株価の変動を投資家側からではなく、企業側から考える質問ですね。企業の財務面にとって、自分の会社の株価が日々変動することは、普段はさほど大きな影響はないでしょう。ただし長期にわたる変動(特に下落)は、企業財務に甚大な影響を与えます。
なお、今回はA社から見たA社の株価の変動について考えます。
A社が保有しているB社の株価変動はまた別の問題ですので、ここでは考慮しません。
企業にとって株式市場とは資金調達の場です。ここで言う資金調達とは、企業が株式を「新たに」発行して、その株式を市場を通じて売り出すことによって投資家からおカネを集めることです。株式市場で流通している株式は、その企業が「過去に」資金調達を行った際に発行された株式が売買されておりますので、その株価にどんな値段がつこうとも、企業が行った「過去の」資金調達には影響はありません。したがって現在の企業財務には影響はないでしょう。
直接影響が生じるのは、企業が今まさに株式を新たに発行して資金調達を行おうとしている場合です。株価が高い方がより多くの資金を調達でき、株価が低ければ調達できる資金も少なくなります。100万株を1000円で発行すれば10億円調達できますが、これが800円なら8億円になってしまいます。調達できる資金が計画より多ければ問題はないのですが、少ない場合は事前に立てた資金計画が狂ってきます。このケースでは日々の株価の変動が企業の財務に影響を与えます。
資金調達の発表そのものが株価の下落要因になるケースがあります。すでに1000万株の株式を発行している上場企業が、新たに100万株を現在の時価500円で発行して資金調達する場合を考えてみます。もともとの株主から見れば、流通している1000万株に対して500円の値段がついているのであって、ここにその10%に当たる100万株が新たに市場に出てくるとなると、株主の価値は自動的に10%減少して、株価の理論的な妥当値は454円に下がります(500÷1.1=454円)。
ただし企業は、株式市場で調達した資金によって工場を増強したり、原料をたくさん購入して製品をたくさん作ったり、店舗を増やしたり海外に進出したりして事業の拡張を図ります。金利を支払わなければならない借金を返済することもできます。株式市場での資金調達が企業の次なる発展の基礎となって、売上や利益を伸ばすことに成功すれば、再び株価は上昇します。ただしそれにもある程度の時間が必要です。
質問には「日々の株価変動」とありました。しかし短期の連続が長期です。短期的な下落が継続して長期的な株価の下落につながった場合、企業の財務には重大な影響が出てきます。
株式市場は、常に買い手と売り手が競い合って株式の値段(つまり株価)をつけている場所です。そこでは常にリアルタイムでその企業の価値が時価総額として表示されます。株価が長期にわたって下がり続けているような企業は、誰もその企業に投資しようとは考えなくなります。株価が上がらないと、企業が株式を新たに発行して資金調達をしようとしても、誰もそれを買ってくれません。企業の財務には将来にわたって影響が出てくると考えられます。
資金調達ばかりではありません。長期的な株価の下落は、その企業の行っているビジネスそのものが見込みがないと受け止められてしまいます。従業員は不安になり、優秀な新入社員が入社しなくなります。その企業に債権を持っている納入業者は製品を供給しなくなるでしょうし、銀行は資金の貸出を渋るようになります。こうなると企業財務への影響どころか、企業の存続そのものが危うくなってきます。
まだあります。長期にわたって株価が下落した場合、ビジネスの価値としては見所はさほどないと考えられますが、今度はその企業を資産価値の面から丸ごと買ってしまおうという投資家が現われないとも限りません。企業買収のターゲットになってしまいます。買収によって新たな大株主が突如として出現した場合、経営陣はすべて入れ替えられるかもしれません。工場の閉鎖、従業員の解雇、事業内容の大幅な変更なども考えられます。
そのような事態を避けるためにも、企業は自らの株式を購入する「自社株買い」を行うことが許されるようになりました。安くなりすぎた株を自分で購入するわけですが、その際にも購入資金が必要です。借金して自社株を買う企業はないでしょうから、社内にある現預金を取り崩して購入することになります。これも財務上の影響といえます。
その企業にとって、日々の株価変動はさほど影響はないのですが、それが継続して長期的な株価変動になった場合には大きな影響が出てくると言えるでしょう。