1. いま聞きたいQ&A
Q

「事業法人」とはどのようなものですか?

株式市場では「事業法人」という言葉をひんぱんに見かけます。これは株式市場に限ったことではなく金融市場全般でも一般的に用いられる用語です。今回は事業法人の姿を見てゆきましょう。

「事業法人」とは読んで字の如く「事業を行っている法人」のことを指します。大多数は「会社」の形態をとっており、株式会社ばかりでなく有限会社や合資会社も含まれます。このうち株式会社としては日立製作所や新日本製鉄、NTTドコモ、トヨタ、キヤノンなどが事業法人に該当します。

「法人」とは、法律の規定にしたがって法的な人格(法人格)を認められている主体を指し、生まれながらにして人格が備わっている「個人」に相対する概念です。会社以外の法人としては、たとえば社団法人、財団法人、学校法人、医療法人、宗教法人などがありますが、それらと区別する意味でも「事業を行っている法人」という位置づけを明確にするために「事業法人」という範疇が独立しています。

株式市場において「事業法人」という言葉が最も一般的に使用されるのは、東京証券取引所が毎週一回、その週の第4営業日の夕方に発表している「投資主体別売買状況」です。

東証のホームページ

これはそれぞれの投資主体ごとに、東京・大阪・名古屋の各証券取引所を通じて売買された前週分の上場株式の売買動向を、金額と株数ベースで発表するものです。「外国人が○○億円買い越した」、「信託銀行が○週連続で売り越した」と報じられるのはすべてこの統計データが基になっています。その中で「外国人」、「個人」、「投資信託」、「信託銀行」とともに「事業法人」という項目がひとつの投資主体として設けられています。

東証は「投資主体別売買状況」を作成するにあたって「事業法人」を次のように定義しています。

(ア) 調査の対象は資本の額が30億円以上の取引参加者。それらをまず「外国人」、「証券会社」、「投資信託」、「生・損保」、「長銀・都銀・地銀等」、「信託銀行」、「その他金融機関」という投資主体にそれぞれ定義します。これらは株式投資を含めた資金運用を本業として行っている投資主体です。

(イ) (ア)の分類に入らなかった投資主体を「事業法人」と定義します。ただし政府や地方公共団体、財団法人、特殊法人、従業員持株会、親睦会、労働組合などは事業法人には含めず、「その他法人」として別に分類します。

むずかしくなってしまいましたが、要は外国人、金融機関、投信、その他の特殊な法人を除いたものがすべて事業法人という分類に入ります。私たちが普段からごく普通に見かける「会社」というものはすべてなんらかの事業を行っており、それが事業法人ということになります。

事業法人は資金運用を専門に行っているわけではありません。それでもトヨタや松下に代表されるような財務優良企業は、社内に膨大な余剰資金を抱えており、少しでも利息収入を増やすために、財務部門が中心となって戦略的な資金運用を行っています。運用総額が1兆円もあると、仮に0.1%金利が動いただけで10億円単位で利息収入に差が出ます。またどちらも巨大な輸出企業であるために、為替レートの変動には細心の注意を払っています。為替変動による収益への不利益を極力少なくするために、ドル売りの為替予約を活発に行っています。

さらに最近では余剰資金を使って、積極的にM&Aを試みる会社も現れるようになりました。余剰資金を抱える財務優良企業は、本業以外の部分でも収益の獲得に熱心です。利息収入や受取配当金など金融上の活動で得た収益は「営業外収益」として損益計算書に計上され、経常利益にプラスの作用をもたらすからです。しかしそれでも本業はあくまで別にあります。

1980年代のバブル期には、本業そっちのけで資金運用に熱心に取り組む会社がたくさん出現しました。しかしそのような企業はその後のバブル崩壊で大きな痛手をこうむり、中には資金運用の失敗が原因で経営危機、経営破綻に至った会社もありました。経営破たんまでには至らないまでも、80年代末に購入した不動産や株式の値下がりが不良債権化して経営活動の重石になった会社もたくさんあります。

また事業法人と事業法人、あるいは事業法人と金融機関の間で長期的な視点からお互いに相手の会社の株式を保有しあうことも行われました。いわゆる「株式の持ち合い」です。これは資金運用の一環として行われたものではなく、長らく日本の社会構造として定着していたものでした。しかし90年代を通じて株価が長期下落過程に入ったために、これらの持ち合い株式でも含み損が発生するようになりました。

株価の下落が経営の足をさらに引っ張るようになったために、90年代の中ごろからは事業法人、金融機関ともに、決して売却することのないと見られていた持ち合い株式を市場で売却するようになりました。それがさらに株価の下落に拍車をかけました。

1980年代後半から90年代を通じて起こった日本の社会構造の大きな転換を経て、事業法人が株式市場を通じて株式を購入する行動は、なかばタブー視されるようなムードが生まれるようになりました。しかし一方では2003年ごろから、歴史的に割安となった日本の企業の株価をめがけて企業買収が盛んになります。こうなって改めて事業法人-金融機関の間では、以前のような「株式持ち合い構造」が見直される気運が台頭しつつあります。きっかけは2005年2月にライブドアが行ったニッポン放送へのTOBです。ライブドアの投じた一石は非常に大きな波紋を呼んだということができるでしょう。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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