1. いま聞きたいQ&A
Q

ギリシャ国債はデフォルト(債務不履行)になるのでしょうか?

すでに「秩序だったデフォルト」の状態

EU(欧州連合)が今年(2011年)7月にまとめたギリシャへの第2次支援策は、ユーロ圏各国が1,090億ユーロ(約11兆4,000億円)を緊急融資するとともに、ギリシャ国債を保有する欧州銀行などの民間金融機関に対して、自発的な21%の元本削減を求める内容になっていました。この元本削減は、実際には金融機関が保有するギリシャ国債(既発債)を新発債と交換する形で行われます。

金融機関が自発的に元本削減に応じるとしても、結果として元利金が約束通りに戻ってこないことに変わりはありません。格付け会社では「契約条件で定められた期日に元本あるいは利息の支払いが履行されない」という定義に従って、ギリシャ国債を選択的債務不履行、すなわち事実上のデフォルトに認定する方針です。

このケースのように支援策をともなったデフォルトは、唐突に返済停止を宣言して大きな混乱を招くわけではないため、一般に「秩序だったデフォルト」や「管理型デフォルト」などと呼ばれます。字面からは、あたかも計画的でスムーズなデフォルトが可能なように思えますが、現実にはそうは問屋がおろしません。

例えば先日、フランス・ベルギー系の大手銀行デクシアが破綻したのも、ギリシャの債務削減がきっかけでした。EBA(欧州銀行監督機構)が7月に実施したストレステスト(資産査定)では、デクシアはたとえ経済環境が悪化しても経営の健全性は保たれる、つまりは「合格」とされていました。その際、EBAでは銀行の保有する国債について流通価格が一時的に値下がりしても、銀行が満期保有を前提としていれば元本が戻ってくるため、査定では損失を見込まない考えでした。

ところがその後、ギリシャ国債の21%の元本削減が決まると、こうした論理が通用しなくなります。自己資本に対してギリシャ国債やイタリア国債の保有額が特に多かったデクシアは、市場からの資金調達が困難になり、あっという間に経営破綻へと追い込まれたのです。

元本削減比率を21%から50%に引き上げ

ギリシャの財政再建も遅々として進んでいません。ギリシャ政府は今年10月に、2011年と12年の財政赤字削減が当初の目標通りに達成できないと発表しました。GDP(国内総生産)についても11年、12年ともに前年比で減少する見通しを掲げており、これで2009年から4年連続のマイナス成長となります。

こうしたギリシャ財政のさらなる悪化を受けて、EUでは第2次支援策の抜本的な見直しを迫られることとなりました。EUとIMF(国際通貨基金)は、民間金融機関側の交渉窓口になっているIIF(国際金融協会)との間でギリシャ債務削減の拡大に向けた交渉を進め、10月27日に元本削減比率を当初の21%から50%に引き上げることで合意しています。

損失負担の割合が高まれば、その分、市場の欧州銀行に対する疑心暗鬼も広がることになります。EUではこれ以上の銀行破綻を防止するため、資産劣化が進む欧州の主要銀行に対して2012年6月までに総額1,064億ユーロ(約11兆円)の資本増強を実行し、普通株と内部留保からなる「中核的自己資本」の対資産比率を9%まで引き上げるよう求めています。

しかし、市場では2,000億~3,000億ユーロの資本増強が必要との指摘もあり、不足感は否めません。また、ギリシャ国債とともにスペインやイタリアなど南欧諸国の国債価格も下落傾向が続いており、欧州銀行がいくら資本を積み増しても市場の不安は拭い切れないのが実状です。そのためEUでは、経営難の銀行や財政悪化国を救う安全網としての機能を持つEFSF(欧州金融安定基金)の規模(融資能力)を、現在の4,400億ユーロから実質的に1兆ユーロ(約106兆円)まで拡大することも決めました。

一連の流れを通じて、ギリシャに対するいわば借金の棒引きや、その影響を被る銀行などへの手当て、およびそれらの原資が具体的な数値目標として決まったことで、欧州危機は遅まきながら一息ついたようにも思えます。ただし結局のところ、すべてはギリシャが計画通りに財政再建を進められるかどうかにかかっています

今年7月から10月までのたった3カ月間で事態が深刻化したように、いつまた支援策が行き詰まるとも限りません。その際には、金融機関の自発的な参加にとどまらない、ギリシャ国債の本格的なデフォルトが発生する懸念も残ります。いずれにしても、財政危機を鎮めるために財政負担を増やすというユーロ圏の矛盾した取り組みは、まだまだ道険しと言わざるを得ません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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