1. いま聞きたいQ&A
Q

私たちが資産運用にあたって心得ておくべきことは何ですか?

投信の分配金は運用益だけから出ているとは限らない

相場の格言や著名な投資家による名言など、世の中には投資や資産運用の心得とされるものがたくさんあります。しかし、私たちにとって本当に大切なのは、他人や先人がもたらしてくれた教訓やテクニックを学ぶことではなく、自分自身について知ることだと思われます。

投資や資産運用を通じて自分が何をしているのか、あるいは何をやろうとしているのか? 意外にも、自分の行為の意味をきちんと理解できている人は多くありません。

典型的な例が、毎月分配型投信に対する考え方です。社団法人投資信託協会が昨年(2011年)実施した調査によると、毎月分配型投信で分配金が支払われた際に、その分だけ基準価額が下がることを認識している人は全体の17%しかいませんでした。多くの人は、あくまでも投資元本は保証されたうえで、金利収入などによって積み上がった運用益の中からすべての分配金が支払われていると思い込んでいるわけです。

毎月分配型投信では、年間の分配金総額を基準価額で割った「分配金利回り」が注目されますが、これは運用の実態を正確に表すものではありません。運用の損益状況を知るためには、受け取った分配金の総額に加えて、その間の基準価額の変動も考慮した「総収益率(トータルリターン)」を計算する必要があります。

今年(2012年)9月末の時点で、運用実績が3年以上ある毎月分配型投信のうち純資産総額が上位の20本を調べたところ、過去1年間で総収益率が分配金利回りを上回ったのは6本だけでした。残りの14本は投資元本を取り崩しながら、運用益以上の分配金を支払っていたことになります。

これではまるで投資家自身が、資産運用に使っている預金口座Aから自分の資産の一部を取り崩し、日常生活に使っている預金口座Bに移し替えているようなものではないでしょうか。「年金以外にも定期収入がほしい」という高齢者の気持ちはよく分かりますが、せめてその定期収入がどこから、どのようにして得られるのか確認だけはしておきたいところです。

株価の値下がり率で一律に損切りすることへの疑問

「損切り」についての考え方にも注意が必要です。株式投資などで損切りが重要とされるのは、主として以下のような理由からです。

  • 株価下落のダメージを食い止めることはもちろん、損切り(売却)によって現金を手にすれば、その資金を使って新たな投資を始めることもできる。反対に、いわゆる「塩漬け」の状態では手元に資金がないため、株価が回復するのをひたすら待つしかない。

買値から5%の下落や10%の下落というように、あらかじめ値下がり率によって自分なりの損切りラインを決めておき、株価がその水準に達したら機械的に売却する、というのが一般的な損切りの手法です。ある株式銘柄を200万円の資金で購入し、株価が10%値下がりした時点で損切りすると、手元には180万円が残ります(手数料などは考慮せず)。その180万円を使って新たな投資を行った場合、12%の値上がりによって、最初の200万円を回復することが可能です。

この手法の問題点は、値下がり率すなわち「株価の動き」が判断基準になっていることです。株価の動きに基づいて損切りを行うからには、残った手元資金による新たな投資も、やはり株価の動きが基準になるはずです。そうでなければ売りと買いの基準が異なることになり、投資としての整合性がとれません。新たな投資の対象となるのは、これから株価が上がりそうな銘柄すべてです。損切りした銘柄を買い直してもいいし、別の銘柄を買ってもいいでしょう。

しかし、そのように株価の上昇局面を狙う投資が本当に可能なのでしょうか。投資のプロである機関投資家ならいざ知らず、私たち一般の個人投資家が多くの銘柄について株価の研究や分析を行い、値上がりしそうな銘柄を選び出し、タイミングよく投資するというのは至難の業だと思われます

損切りという行為そのものを否定するつもりはありませんが、値下がり率によって一律に損切りを行うことには、疑問が残ります。私たちは通常、株価の動きだけを見て株式を購入するわけではありません。人によって程度の差はあるでしょうが、多かれ少なかれ、企業の事業内容やその収益性、成長性などに将来的な株価上昇の可能性を見て、あるいは期待して株式を購入します。いわゆる“企業価値”を投資判断の基準としているのです

それならば、売却もまた企業価値を判断基準にするべきです。株式の購入後に主力事業の収益性が悪化して回復の期待も薄いなど、当初に見込んだ企業価値が明らかに変化した場合には、株価の水準にかかわらず「売り」を考えてもよいでしょう。逆に当初の企業価値が変わらないと評価できる場合には、株価の下落は買い増しのチャンスとなります。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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