の景気を必要以上に押し上げます。世の中のあらゆるところが好景気に沸いて、誰もがカネ回りがよくなり、それがまた株式市場や不動産に流れ込みます。グルグルとおカネが回り、ますます景気はよくなります。株式や不動産の資産価値は空前の値段に跳ね上がってしまいます。

ここで株価が急激に下落すると、このようなマネーの回転が一気に逆転します。震源地は株式や不動産の値上がりにあったわけですから、その値段が急激に下がると担保価値がなくなり、おカネが回らなくなります。銀行は貸したおカネをあわてて回収しようとしますが、借りた人の手元にはおカネはなく、そこで株式や不動産を売却しようとします。そうなるとますます値段は下がります。

すでに空前の値段にまで価格はつりあがっているわけですから、もはやどこにも買い手はいなくなり、反対に誰もが争って手持ちの資産を売ろうとします。そうなるとますます価格は下落します。銀行は貸したおカネが回収できず、担保価値もどんどん目減りする事態に直面します。いずれは銀行の経営危機が表面化して、連鎖的に企業倒産が広がります。

最後に(3)の「株価の動きが景気の動きそのものを表していること」です。企業経営者は誰でも「株価は景気の鏡である」という経験則を知っています。企業が成長するためには、設備投資を行って企業の規模(売上高や工場の数、従業員数)を大きくすることが必要です。

企業経営者が事業の拡大を計画している時に、株価が暴落し始めたと知ったら、まともな経営者は「これから景気は悪くなる。だからあまり手を広げるのはやめておこう」と考えて、事業の拡張計画(設備投資の計画)を一時的にストップします。工場の建設を1年間先送りするとか、本社ビルの新築を見合わせるとか、販売用のマンション建設を凍結するなどします。

そのような判断が全業種的に広がることによって企業活動は停滞します。企業の活動が鈍れば景気は悪くなります。賃金は引き下げられ、新規採用の数は減らされ、失業者が増えるようになります。つまり株式市場の暴落は、株式に投資している人たちだけの問題ではなく、株式投資には無縁の人たちにも大きな影響を与えることになります。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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